第15話 妹とBBQ
とりあえずバーベキューコンロと炭、その他諸々を近くの安売りの殿堂で買い、ついでに食材等もゲットして翌日キャンプ場向かった。
大きなバッグを担いで電車とバスを乗り継ぎ目的の公園に到着。
そのまま公園の管理で受け付けを済ませ、指定されたエリアに向かう。
キャンプ場は完全に公園の中だ、しかもトイレや炊事場、椅子に机、そして折角バーベキューコンロを買ったのだが、そこには野外炉まで設置されていた。
これでキャンプと言うにはいささか整い過ぎているが、まあ初心者にはこれで最適なのだろう。
周囲は既にテントを立て、バーベキューの準備を始めている。
家族と思わしき親子連れや、学生の集まりらしき集団が和気あいあいと食事や火の準備をしていた。
俺達も荷物を下ろし、新品のバーベキューコンロを組み立てる。
俺も妹もこういった物は得意だったのであっさり組み上げ、調べていた通り、形成炭に火をつけ、備長炭を燃やす。
「わああああ、出来た出来た~~」
真っ赤に燃える炭火を見て、少し不安そうだった妹の顔は満面の笑みに変わった。
その時、空に爆音を鳴らし飛行機が通過していく。
「うお!?」
羽田空港に近い為、ちょうど着陸していく飛行機が上空をかなりの低空で通過して行った。
「うわあああ、思ってたより近いねえ」
風向きが変わったのか? さっきは離陸していく飛行機が上空を通過していっていたが、今は着陸して行く飛行機が次々頭上を通過していく。
ここは飛行機好きには最高の景気なのだろう。
まあ俺も一応男の子なので、見るのは嫌いではない……見るのはね……。
「とりあえず肉焼こう、肉肉!」
「はーーい」
朝ごはんを抜いて来たのでかなりの空腹だった俺は妹にそう言って急かした。
妹は、ハイハイと笑いながら持ってきた食材を網の上に乗せ始める。
まだ気温が低いので野菜や肉は全部切った物を用意しているので、直ぐに焼く。
そして、それらを焼きつつ、お湯を張った小さめの鍋でパックのご飯を温め始めた。
俺は席に座って妹の焼く肉を眺めている。
暫くして、周囲に香ばしい匂いが漂ってくる。
春晴れの空にまた一機また一機と轟音を響かせ旅客機が頭上をフライパスしていく。
妹は焼けた肉や野菜を紙の皿に乗せ俺の前に並べる。
「おおお、旨そう」
外で食べる食事は美味しいという。しかも炭火で焼いた肉、そして焼いてくれたのは妹……もとい、俺の彼女。
なんて最高なシチュエーションなのだろうか?
「じゃあ、お兄ちゃん、はい! あ~~~~ん」
俺の前に置いた肉を箸で掴むとそう言いながら俺の口元に運ぶ。
「いやいやいやいや」
とりあえず肉を挟んでいた物がトングじゃないので良かったが、焼き立ての肉をあーーんとか、危険な香りしかしない。
「熱いかな? じゃあ、フーーフーーー」
妹は自分の口元に肉を寄せ、頬を膨らませ息を吹き掛ける。
その膨らんだ頬っぺがあまりに可愛くて……いや、違うそうじゃない。
妹のあーーんは多分セーフだろう、病気の時とか他の他の兄妹でもやってる……かもしれないし、この際俺の頭が病気だって事でそれは良しとして……。
ただこの前の観覧車の時のように、もしかしたら知り合いが居るかも知れないって事は用心しておかなければならない。
栞を直接知っている人はいなくても、栞を知っている人を知っている人は居るかも知れない。
これを六次の隔たりという。全ての人は六ステップでつながるという理論だ。
おそらく栞ならば3ステップ位で繋がるのでは無いだろうか?
ただでさえ友達の多い栞、今後は外でこういった行為は控えなければと、俺は思ったばかりだった。
「自分で食べられるから、ほら野菜が焦げそうだぞ」
「もう! じゃあ、これ食べちゃうもんね!」
そう言って最初の一枚を自らの口に放り込んだ。
「おいしいいいいい!」
「あああ、ずるいぞ!」
兄より先に食べるとは!
「お兄ちゃんが、あーーんを拒否するからだよ!」
「あああ、腹へった、もう自分で焼く!」
「もう~~ほらじゃあ、これ」
俺が立とうとするのを静止して妹は次の肉を皿に乗せた。
「やっと食える、頂き!あふあふ…………やべ、めっちゃ旨い」
驚愕するほど旨かった。スーパーの肉なのに、高級焼き肉店と大差無い……いや、まあ行った事は無いんだけど、そう思ってしまう程に旨かった。
「じゃあ、どんどん焼くね!」
「宜しく!」
妹は楽しそうに肉や野菜を焼き始める。
もし未成年じゃなかったら一緒にビールを飲むんだろうか? こうやっていると、妹と二人でいつかそんな日が来るかもなんて想像してしまう。
でも……あの隣にいる家族の様には……。
次々と焼かれる肉、パックでも十分に美味しいご飯と共に、俺達は始めてのキャンプ飯を堪能した。
はしゃぐ子供、それをのんびりと見つめる夫婦、宴会で盛り上がる大学生、そんな周囲の喧騒の中、黙々と食べるだけの二人きりのキャンプ、二人きりのバーベキュー……でも……それも恋人となら全然寂しくない。
そして1時間程で肉を殆んど食べ尽くし満腹となる。
妹は家から持ってきたいつものコーヒーセットを使い、残り火でお湯を沸かしてコーヒーを入れてくれた。
ああ、これ……この感じ、俺の大好きなまったりとした時間の流れ。
家で飲むコーヒーも旨いが、外で飲むのもまた格別な味がする。
楽しいなあ……そう思いふと妹を見ると、妹は持っていたコーヒーを飲みつつ空を見上げていた。
上空を相変わらず飛行機が通過していく。
妹はそれを追いかける様に視線を動かす。
そして滑走路に消えて行く飛行機をじっと見つめていた。
その顔はどこか寂しげで、どこか儚げだった。
最近見せた事の無い妹のその顔……以前は時々こんな顔、こんな表情をしていた。
「どうした?」
俺がそう言うと、妹はゆっくりと俺に視線を移し笑顔で俺を見る。
「ん?」
何が? という表情で俺にそう言った。
でも違う……俺は見逃さなかった。
妹は俺を見た瞬間笑顔に変えたのだ。
作り笑顔で俺を見た……そんな気がした。
暫くすると妹は持っていたコーヒーを一口飲み、また空を見上げる。
今度は笑いながらだった……でも、それでもどこか寂しげな……そんな目をしていた。
俺と付き合い始めてずっと楽しそうにしていたのに……一体どうしたのだろうか?
妹のその表情に、一抹の不安が過った。
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