第54話 当たりがでる
俺たちは博士から補聴器型のトランシーバーを渡されていた。博士のお手製で、市販されている新製品よりも小型だ。
ふたりでの通信はすでにテスト済みだったが、三人でもうまく機能するか確かめるという。
トランシーバーの機能は良好だった。ほとんど自然な会話ができる。
俺たちはトランシーバーで遊びながら、二箇所にカメラを設置し終わっていた。いまは三箇所め、閉鎖されたライブハウスの前だった。
夜中の鳴田は静かだ。たまに車が通るぐらいで人通りはまったくない。
ライブハウスは住宅地から離れたうら寂しい場所にあった。四車線の道路の向こうに、薄汚れた抜け殻のような建物が横たわっている。
ここが終わったら残り、可能性が低いという四箇所にも、カメラを設置しなければならない。
カメラ設置作業は順調に進んだ。
ブレスレットがセツと博士に反応してピッピッと鳴っている。
セツが言った。
「それ、うるさいな。気をつけないと。場合によっては敵に気づかれるぞ」
俺は肩をすくめた。
「いま夜中だから余計に音が響くけどな。これがないと知らないうちにヤバいことになるぜ。諸戸の一味と戦うとなったら次元接続体が一箇所に集まる。何人ぐらいが限界かは確かめておかないとな」
博士が工具をしまいながら言った。
「わたしは思うんだが、人数の問題じゃないのかもしれない。だから呉羽氏は具体的な人数を言わなかった」
「人数じゃなきゃなにが基準だ?」
俺の問いに博士が推測を述べる。
「多次元接続の総量だよ。次元接続体はおそらくひとりひとり多次元接続の量が違うんだ。力が強力な者は多次元接続の量が多く、力が弱い者は接続の量も少ないと予想できる。多次元接続の総量が一定値を超えると、狭間から来たるものの通路が開く。だから人数じゃないんだ。この考えは理屈に合う」
俺はあごに手を当てた。
「なるほど。じゃあやっぱり実際に諸戸の一味全員と接触してみないとわからないってことか。とりあえず諸戸の一味だけなら集まってても狭間から来たるものは来ていない。俺たち、いや接触する可能性が高いのはセツだけか。人数じゃないっていってもセツひとりくらいなら大丈夫そうだけどな。博士はできるだけ離れて指示したほうがよさそうだけど」
「わたしもそうしようと思う。わたしは肉体的には弱いし、近づくのは二重の意味で危険というわけだ」
セツが言った。
「危険だったらわたしはテレポートで即座に離れられる。そのときは敵のまんなかにおっさんひとりだけ置き去りになるが、まあそうなったらなったで頑張ってくれ」
「俺だって簡単にゃやられねーぜ! しかしちょっと不安だな。やつらのなかでも戦闘力のあるやつと、戦いが得意じゃなさそうなの、別々にとっつかまえたいな。それなら危険は少なくなるだろうし……」
博士が突然、鋭く囁いた。
「ライトを消せ! 伏せろ!」
俺たちは素早く言われたとおりにする。
闇のなかで、博士は道路の向こうを指差した。
「蕪屋雫だ」
まばらな街灯の下、白いレジ袋を持った小柄な人影が歩いていた。金髪だ。俺の目じゃ見分けはつかないが、博士が言うなら確かなんだろう。蕪屋雫が歩いている。おそらく少し離れたところにある唯一のコンビニで買い物をしてきたに違いない。
セツが身につけている刀の鞘を握った。
「ここが当たりだったか」
俺も頷く。
「偶然ここを歩いてるってことはねえだろうな……」
俺たちが身を潜めて見守るなか、蕪屋雫はライブハウスの出入り口を開けて入っていった。扉を開いたときだけ明かりが漏れた。ちゃんと遮光の備えがあるらしい。
蕪屋雫が消えたので、俺たちはライトを点けて身体を起こした。
俺は言った。
「いま俺たちは三人揃ってる。体力も満タンだ。向こうは寝てるやつも多いかもしれない。チャンスってやつじゃないのか」
博士が唸った。
「拘束具は車に載せてあるが……」
セツも乗り気の様子だった。
「明日になったらやつらは移動してしまうかもしれません。おっさんのいうとおり、いまがチャンスです。どのみちいつかは正面対決になるんですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます