第5話 指輪

 あやえるは足が不自由なので、いつもよちよち歩きで歩くのが遅いせいなのか、よく男性に声をかけられます。


 あと、職場は男性社員様がとても多いです。


 一応、“恋人います”と、目印になるように三百円の指輪を自分で買ってつけていたのですが、やっぱり好きなは人からの指輪って憧れちゃいませんか?


 初カレ様に「いつか百円でもいいから初カレ様から指輪プレゼントされたら、あやえるとってもしあわせです!」と、お話していました。


 十六年越し。復縁して一年目のあやえるのお誕生日。


 初カレ様は、お気に入りのイタリアンレストランのピザやサラダやペンネやケーキをテイクアウトで準備して下さっていました。


 ケーキを食べ終わってまったりしていると、「お誕生日プレゼント。」と、小さな袋を渡されました。


 中には、小さな箱……とゆーかそこそこ有名で敷居高めのジュエリーブランドじゃないですか?!


「あ、あの……前に退院祝いにネックレスをプレゼントしていただいたのですが……。」

「それとこれとは別。」


 ドキドキしながら箱を開けると……水色の綺麗な石がたくさんついている指輪が……。


「退院祝いの時は、指輪のサイズわからなかったから。あと、店員さんに『うちの子、多分死ぬまで外さない、とか言う子なんです。』て、言ったら『では、お誕生日石のこちらのデザインはいかか?』て、たくさん石入ってるし、服とかにも引っかからないやつにしたんだよね。」


 百円の指輪でも初カレ様からなら、尊すぎるくらいなのにっ……。


「指輪!はめてください!」


 ドキドキしながら右手の薬指にはめてもらうと、ゆるくて落ちてしまいそうでした。

 

「あれ?まあサイズ変更もできるみたいだから。」

「嫌です。指輪と離れたくないです。左手薬指につけてみてもいいですか?」


 すると、左手薬指にはジャストフィット。

 やったぁ!よかった!……あれ?でも左手薬指は……。


「あ、でも左手薬指て……その、すみません。」

「いや、別に。」

「だって、そういう意味じゃなくても……そういう指だし……そのその、でも左手薬指に指輪つけててもいいんですか?」


 すると、初カレ様から……まさかの無言のキス。


 いつも初カレ様からキスしてくれる事なんてないのに……。


「……あやえる結婚しなくても、初カレ様といられる事が、しあわせ過ぎる極みなのです。

 だから、これからもずっと一緒にいて、もし結婚となっても、ブライダルリングも結婚指輪もあやえるはいりませぬ!

 あやえるは、死ぬまでこの指輪だけでいいです!この指輪がいいです!一生外しません!

 もしあやえるが、水死体とか身元不明な遺体になっても目印は、初カレ様からのネックレスと指輪です!軍人様がつけているネックレスのように!

 このまま火葬して下さい!」

「……ドッグタグね。」


 ちなみに初カレ様は、「店員さんに、『案の定、一生外さないって言われるし、喜ばれる所かむしろ火葬して下さい。って言われましたって、報告しに行かなくちゃね。」と、笑われてしまいました。


 ……ふぬぅ。他の綺麗な女の人とお話されるのは、ちょっとジェラシーです。

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