第28話 ボウリングと苺ちゃんと妹の部屋
キュロットスカートをたなびかせ、妹がボウリングの球を投げる度に、周囲からため息が漏れ聞こえる。
「ねえねえ、あの娘可愛くない?」
「ああ、長谷見栞だよ」
「有名人?」
「まあ、有名って言えば有名かな?」
「隣は彼氏? なんか普通?」
ほっとけや……そんな声が周囲から聞こえて来る。
やはり近所だとバレバレか……。
「やったああああ! お兄ちゃんに勝った!」
「マジか……」
最初はガーター連発だった栞は持ち前の運動能力で徐々にコツを掴み、2ゲーム目で俺を抜いた。
そして一勝一敗で迎えた3ゲーム目、俺は周囲の視線を気にしすぎてミスを連発、ボウリング初心者の妹に負けてしまう。
「く、早朝ボウリングで鍛えたのに……」
相変わらず俺はプレッシャーに弱い……。
「お兄ちゃん中学の時一人でここに来てたよね~~マジで友達いないのかって心配してた」
「う、うまくなってから誘おうって思ってたんだよ!」
「そうなんだ、あははは、お兄ちゃん可愛い~~それで私の知らない間にその後友達と来たの?」
「……い、いやあ、いい加減腹へったな、そろそろ飯食いに行こうか」
「……お兄ちゃん」
妹に可哀想という顔をされる。いや、違うんだ……自虐的なギャグで元気づけようとしただけで、探せば居るんだ、俺とボーリングに行く奴くらいは……温泉掘ろうよって誘えば……。
妹は勝ったご褒美に1階のプリクラでお姫様抱っこの写真をゲットしてそのまま自宅近くのパスタ屋に入る。
恥ずかしいからさらっと流したんだ、突っ込むな。
「あれ? 苺ちゃん」
「あーーー栞様!」
いつも空いているパスタ屋には近所に住む苺ちゃんが一人で勉強をしていた。
「勉強してる? 偉いね」
「栞様、ここどうぞ!」
「え? 邪魔しちゃ悪いよ」
「いいえ! もう終わりました!」
バタバタとノートと参考書を片付けると自分の隣に妹を誘う一つ下の苺ちゃん。
彼女は一つ後輩の現在中学3年生、今年高校受験で聞いた話しだと栞も受けた名門進学校を受験するとか?
「……じゃあここでいい お兄ちゃん?」
「あ、いいよ」
「えーーーお兄さんも座るんですか?」
「おい」
「冗談です!」
いや、目がマジだろ? 苺ちゃんは黒髪ロングで……まあ、簡単に言うと栞を小さくした様な容姿だ。
ただ彼女は栞に似ているのではなく、似せている。
そう、彼女は栞に憧れて栞になろうと努力している、いわば栞マニアだ。
「受験勉強は捗ってる?」
隣でベッタリと引っ付かれ少し戸惑いながらもそう聞く妹を一人正面から見ている俺。
「はい! 私も栞様と同じ高校を受験して合格を勝ち取り、そしてそこを蹴って栞様と同じ普通の高校に入ります!」
「……へ?」
「格好いいですよね、わざと入らないなんて!」
「えっと……苺ちゃん? あのね、わざとじゃなくてね」
「違うんですか?」
「うん」
「じゃあ何で?」
一瞬困惑し俺を見るも、妹は強い意思を俺に示すべくはっきりと苺ちゃんに向かって言った。
「それは……お兄ちゃんが行くから、お兄ちゃんと同じ高校に行きたかったからだよ」
「……え? そ、そうなんですか?」
「ええ」
そうはっきりと言われ少し困惑した表情で俺達を見つめる苺ちゃん。
もっと深い考えがあると思っていたのだろうか?
それにしても妹は自分の気持ちを俺に対する誤魔化さないのか……と、少し不安を感じた。
「栞様は……お兄ちゃんの事好き……何ですか?」
「うん!」
……即答である。
えっと、いや、さすがにそこは誤魔化さない? 普通言う? 俺は栞をマジマジと見つめるも、栞はそれが何か? とばかりに意にも介さない。
「……す、凄いです! 栞様はやっぱり凄いです! 堂々と家族が好きって言えるなんて、私も弟が好きって言います!」
「……うん、そうだね」
妹は女神の様に微笑み苺ちゃんを見つめている。
「わ、私! 反省します、弟がうるさいからってここで勉強してたんです……直ぐに帰って弟を可愛がります! あ、あとついでにお兄ちゃんの事も好きになりますから!」
「……ついでにって」
あははは、と俺は笑いつつ妹を見ると……妹もにっこり笑っていた……が、目がヤバい事に……。
とりあえず苺ちゃんは気が付いていないし、俺も見ない振りをした。
そして嵐の様に、まるで規定事項を無理やり書き綴った様に店を飛び出し家に帰る苺ちゃん。そしてなんか来年まで会わない様なそんな気がしつつ、俺達は遅い夕飯を取りそのまま帰宅する。
そしてすっかり機嫌が良くなった妹は、家に帰るなり俺に言った。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんって……最近私の部屋に来ないよね?」
「いや、そりゃそうだろ? 俺はずっと栞に嫌われてるって思ってたんだから」
「で、でもでも、今は私の気持ち知ってるし、付き合ってるし」
「保留だけどな」
「ぶううう、でもさ……だったら良いでしょ? 私のお部屋に……お兄ちゃんに……見せたい物もあるし」
栞はモジモジしながら俺にそう言う。
「……こうなったら今日はとことん付き合うか、良いよ行こう」
「やった、じゃ、じゃあ準備するから30分後に部屋に来て」
「準備……」
何か嫌な予感しかしないんだが……。
「わかったよ」
俺は覚悟を決めてそう言うと妹は満面の笑みで俺を見つめ、嬉しそうに部屋に向かって階段を駆け上がって行った。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか……まさか裸で待ってるなんて事は……さすがに無いよな。
俺は妹が上がって行った2階をじっと見つめる。
なにやらおどろおどろしい雰囲気が漂っているのは俺の気のせいだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます