家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第135話 桃色の片思い ~軍師・春日鉄人、桃色の盾・ゲラルドを仲間に引き入れる~
第135話 桃色の片思い ~軍師・春日鉄人、桃色の盾・ゲラルドを仲間に引き入れる~
サンボルト盆地にある、魔王軍の砦では。
「待て! お前たち、待て!! 一回だけ待って! お願い!! 私の話を聞いてくれ!!」
黒き盾改め、桃色の盾・ゲラルドが。
「うるせぇ! この裏切り者が!! おい、全員で囲め、囲め!!」
「大魔王様の魔力で生まれた恩を忘れやがって! とんでもねぇヤツだ」
「このピンクのお花畑野郎!! 恥を知れ!! このピンク亀!! ピンク! ピンク!!」
砦にいるモンスター約1000匹から追いかけられていた。
「くぅぅ! お前たちに忠義心はないのか!? 私はお前たちの上官だぞ!!」
「てめぇこの野郎!! どの口が言いやがる!!」
「大魔王ベザルオール様を裏切るって堂々と宣言したのはピンクだろうが!!」
「恥を知れ! このピンク! お前に味方するバカが魔王軍にいると思うな!!」
モンスターたちの言い分が10割を超える勢いで正論であった。
10割を超えていく正論とか、もうそれはただ事ではない。
「だ、だが! 女神軍の農場には娘が!! いった! ちょ、石投げたの誰だ!? まずは話し合いでしょうが!! 痛い! ちょ、おい! ヤメ、ヤメて!!」
「なーにが、娘が! だ、この亀野郎!! よりにもよって性欲に負けてんのか!!」
「そこはせめて野心のために謀反を起こせよ!! 恥ずかしい! 我らも恥ずかしいわ!!」
「恥を知れ、恥を!! 何が悲しくて我らはピンク亀を討たねばならんのじゃい!!」
色が変わって桃色の盾になったが、ゲラルドの盾は鉄壁。
が、いくらなんでも相手が多すぎる。
さらに、ゲラルドには部下を思う心がまだ残っているが、部下たちには上官を思う心が1ミリグラムも残っていない点が悲劇に拍車をかけていた。
「話聞いて!」「黙れ!!」の押し問答が、既に20分ほど続いている。
そんな砦の外に彼らが到着した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぬぅ。妙でございまするな。ここに来るまで、一度として敵の増援がありませんでしたぞ」
「それどころか、鉄人殿。ゲルゲ殿。見るでござる。砦に門番すらいないでござるよ」
「これは何か、巨大な陰謀の匂いがいたしまするな!」
「確かに! 大がかりな罠の可能性を考えるべきでござろう」
ゴンゴルゲルゲとブロッサムの意見はある意味では正しい。
戦争において敵が見せる異変。
それを見てまず考えるべきは「罠の存在」である。
この3人は300を超えるウェアウルフの軍勢を無力化している。
その様子を砦の指揮官が見ていたとすれば、「正攻法では厳しいから、搦め手に打って出よう」と方針変更するのも理解できる。
だが、春日鉄人は生粋のニート。
人に飯を奢ってもらうためには裏の裏の裏の裏をかいて、結局表になったりもするが、3年ぶりに会った同級生にやよい軒のサバの味噌煮定食を奢ってもらうためならば15パターンの口説き方を用意する軍略家。
そんな彼の培ってきた直感が鋭く光る。
「……思うんですけど。これ、普通に内紛が起きてませんかね?」
春日鉄人、敵の砦に到着して1分で真実にも辿り着く。
彼がそう考えるのにはいくつかの理由があったが、その最たるものは、強化した聴力で耳に届くモンスターたちの怒声。
戦を前に興奮している様子ではない。
明らかに誰か1人をやり玉に挙げて、大勢による悪口合戦の様相を呈している。
ところどころ聞こえて来る単語を集めて、鉄人はさらに推理を進めた。
「女神軍」「娘」「清らか」「ピンク亀」「くたばれ、ピンク亀」「エロゲラルド」と、これだけの材料が揃えばもう推理するまでもない。
