タッチの差 4
「あららら~。それは残念だったね」
お酒の缶がたくさん乗っているテーブルに突っ伏してやさぐれている私を、ケタケタと笑う楓。
昨日、あれから結局ミルクティーを一杯飲んだだけでお店から逃げる様に帰って来てしまった。(BLTサンドは持ち帰って食べた)
どう言う事かと一晩考えて、朝起きて考えて、仕事中も考えて。(←おい
でも全く頭と心の整理が付かなくて、仕事の帰りにこうして楓の家に来てやさぐれながらお酒を飲んでいる。
「よりにもよって、あんな美人雇うなんてさぁ……」
なにが一番引っかかっているかと言うと、やっぱり一番はそこだった。
ミルクティーを飲みながらチラチラ見たけど、とても美人だった。
カラカラとよく笑い、お客さんの事もよく見ていて気が利いてるとも思った。
実際、お店に来ていた男性客はみんなあの人を目で追っていたし、三毛さんも働き者だと褒めていた。
……救いは、アールが懐いていないと言う事だけだ。
「まあまあ、三毛さんは興味ないんだし、関係ないじゃん。その人が続くかどうかも分からないんだし、とりあえず様子見ときなよ。……辞表出す前で良かったね」
「……うん」
結局、辞表は出さず仕舞いで終わった。milk teaで働けないんだったら、今の会社を辞める理由がない。
「でも、三毛さんはその気なくても、向こうが好きになっちゃったら?そんで強引に迫られて、もし何かあったら……」
私は想像しただけで恐怖を感じ、握っていたお酒を一気に煽る。
「う~ん……。その可能性は無きにしもあらず」
楓が顎に手を置いて考え込んだ。
「はぁ……本当にそうなったらどうしよう……」
「そうならない様に、気を付けてないとダメかもね~」
他人事の様にフンフ~ン♪と鼻唄を歌いながら楓が何かパソコンに打ち込み始めた。こないだまでパソコン画面とにらめっこ状態だったのに、その不調がどこ吹く風の様に、珍しくタイピングの手が止まらずに動いている。
「……新作?」
「え?……まあね」
ニヤッと笑いながら、こっちを向いた。
「ふ~ん。本になったら買うから」
「はい!よろしくお願いいたします」
楓は『買う』と言う言葉に瞳を輝かせ、ピースサインを出した。
ゲンキンなやつめ……。
さっきの『ニヤッ』とした顔がなんか引っかかったけど、せっかく筆が乗っているのに水を指す様な事はしないでおこう。
「今日、泊まってく?」
「……いいの?」
「うん。愚痴聞く位しか出来ないけどね。それに、そんなにお酒飲んでるんじゃ帰るのしんどいでしょ?」
「ありがとう」
こうなったら、寝るまでトコトン不満を聞いて貰おう。
「よし!じゃ、あたしもちょっと休憩ー!飲むか!」
「うん……」
飲み干している缶を楓がごみ袋に片付け、冷蔵庫から新しいお酒を出してくれた。
次の日、二日酔いで出勤した事は言うまでもない。
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