第5話
大男に案内されるまま、洞窟へと向かう。
大男は自分じゃ戦力にならないだとか、適当なことを言って、結局、僕とニケの二人で洞窟に潜ることになった。
長い年月をかけて作られた洞窟は、まるで自然の要塞のごとく、僕たちの行く手を阻む。
「……本当にこんな洞窟にドラゴンなんているのか? 普通に考えて、サイズ的に入れないだろう」
きな臭い状況に、思わずそんな愚痴がこぼれた。
僕は、最強のドラゴンとやらがいると聞いたから、いつもよりも急いでここまでやってきた。
もしそれが嘘だったというなら……特に何かあるわけじゃないけど、酷いぞ。
「ドラゴンは、私たちのようにこんな狭い道を通る必要ないからね」
「そういうもんか……」
ドラゴンに詳しいニケがそういうのなら間違いないのだろう。
僕はというと、ドラゴンにはまだあったことがない。
長いような短いような人生では、ドワーフ、エルフ、ハーフエルフと様々な種族に会ってきたことだろう。だけど、ドラゴンだけは別だ。
「伝説級の生物が人間に対して、なんの意味があって攻撃するんだろうな?」
「さあ、そんなの人それぞれでしょう……考えたって仕方ないわよ。」
まあそうなんだろう。
ドラゴンよりもさらに珍しい竜人のニケが言うのだから間違いないはずだ。
しかし、それをおいても例の大男はいかにも怪しい。
あんな荒くれみたいな見た目で、自分の村とはいえ、はるばると遠くまでやってきてギルドに依頼する。そんなことをするような奴には到底見えなかった。
察するに、あの男は、何か隠し事をしている。――それが何かは分からないが、ともかく、今回の件は慎重に対応するべきかもしれない。
「……マジで面倒くさい。死に場所を探すってこんなに面倒くさかったんだな?」
舗装すらされていない道に、足がだるくなってきた。
旅をしていたころなら余裕だったのだろうが、今ではただでさえ足がなまっているのに、地面は固く道のりも長い。
ニケはよくついてく来ているな。
「死に場所って……まあいいわ。それより、そろそろ最深部よ」
「ってことは、いよいよドラゴンか!?」
「だといいんだけど……魔物の気配がまるでしないことの方が気がかりね」
こういった薄暗いところには、ほぼ必ずと言っていいほど、魔物が現れる。
特にスライムとか、ゴブリンは数分に一体という頻度で遭遇することになる。だから、道を舗装する余裕などまるでないのだが……一向に現れない。
通常なら喜ばしいことなのだが、冒険者にとっては、マニュアルに出てくるような特殊で危険な状況だ。マニュアル通りに対処するならば、すぐさまに洞窟を脱出する。それ以外に対処法はない。
「災害の前触れか?」
人間種よりも、感覚に優れたスライム種、ゴブリン種は、いち早く危険を察知することが出来る。すなわち、それらの魔物がいないところは、かなり危険な場所だということだ。
「ドラゴン自体が災害級みたいなもんだけど、これはそんなレベルじゃないかもね。私よりも数段上の竜人か、それに準ずる何かがいても不思議じゃない」
それは僕にとって都合のいいことずくめだ。
もし、その存在が最強の悪だとするなら、これでようやく、僕の役目も終わるだろう。
「何にせよ、戦うしかないだろう……それが神によって定められた使命なんだから」
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