第182話 ウォンと健太(3)

 それでも、自身の宝物。妻、妃をまたしても寝取られた健太だから。ここで相手が、オーク最強の漢。戦士ウォン相手だとわかっていても。彼にも意地とプライドが。


 そう。二国の皇帝、覇王としてのプライドが健太にはある。だから彼は、たかが一国の一領主相手に、恐れ慄き怯む。後ずさり。退却。尻尾を巻いて逃げる。背を向ける訳にはいかないのだ。


 だから健太もウォンに負けず、劣らず。


「僕の妻を返せぇえええっ! ウォンー! アイカは何処にいるー? いるの、だぁあああっ⁉ とっつと、今直ぐ返せよぉおおおっ! この泥棒がぁあああっ!」


 この場にアイカいれば泣いて喜び、歓喜を上げ。


『あなたぁあああっ! 大好きー! 愛しているー! いるわぁっ! あなたぁあああっ! だから今直ぐ私を抱き締めてぇっ! お願い! お願いよ。ダーリン!』と。


 両手を上げ、『バンザイ! バンザイ! バンザイ!』と、三唱をあげるぐらい歓喜する言葉を、健太はウォンへと悪態をつきながら。アイカを今直返せてと迫っているのだが。


 彼女はここにはいない。いないのだ。


 アイカ自身は流石に、夫への二度目の浮気行為、不倫、裏切り。


 それが、ウォンによる強引な物だとしても。夫健太にいくら事情説明。許しを乞うても。必ず許して貰えないと思い込んでいるぐらい。


 実は健太のことが怖い。畏怖。怯えている状態なのだ。


 だから密林のジャングル入り口手前で、自分の許にやっと戻ってきたアイカをウォンは逃がす為に。敗残兵を率いりアイカを逃がす為の時間稼ぎを彼はしているのだ。


 だから健太が「うりゃぁあああっ! うりゃぁあああっ! わりゃぁあああっ!」と、掛け声。気勢をあげ叫びながら。


 自身の両手で握る槍を、突き! 突き! 刺し──!


 と、攻撃をしてみせても。


「うぉおおおっ! うぉ、りゃぁあああっ!」


 〈ガン!〉と。


 鈍い鋼の金属音を出しながら弾いてしまうのだ。

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