「この間戦った亀の人が、どうやら謀反を起こしたみたいですね。しかも、うちの柚葉ちゃんが原因みたい。あららー。ちょっとだけ気の毒だなぁ」
「亀と言う事は、恐らく黒き盾・ゲラルドでござろう……! 彼の者は四天王で随一の実力者と聞き及んでいたでござる。まさか、前線基地に控えていたとは……!!」
「その実力者が今、砦を追われておるのでございまするか? 戦争状態の現状を鑑みれば、とても得策とは思えませぬが」
「いやー。世の中、アレですね。お互いになかなか上手い事行かないんですから。今回は敵さんに軋轢が生まれた事実を認めて、ここはプラスに考えましょう!!」
ニィッと笑った鉄人を見て、なんだか嫌な予感のする脳筋コンビ。
一応、口に出して確認してみることにした。
「まさか、鉄人様ぁ!? 亀を仲間に引き入れようなどと……!?」
「い、いくらなんでも危険でござる!! 味方のふりをして吾輩たちの内部に取り入り、暴発するつもりかもしれぬでござるよ!!」
「まあ、その時はその時で! とりあえず、この混乱を利用できないようじゃ軍師は、いや! ニートは名乗れませんよ!! さあ、砦に向かって呼びかけましょう!!」
春日鉄人の高度な交渉術が展開されようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「わ、私はお前たちを傷つけたくない! いった! ちょ、岩投げるまでする!? どこにあったの、この大きな岩!! まさか、私に投げつけるためにわざわざ探して来たのか!? 酷いなぁ! あんまりじゃないか!!」
「黙れぇ! お前のせいで、我らは下手したら謀反人の一味にされかねんのだぞ!!」
「こうなったら、謀反人の首を持って大魔王様の元へと参る他なし!!」
「恥を知れ! このピンク!! 恥を! ピンク!! 恥ピンク!!」
砦の中は既に収拾がつかない事態になっており、目も当てられない。
ゲラルドは焦る。
「今、こうしている間にも、あの娘の身に危険が迫っているのでは!!」と、まるで物語の主人公になったような事を勝手に夢想して焦っていた。
そんな時、飄々とした声が砦に響き渡る。
『えー。どうもー。聞こえてますかねー? こちらは、皆さんが言うところの女神軍でございまーす。一応、軍師とかやってます、春日鉄人でーす。恐らくですが、指揮官の亀さん。もう後戻りできませんよねー? だったらいっそ、僕たちと一緒に農場に向かいませんかー? 歓迎しますよー!! とりあえず、5分ほど外で待ってまーす!!』
ゲラルドは考えた。
何を捨てて、何を得るべきか。
答えはすぐに出た。
目の前の部下たちは話すら聞いてくれずに石を投げつけて来る。
よしんばこの先、話を聞いてくれたとしても、多分より大きな石を投げつけられるだろう。
——ならば。
「さらば、我が部下たち!! どけぇぇぇぇ!! 『ローリング・スパイクタートル』!!」
ゲラルドが体を丸くして、甲羅からトゲを突き出し高速で回転する。
そのまま勢いをつけて、砦の4階の壁をぶち破ってダイブした。
「自由へのダイブはとても爽快で、背中に羽が生えたようだった」とは、のちのゲラルドの言葉である。
ゴンッと音を立てて地面にぶつかった桃色の盾は顔を出し、鉄人の前に跪いた。
続けて、その桃色の心情を吐露する。
「この桃色の盾・ゲラルド! 故あって、貴公らの軍勢に加わりたい!! 疑われる気持ちは無論理解できる! 腕の一本でも切り落とされる覚悟!!」
「あー。大丈夫です。そういうのは僕のキャラじゃないんで。歓迎しますよ! ゲラルドさん!!」
軍師・春日鉄人、迷える亀を拾う。
だが、砦のモンスターたちにもメンツと言うものがある。
「このままピンク亀野郎を逃がすな」と、全軍を挙げた総攻撃がまさに始まろうとしていた。
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