第30話 生徒会の本質


 栞の予想通り、ホームルーム終了後に先生は俺の元にやって来て「放課後生徒会に来て貰える」と、言われる。

 この妹の能力は時々予言じゃねえの? と、思える程だ。


「先生私も行きます」

 そして言うタイミングまでわかっていたのか? 先生の背後から被せる様に栞がそうだなあ言った。


「え? えっと」

 驚きの表情で慌てて振り返る先生……そりゃ驚くよね。


「ボランティアの件ですよね、私も協力しますよ」


「え? えっと……そ、そうね、じゃあ二人で」


「はい」

 先生は俺を見てなんで知ってるの? と、目線でそう言うも、俺からは何も言ってませんと首を振った。

 当初この話が出た時俺は栞のダシだと思ったが、この先生の反応を見るとどうやら違った様だ。

 そして放課後、栞は周囲に用があると言い、俺と一緒に生徒会室に向かう。


「今日の事誰かに聞いたのか?」

 今日生徒会の会議に呼ばれる事をなぜ知っていたのか改めて聞く。


「生徒会の会議は月曜日にあるのと、今の議題は周辺のボランティア活動だって事は知ってたよ」


「へえ」


「まあ、何も進んでいないみたいだけど、本当にやる気あるのかな? って言ってた」


「だ、誰が?」


「友達が」


「へえ……」

 栞にはありとあらゆる情報が集まってくる。

 そして栞はそれを頭の中で瞬時に整理して保存している。

 そしてその情報を利用する事により、友達の悩みを解決したり、争い事を事前に防いだりしている。


 逆に言えばこの妹を怒らせると……誰にも止める事が出来ない。



「生徒会って3人しかしいないんだっけ?」

 恐らく入学式の時に会長以下生徒会メンバーが紹介されている筈なのだが、俺に入学式の時の記憶は無い……。


「生徒会は全員2年生で、会長がお兄ちゃんも好きな那珂川 葵なかがわ あおいさん、副会長が市川 瑞希いちかわ みずきさん、書記が町屋 夏海まちや なつみさんの3人」


「いいい、いや、別に俺は会長はなんとも」


「ハイハイ、美人でスタイル良くてお兄ちゃんのエッチな本人よく出てくるような人だもんね、ふん」


「いやいやいやいや……えっと……そ、そう言えば栞って中学の時に生徒会長に推薦された事なかったっけ?」

 とりあえず、俺は誤魔化す様に話を変えそう聞く。


「うーーん、されてたけど、断った」

 まあこの妹なら生徒会長くらい余裕だろうなと思いきや断ったと言われ、断る理由ってなんだろうと興味本意でつい聞いてしまう。


「へーーなんで?」


「お兄ちゃんを見る暇がなくなるから」

 ……皆からの推薦を断る理由がそれですか……。


「あーーそうですか……」

 二の句が継げない……。


「うん、私のライフワークだからね」


「ライフワークが俺を見ることって……」

 妹とは、一度真剣に話し合った方が、良いんじゃないだろうか?


「はい到着」

 生徒会室の前に着くと栞は躊躇う事なく扉を叩いた。


 直ぐに中から「どうぞ」との声、栞は半歩横に移動し俺にどうぞと手を出した。


「失礼しまーす」

 そう言って扉を開け中に入ると、すでにさっき言われた生徒会全員が部屋に揃っていた。

 ……はええなお前ら授業受けてたのか?


「こんにちは、裕さんに、栞さん、ご苦労様です」

 明るくいつものアルカイックスマイルで挨拶をする会長、この人が喫茶店でのあの振る舞いをしていた奴と本当に同一人物か? と疑ってしまう。


「こんにちは」

 俺と一緒に妹も明るく挨拶をする。何か色々と思う所があるのだろうけど、妹はとりあえず大人しく挨拶していた。


「まだ先生がいらっしゃってないの、生徒会主導で行う事になってるので、抜きで初めてもいいのだけれど、一応今回が実質初回ということで、参加したいとおっしゃってたので、いらっしゃるまで待ってていただけますか?」


 俺がうなずくのを確認して、書記の町屋さんにお茶を出すように言う。


 というか、生徒会室にお茶の用意って普通あるのかな? そもそも生徒会室なんて漫画やアニメでしか見た事が無い。

 俺の中で生徒会室事態が都市伝説となっている。


 まあ……某軽音部でもお茶しているし、戦車の中で紅茶を飲む女子高生もいるのだからお茶の用意くらい普通かと自分で納得し栞がいれてくれるお茶よりも数段劣るお茶を一口だけ口にして待っていると、白井先生がツインテールを弾ませて部屋に入ってくる。


