第140話 主、王の前にて……(5)

 そんな女王アイカの顔を彼女よりも小さい掌が。女王アイカのしなやか首へ忍び寄るように伸びてくる。くるからね。女王アイカ自身もそれに、健太の掌に気がついて『あっ!』と、思うのだが。思った時には、もう遅い。既に終わっているから。


「うぐっ、あがっ、うぐ、ぐぐ……」と。


「はっ、うっ、うぐ、く、苦、苦しい……」と、掠れた声。


「はぁ、はぁ、はぁ~。はぁ、はぁ、ああ……」と、荒い息遣いが。


 女王アイカのくちから苦痛、悲痛な声、台詞と共に吐かれる。漏れてくるのだ。自身の主、夫である健太から無抵抗のままで女王アイカは喉元を掴まれ、握られてしまっているようだからね。


 そう、余り感情を表に出さない。いつもニコニコ朝陽、日輪のような美少年王健太が、今は魔王の如き恐ろしい形相で、女王アイカを。自身の妻を嫉妬心から憎悪を募らせ、蓄え過ぎて、平常心を装うことができなくなり。彼の本当の正体だともいえる。平然と人を生きる物、者達を根絶やしにできる悪しき心と想い。憎悪を剥き出し。曝け出しながら。魔王! 覇王! の如き形相で、自身の妻を冷たい。冷淡な目で見詰めながら。女王アイカの細くてしなやかな首を絞め始めるのだよ。彼女が声を漏らすことができない程の握力で首を絞めるのだ。


「誰がぁあああっ! 誰がぁあああっ、悪いってぇえええっ! アイカぁあああっ!」、


「もう一度! その口で僕に……」、


「いや、俺に言ってみろ! 告げてみろ! 悪態をついてみろぉおおおっ、アイカぁあああっ!」と。

 健太らしくない、荒々しい口調……。



 そう、まるで只今、牢へと連行をされているウォンの如き振る舞い。声色で、女王アイカへと憤慨しながら怒声を放ってくるものだから。

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