第9話 銀髪美少女の正体は?


 学校で妹に近付くのは困難を要する。

 クラス女子の殆どが妹の所に集まる。

 

 ただ、一緒に歩いていても、一緒に出掛けていても、それが噂になる事は無い、そんな程度に俺は皆から知られているので、当たり前だが他の男よりも妹に近付く事は容易だ。

 

 しかし、栞軍団に割り込んで行く程、俺には勇気も気概もない。


 栞と話したい女子は多い、しかしやたらめったらとクラス全員がこぞって集まってるわけではない。


 皆、妹に迷惑が掛からないように遠慮しあい、節度を持って集まり栞と接している。まるでどこかの歌劇団のファンの様だ。


 そして妹の凄い所は、そんな風に自分の元に皆が集まって来ても、自分自身がその中で、でしゃばる事は決してない。


 妹は相手の話を聞いて質問に的確に答えたり、時には自分よりも詳しい人に話を振ったりと、議長の様にグループの話の流れを進行させ、臨機応変に対応している。


 個々の情報が全て頭に入っているのだろうか、集団の中にいる妹は、さながらオーケストラの指揮者の様だった。


 そして昼休み、相変わらずチャイムと同時に妹の周囲に人が群がる。

 当然妹と一緒に食べる事は困難だった。

 

 俺は妹からあらかじめ受け取ったお弁当をどこで食べようか悩んでいた。


 自分の席で食べるのが普通なんだが、近くには麻紗美が座っている。

 麻紗美の事だ、一緒に食べようと言ってくるかも知れない。


 しかし、麻紗美と一緒に食べるのは大変危険だ。


 何故なら麻紗美は料理が得意と聞いた事があるからだ。

 何故料理が得意だと危険なのか? それは……一緒に食べると必然、おかずの交換とかやっちゃうかも知れないからだ。

 

 俺は頼まれると断れ無い性格なのだ。それに加えて麻紗美のお弁当には凄く興味がある。

 しかしだ、俺のお弁当は妹が作った物、そして妹は現在俺の彼女って事になっている。

 つまり、麻紗美と一緒にお弁当を食べて、そしておかずの交換をするって事は、彼女の前で、女友達の作ったおかずを、彼女の作ったおかずと交換するって事なのだ。


 恋愛経験皆無の俺でもわかる……それは確実にアウトになるって事は……俺にだってわかる。


 この間、妹を置いて麻紗美と帰っただけであれだけ機嫌が悪くなったのだから、そんな事をしたら俺はどれだけ妹に気を使いそして宥めなければならないかと、そう考えるだけで冷や汗が止まらなくなる。


 なので俺は弁当を手に、そそくさと教室を後にした。


 まあ、麻紗美は俺とは違い最近じゃ友達も出来るようになったから心配はいらないだろう。


 俺は高校入学早々ボッチ飯の場所を探して校内をさまよう。


 そして裏庭の木陰にポツンと置かれているベンチを渡り廊下から発見した。


 あそこだ! 早く行って確保しなければ、俺は直ぐに校舎から外に出ると、さっき見つけたベンチに向かった。


 すると上から見た時は誰もいなかったベンチには、一歩遅かったのか?先客が座っていた。

 ちょうど木の陰のせいで顔は見えない。しかし制服から女子と思えた。


 さすがに見ず知らずの女子と相席するわけには行かず、俺は諦めて横を通り過ぎようとしたその時、その女子が手でベンチを軽くポンポンと2回叩いた。


「え?」


「……どうぞ」


「あ、えっと……」


「どうぞ!」


「す、すみません」

 何故か2回も隣に座る事を勧められた。


 断る事の苦手な俺、ましてやこれから違う場所を探していたら、お弁当を食べる時間が無くなってしまうと、そう思い俺は素直に彼女の隣に座った。


 隣に座り、チラリと彼女を見る。

 そこにいたのは……銀髪碧眼のとてつもない美少女だった。


 透き通る様な肌、フランス人形の様な顔立ち、人間とは思えない一見異世界からやって来た妖精の様だ。


 それはまるで高価な指輪の様な、手に触れてはいけない絵画の様な、そんな雰囲気が彼女から感じられる。

 もしかしたら栞よりも美人で可愛いかも知れない……。

 そんな女子がこの世に存在するんだ? と俺はまじまじと見ていると、その美少女が俺をジロリと睨み付けた。

 駄目だ、初対面の女の子をジロジロと見ちゃいけない。

 俺は緊張を隠す様に震える手を抑え、弁当を食べようとするも、ポロポロとご飯が箸からこぼれていく。

 おかしいな、美人は見慣れている筈なのに……何故だろうか?。


「ぷっ」

 すると隣から妙な音が聞こえてくる。

 俺は思わず彼女をガン見した。


「ぷぷ、ふふふ、あははは、あっははははははははははは」

 澄ました顔だった美少女の顔が突如破顔すると、彼女は大笑いし

始めた。

 

「え?」

 その容姿に似合わない程の大爆笑に俺は思わずたじろいだ。

 な、なんだ? なんなんだ? 危ない奴なのか?

 俺が呆気に取られていると、彼女は涙を拭き今度は俺を真剣な顔でじっと見つめた。


「よお、久しぶりだな、元気だったか? 相棒」

 その顔に似つかわない男の様なしゃべり方、その口調。

 しかし俺はその口調に、その髪、その瞳、に聞き覚えが、見覚えがあった。

 そして暫く自分の中にある記憶から彼女の事を探していくと、俺ははっきりと思い出す。

 

「お、おおおおおお、おま、お前! 女だったのかあああああああ!」

 銀髪に碧眼と、こんなにも分かりやすい特徴が揃っているのに、女という事、そしてその容姿の美しさに俺は全く気付かなかった。


「あははははは、ようやく認識してくれたか?! よしよし、僕も立派になった」

 そう言うとそいつは自分の胸を両手でつか、掴んでる?


「いや、そこは成長してないな」

 あの頃のままだ。


「うっせえよ!」


「おおお、みつる! みつるだみつる!」

 俺の相棒、小学生の時の親友。


 俺がそう言うとみつるはベンチから立ち上がり、俺の前でスカートの裾を持ち、異世界の令嬢の様に膝を曲げ頭を下げた。


「……僕の名前は……美智瑠だ、渡ヶ瀬美智瑠わたがせ みちるだ」


「み、みちる? そうか……だからあれだけ探しても見付からなかったのか」


「……ごめんな、会いたかったよ相棒」

 その屈託の無い少年のような笑顔、こいつは間違いなく俺の親友だと今確信が持てた。


「ああ、俺もだ」

 ようやく会えた、ずっと会いたかった俺の相棒にようやく……。




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