揺蕩う猫は私を絆す
藤咲 沙久
前書き◆私の将来設計
昨年までの私には、とある目標があった。
きっと自分は結婚も出産もしまい。そもそも他人と共同生活が出来る自信はないし子供も望んでいない。ならば、実家暮らしの内に貯めれるだけお金を貯めて、自分の力のみで老後に高級老人ホームへ入り悠々自適の生活をしてやろう。もともと真面目に貯金をしていたし、きっと叶えてみせる。
そんな私の発言に「なんて寂しいことを」と親も友達も嘆いたものだ。
最初に言い出したのは27歳の頃だったろうか。確かに早すぎる諦めと言えばそうかもしれない。しかし当時はまともな休みもなく仕事に忙殺され、その中でも必死に出会いの場に赴き付き合った人と結局別れ(いつか触れることがあれば書こう)、わりと疲れきっていた。
もういいや。そんな気持ちだ。今からまた出会って、会瀬を重ね、それでも結婚するかなんてわからない。そもそも想いが通じるとも限らない。その過程は当たり前のことと思いつつも、面倒くさいとしか感じられなくなった。
かくして、一人で生きていくと随分若いうちにすっかり決め込んだのである。なんなら笑ってくれていい。
そんな私も先日30歳になった。未来を見据えた貯金は今も続けている。変わったことと言えば──そうだ、ここからが本題だろう。前置きが長ったらしいのは私の悪い癖だ。
さて、現在の私には将来を約束した猫がいる。
いきなりのことに首を傾げられるかもしれない。安心して欲しい、私も彼も人間だ。将来というのはご想像通り、結婚のことである。
つまりは180度違う将来設計が構築され始めた。これには正直、私自身も驚いているのだ。
“猫”というのは彼の
ひとまず、私のことは“
だが、そもそもこの出会い自体が私にとって隕石にぶつかるくらいの奇跡であった。まったくもって予想外の出来事だ。今時そう珍しい事ではないのかもしれないが、少なくとも私にはあり得ない事件だった。
事実は小説より奇なり。よく言ったものだ。
ならいっそ本当に小説にしてしまおうか、と冗談交じりに猫くんとも話したことがある。我々は偶然にも互いに物書きを趣味としていたので、不可能な案ではなかった。
そんなわけで、まず私が書き始めたのがこの備忘録である。つまり忘れないよう書き留めている段階だ。時系列など知ったことではない。思い出すまま、思いつくまま、私はここに猫くんとの記録を残していこうと思う。
私という人物がどういう存在なのか。
猫くんはいかなる人間なのか。
我々がどう出会い、変化し、歩んでいくのか。
いつの日か小説になるかもしれないメモ書き。そのくらいの気楽さだ。この文章を読んでいる諸君にも、どうか肩の力を抜いてお付き合い頂きたい。
まあ、これはあくまで私の目線で拵えるものなので、猫くんからすれば「間違っている!」と感じることもあるだろう。ある程度はご愛嬌ということで許されたい。
では、何から話そうか。
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