第137話 本当は強いぞ! 通信指令・アルゴム!!

 ゴンゴルゲルゲの豪拳が唸る。


「ぬぅぅぅおぉぉぉぉぉぉ!! 『ギガフレアボルトナックル』!!!」

「いいですよ! ゲルゲさん! カッコいい!! はい、次はブロッサムさん! 火を噴いて! 火を!! 全力で! 頑張って! やれるやれる!!」


「心得たでござる!! 吾輩も何かカッコいい技の名前を考えておくべきでござった!! とりあえず、火炎放射でござる!! グォオォォオォォッ!!!」


 ゴンゴルゲルゲとブロッサム。

 彼らは徹底して炎による攻撃を続けた。


 ゴンゴルゲルゲには炎による攻撃しか選択肢がないものの、ブロッサムは初手に撃った翼による突風や、牙や爪による斬撃も可能。

 だが、鉄人は2人にとにかくザラタンの足目掛けて、熱による攻撃を続けさせる。


「ふぉぉぉぉぉ!! 『ローリング・スパイクタートル』!! あっ、あつ! あっつい!!」

「ぐげげげげ! なんだか哀れになって来たぞ! この羽虫どもが! その程度の攻撃にオレ様が怯むとでも思ったか!?」


「ひょー! もう巨大系の敵の常套句じゃないですか、それー!! すごいなぁ、異世界ものって! もしかして、あれ書いてる作家さんってみんな異世界に取材に行ってるのかな? リアリティがすごいもんねー!!」


 鉄人は感想を早口で述べながら、両手に冷気を充填する。

 もちろん、魔の邪神の魔導書が出典の由緒正しい冷気魔法。


「よいっしょー!! 『クライオニック・サスペンション』!! そぉぉぉいっ!!」

「ぐげ!? 小癪な事を……! 足を一本凍り付かせたからと言って、悦に浸るな!!」


「やだー! もう負けフラグビンビンですよー!! じゃあね、僕も語っちゃおうかな! アツアツに熱したところを急激に冷やすとですね! そこが脆くなるんですよ! 理屈は知りません! 異能力バトルの漫画に描いてあったので!! ゲラルドさん!!」


 桃色の盾は何度踏みつぶされても立ち上がる。

 頑丈さと鉄壁のガードこそが彼のアイデンティティ。


「承知!! ふぉぉぉぉぉ!! 『ローリング・スパイクタートル』!! からの! もう一度!! 『ローリング・スパイクタートル』!!」

「ぐげげげ!! 滑稽! 滑稽!! 今度こそ踏みつぶしてげりゃぁあぁぁぁぁっ!?」



「すごい! 漫画みたいに本当になった!!」

「て、鉄人様!? 確信を持っておられたのではなかったのですか!?」



 ザラタンの右足が粉々に砕かれ、超巨大な亀はバランスを崩して倒れる。

 その衝撃は凄まじく、サンボルト砦にも被害が出た。


 鉄人たちは彼の作った防御魔法でそれを防ぐ。


「さて。このカメックス、どうしましょうかねー? 動けないですもんねー? そりゃ、見るからに重たそうですもんね! 足の一本がなくなっただけで、バランスなんて取れませんよねー!! うふふふふ!」


