タッチの差 2
「こんばんは……」
カラン――と、少し遠慮がちに鈴の音を響かせてドアを開けると、まず紅茶の優しい香りが私を出迎えてくれる。
「いらっしゃ……実森さん、お久し振りです」
鈴の音に反応した三毛さんがこちらを振り向き私の姿を確認すると、少し驚いた表情をみせた後にゆっくり微笑んでくれた。
(あ……)
たった一週間会えなかった位で、泣きそうになった。
「お久しぶりです」
はやる気持ちを抑え、私はお辞儀をしながらいつものカウンター席に腰を下ろした。
「一週間振り位ですか?」
腰を下ろしたと同時に、そう言って三毛さんがおしぼりを渡してくれる。
「はい。なんだか急に仕事が忙しくなりまして。でも今日で一段落したんで、来ました」
おしぼりを受け取り、今までの経緯をザッと説明する。
「そうでしたか。お疲れ様でした。いつもので宜しいですか?」
「あ、はい。お願いします。あと、BTLサンドってまだありますか?お腹ペコペコで……」
夕飯を食べていない私のお腹の虫は、さっきから食べ物を要求し続けていた。
しかも今、走ってここまで来たもんだから鳴り止まない鳴り止まない。
「はい。まだありますよ」
「あ、良かった!じゃあ、それも一緒に下さい」
「かしこまりました」
BLTサンドも絶品で、結構早めに売り切れちゃう商品だからこれは嬉しい。
いつもの様に、私のお気に入りのカップを用意してくれる。
「ニャーン……」
声のした方を見ると、アールが足元にちょこん、と座っていた。
「アールも久し振りだね。元気にしてた?」
足にすり寄って来たアールを、膝の上に抱き上げる。
喉元を撫でてやると、目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らした。
「ニャーン」
「そっか。それなら良かった」
どうやら元気にしていたみたい。
しばらく頭を撫でていると、突然アールが私の膝から降りて、いつもの窓際のベッドへと戻ってしまった。
こちらに背を向けて、丸くなる。
「アール?どうしたの?おいで?」
声をかけても、尻尾すら動かさない。
どうしたんだろう……?
「……三毛さん。アール、なんか機嫌悪くないですか?」
ティーポットにお湯を注いでいる三毛さんに、尋ねた。
「ええ、まぁ……」
三毛さんが、私の質問になんとも表現し辛い笑顔を浮かべる。
「何か――」
あったんですか?そう尋ねようとした瞬間――、
「マスター?仰っていた茶葉ってこれで合ってますぅ?」
と、茶葉の缶を両手に持ちながら、従業員専用の入り口から一人の女性が入って来た。
(――え?)
見た事のないその女性は三毛さんの元に駆け寄り、持っている缶を見せた。
(だ、誰!?)
私はビックリして、言葉に詰まる。
「ええ、合っていますよ。一つをそこの棚に入れて、もう一つはそっちの部屋に置いておいて下さい」
「はーい」
間延びした返事をしながらその女性は、三毛さんが指差した部屋へと消えて行った。
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