第14話 春キャン
「お兄ちゃん! キャンプに行きたい!」
「……唐突だな」
翌週の金曜日、いつものように妹と二人きりで、家のリビングでまったりと放課後お茶会をしていると、妹は唐突にそう言って来た。
妹は今まで我慢をしていた事を取り戻そうとしているのか、俺にべったりとくっつきながら週末の予定を捻り出して来る。
「うん! この間良い雰囲気だったから、キャンプで夜景を見つつ今度こそお兄ちゃんと熱い
「そんな本音だだ漏れで俺が行くとでも? そもそも接吻て……」
いつの時代の言い回しだよ?
「大丈夫! お兄ちゃんは絶対に行きます!」
「なんでだよ」
「お兄ちゃん……お願い連れってって?」
妹は首を傾げ甘えるようにそう言った。
「……しゃーーないな」
「わーーい」
頼まれると断れない性格をそろそろ直さなければと、俺はこの時改めてそう思った。
さて、こんな唐突にキャンプに行きたいなんて言われると、もしかしたらこの世界の誰かが、俺達を操っている何者かがキャンプに行きたいがめんどくさいから、もう小説で書いて行った気になろうとでも思ったのだろうか? それとも流行りモノに手を出してお茶を濁そうとしたのか? はたまたとあるアニメでも見て唐突にそう思ったのか?
とにかく妹が行きたいと言った以上、めんどくさいが行かねばならぬ。
なんて言ってはみたものの、キャンプなんて行った記憶すら無い。
俺はとりあえずスマホで色々と検索をかけ調べ始める。
ソファーにだらしなく座り、妹のいれてくれたコーヒーを飲む。妹も俺に寄りかかりスマホで色々と調べ時折俺のスマホを覗き込む。
なんか……むしろこの状況に俺は満足してしまう。
妹の背中が俺の背中ピタリとくっつく。
妹の少し高めの体温がじんわりと俺に伝わる。
まったりと過ごす妹との一時、面白い情報見つけ二人でスマホを見せ合いケラケラと笑った。
俺の理想に近い世界、ゆっくりと時間が進んでいく空間。
これがずっと続けば良いのにって俺はそう思い始めていた。
「とりあえず泊まりはきつくない?」
「うーーん、テントに寝袋……ハードル高い?」
「買うのもそうだけど持ち運びが、車でもあれば別だけど」
「ああ、お兄ちゃんグランピングはどう? 焚き火の明かり、大きなテント、テントの中にはフカフカのベッド、テントの天井は透明で満点の星空が見え、二人でベッドから星を眺める。お兄ちゃんは私の肩に手を添えこう言うの栞……良いかい? って、私は恥じらいの顔でコクりと頷く、そして……お兄ちゃんの手が私の……に触れ、私は熱い吐息を漏らしそして二人は! ああ、お兄ちゃん……はわわわわ」
「おーーーーい、しおりーーー帰ってこーーーい、しないぞーーなんにもしないからーー」
異世界にでも旅立ってしまったような妹の姿に俺は思わず自らのこめかみに手を添え3回
「とりあえず、デイキャンプにしとこうよ」
俺がそう言うと、我に返った妹は愕然とした表情で、目に涙を浮かべて言った。
「ええええええええええ……そ、そんな……満点の星空、二人きりの夜……」
「いや、ほらえっと、そう付き合ったばかりなんだからそういうのって順序ってのがあるじゃん? まだ早いっていうか……」
「じゃあ、いつなら良いの?」
「えっと……じゃ、じゃあさ、夏休み、今年の夏休みは婆ちゃん家に行くだろ? その帰りに一泊して帰ろう、満点の星空の見える旅館を探すから!」
「本当に! お兄ちゃん約束だよ!」
満点の星の輝きはここにあった……と、思う程に目をキラキラと輝かせ妹は満面の笑みで俺を見つめる。
ヤバい約束をしてしまった? 俺はこの時そう思ったが、後の事はその時考えようと、とりあえず問題を先送りにする。
「じゃあ、今回はバーベキューでお茶を濁そう」
約束と引き換えに渋々了承する妹だったが、これはひょっとしてキャンプで1泊を持ち出し、旅館で一泊を手中にする、大きな交渉から始めて小さな約束を引き出す、まさに妹の仕掛けた『ドア・イン・ザ・フェイス』だったんでは無いか、いや、違う、そもそも始まりはキャンプに行くことだった。小さな交渉から徐々に大きくしていく交渉術、『フット・イン・ザ・ドア』ただったのではないか?
恋愛はまさに戦い、俺も妹も付き合うのは初めてだが、妹は数々の恋愛相談に乗ってきた恋愛耳年増、恋愛シミュレーションのスペシャリストなのだ!
そうかしまったぞ……俺は妹の術中に嵌まっていたのか……。
恐らく今頃妹はこう思っているんだろう……『お兄ちゃん…………お可愛いこと』って……。
「お兄ちゃん、ここのキャンプ場デイキャンプでバーベキューが出来て、しかも海沿いにあって、羽田空港に近いから飛行機も見えるって! あ、明日空いてるって!」
「──ああいいよ、じゃあ明日そこに行くか」
「わーーーい、お兄ちゃん大好き~~」
もうゆる△ャンなのか? かぐ○様なのかよくわからない事になっているが、とりあえず負けるが勝ち、満面の笑みで喜ぶ妹を見れたので、今回は……俺の勝ちって事にしておこう……。
そして改めて妹恐るべし……と俺はこの時、そう思ったのだった。
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