「ぐげっ!? あ、あああっ!!」

「じゃあ、トドメ指しちゃおっかなー!! よいっしょー!!」


 鉄人は再び手の平に魔力を集中させる。

 が、そうして作った魔力球をポイと上空に放り投げた。


「なーんてね! ザラタンさん、反省したでしょ? 僕、無抵抗の相手をいたぶる趣味はないので! そのまま反省を続けてくださいね!」

「ぐ、ぐげ……。なんと慈悲深い……」


「よーし! とりあえず、兄貴に報告しましょう!」


 背を向けた鉄人。

 ザラタンはその隙を待っていたのだ。


「ぐげげげ!! オレ様がただデカいだけのモンスターだと思ったか!? 口から魔力砲が撃てるのだ!! 死ね、バカな人間よ!!」

「て、鉄人様ぁ!!」


「あーあー。やっぱりこうなっちゃうんだー。本当にテンプレ通りですね、ザラタンさん。問題です、さっき僕が作った魔力の塊。どこに投げたでしょう?」

「ぐ、ぐげ?」


 上空から、魔力で作られた槍の雨が降り注ぐ。


「ぐげががががががががっ!? ふげが! い、いだい!! ま、待て! 許して!! オレ様、動けない……!!」

「あららー? ご存じない? ニートはね、受けた恩を絶対に忘れないんですけどね。意地悪されたら、それもずっと覚えてるんだよなー」


 鉄人が振り返ることはなかった。

 ザラタンの甲羅を無数の槍が貫き、魔力が漏れ始める。


 やがて、ザラタンは元のサイズ。1メートルほどの亀に戻った。

 慌てて逃げていく亀を、鉄人は追おうとはしない。


 亀にかけるには情も時間も惜しいのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、その頃。

 鬼窪玉堂率いる「魔王城カチコミ隊」がそろそろ目的地に到着しようとしていた。


「おどれらぁ! 気合入っちょるかいのぉ!?」


「オレぁやるぜ!! 旦那にご恩を返すんだ!!」

「愚問。我は主の命に従うまでの事」


「おう! ええ返事じゃのぉ! もう魔王城はすぐそこじゃけぇ! このまま突っ込むで!!」

「ちょい待ち! 鬼窪さん! 下から魔力が飛んでくるぞ!!」


 ギリーの機転のおかげで、鬼窪は魔力の弾を寸でのところで回避する。

 冷や汗を拭いながら地上を見ると、そこには。


「悪いが、あなたたちにはここで私の相手をしてもらう!」

「ありゃあ、通信指令のアルゴムじゃねぇか! あ、あいつが今の魔力弾を撃ったってのか!?」


「どがいなっちょるんじゃあ!? ありゃあ、大魔王の雑用係じゃろがい!!」

「くははっ。まさか、爪を隠した鷹が潜んでいたとはな」


 魔王軍通信指令・アルゴム。

 彼は痩身の魔族であり、これまでも1度として戦おうとした事はなかった。


 それは「本当に大魔王様の危機が訪れた時」のため、牙を隠し爪を研いでいたからである。


「無理やりにでも降りて来てもらうぞ! ……はぁっ! 『サンダー・レイン』!!!」


 晴天が基本のコルティオールにおいて、朝から空を覆っていた暗雲。

 これは、アルゴムが全てを見越して用意しておいた仕掛けであった。


「がぁっ!? なんじゃ、あのモヤシ!! 雷を操っちょるんか!? こりゃ堪える!! おどれら、地上に降りるで!!」

「なんてこった! アルゴムがこんなに強いなんて……! オレは全然気付けなかった!!」


 地上に降りた3人を、アルゴムが歓迎した。


「何も恥ずべきことはありませんよ、ギリー様。私は大魔王様の隠し剣。私の存在が公になる時は魔王軍の真なる危機。できれば、このように私が戦場に立つ事は避けたかった……。あなたたちとも、ずっと友好関係を築いていたかった」


 ギリーは元より、メゾルバですらアルゴムの言葉に耳を傾ける。

 が、鬼窪は極道時代の経験から、既に動いていた。


「おどれら!! なにを油断しちょるんじゃ!! ボケェ!! ようモヤシの手ぇ見んかい、ごるぁ!! おらぁ! 『魔弾装填回転式拳銃マジック・リボルバー』!!!」


 鬼窪の放った魔弾は、アルゴムの手から放たれた雷撃によって相殺される。


「さすがです、鬼窪様。あなたは欺けませんでしたか」

「ちぃっ! おどれら、気ぃ入れ直せや!! このモヤシ、強いで……!!」


 通信指令・アルゴム。

 彼は長きにわたり大魔王ベザルオールを支えて来た男。


 好きな世界名作劇場は『ペリーヌ物語』で、最近は『ゆるキャン△』にハマっている。

 推しはリンちゃんと恵那ちゃんのカップリングである。

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