「遅れてごめんさない」

 先生は俺と目を一瞬だけ合わせ、軽く微笑むとそのまま席に着く。


 一瞬、妹がビクッと身体を震わせていたが、見てない事にした。


「では、揃った所で始めましょうか」

 遅れて来たお前が言うか? という突っ込みも無く淡々と会議が始まる。


 まずは今回の集まりの趣旨とその経緯の説明が先生よりされた。


 それをここでつらつらと挙げると、なんの面白みも無いので簡単に説明する。


 まあ要するに、ボランティアを学校でなんかしらやって、それをまとめてレポートを提出しろと、教育なんちゃらのお偉い方々から先生が言われたって事らしい。


 まあ、若手教師がめんどくさい仕事を押し付けられ、生徒会に丸投げしとけって事だな。


 ほんと生徒会って日頃なにしてんのかと思ってたけど、こんな事してんだな……お茶飲んでだべってるだけだと思ってた、あのラノベとかあのアニメとかのように。


 そして、簡単に何をするのかどうするのかの話し合いが始まった。


 まあ3W1Hを話し合う、Why、Who、What、How

 なぜ、だれが、なにを、どうやる


 そこにさらに、いつまで、When と予算 How muchが加わり

 そんなのは無いけど、4W2Hって事になるのかな?


 W多すぎて草生えるWWW


「どうしますか会長」

 そう言って生徒会長が副会長に尋ね、副会長が何か提案、書記が「良いね」と言う、しかし副会長がそれのデメリットを言うと、書記が「じゃあダメだね」と、今度は会長が提案、また書記が「良いね」、副会長が「それだと予算が」というと、書記が「じゃあ駄目だね」……


 延々と話しが進まない、書記は良いねと駄目だねしか言わない、お前はF○か、ついでに悲しいねも言え……。


 内輪だけで色々話している状態、俺らいる? と思い白井先生を見ると、先生は俺をじっと見ていた。


 そして、俺と目が合うと、真っ赤になって顔をそむける。

 えーーーー何? その態度


 隣の妹がまたビクッとなるのを、またも見ない振り……ついでに先生の態度も見ない振りをする。


 俺の横には何も言わない妹、俺の前には真っ赤な顔で俺をチラ見する先生……そしてその先には口元は微笑んでいるけど、目は全く笑っていない生徒会長が『お前何しに来たんだ?』 と俺の心に直接話しかけてくる。

 ……何この四面楚歌。


 アルカイックスマイルの会長、ちなみに今更ながらアルカイックスマイルとは微笑、すました顔で口だけ笑っているような状態、ググると怪しい彫刻が出てきて逆にわかりずらくなるから注意


「……お二人はどう思いますか?」

 遂に会長は心の中にではなくそう言って直接聞いてくる。

 しかし、なんの議論も進んで無い状態でどう思いますか?と言われても


「あー、いやよく分からないですね」

 お前らの話しがな、とこんな状況ではそう言うしかない


「……そうですか、なにかあったらいつでも言ってくださいね」

 会長は、非常に優しい口調でそう言っているが、俺の脳内では

『ち、使えねえ』と聞こえている。


 その後も不毛な議論が延々続き、結局決まった事は、毎週月曜と水曜日に集まる、夏休みに入るまでなんとか形にする。


 この2つだけだった。


 使えねえのはお前らだよ!




 何も決まらずそのまま解散となり俺はと席を立ち生徒会室を後にした。


 外に出ると梅雨も近いためか空はどんよりし、気温もそれほど高くない。


 ちなみに昨日から衣替えが始まっている。

 妹は既に夏服にしており、半袖から伸びる細い白い腕が露になっていた。

 やはり肌寒いのかその腕に鳥肌がたっているのがわかる。


 二人で並んで帰るいつもの帰り道で俺は会議で何も言わなかった妹に訪ねててみた。


「栞、何も言わなかったけど、どうだった?」


「白井先生がお兄ちゃんの事ばっかり見てた。お兄ちゃん、年上にもモテモテで凄いね!」

 妹はフンっとまたそっぽを向き、機嫌が悪くなる。ああ、帰ったらまた手の皮が剥ける程、妹の頭を撫でないと……。


「いや、そうじゃなくてな、今日の生徒会の人達どう思った?」


 妹は首をかしげ、今日の3人の会話を思い出すように考える。

「うーーーん、会長さんと副会長さんが逆に見えたかなー?」


「逆?」


「うん、なんかどっちが会長かわからないっていうかーーうーーーん」

 さらに、どう言えばいいか考え込む妹。


「一言で言えば、依存かな?」


「依存?」


「うん、会長さんが副会長さんに依存している感じ?」


「依存? 依存ねー」

 またも抽象的でよくわからないが、あの会長が副会長に依存している?

 そんな事があるのだろうか?


 しかし、妹の人を見る目、特に女子を見る目は確かだ。



 あの会長が……副会長に依存している? 本当に?


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