最強の勇者は、死にたがり
真白 悟
プロローグ
史上最強の名をほしいままにした勇者は、ついに魔王の城までやってきた。
物々しい城の雰囲気に、無駄に大きな扉。
よくありがちな魔王の城だ。
そんな大きな扉を勇者は力一杯押して開く。
「よく来たな……勇者ども!」
王座の間に居座るひとりの少女が、部屋に入った勇者に語りかけた。
「えっ! ……えっ!?」
勇者は困惑を隠せない。
それはそうだろう、彼は最悪と名高い魔王を討伐するためにやってきたのだ。
その最悪がこんな幼気な少女だと誰が思うだろう。いや、誰も思わない。
「とまあ、口上はこのぐらいにして、交渉に入りましょうか? あ、いまの口上と、交渉はべつに掛けてるわけじゃないから」
「……え?」
勇者は混乱している。
あまりにも怒涛過ぎる展開についていけないのだ。
「ちょっと勇者……」
彼の横に立っていた女性が、彼の服を摘んだ。
「なんだ? 魔法使い、いまちょっと取り込み中だ」
「いやいや、わかるでしょう? 明らかに状況は変わった。王様が言ったことはデタラメ」
「いやいや、まだわからないだろう? あんな見た目で、めちゃくちゃ悪いかもしれないしさ」
「それはわからないけど、どっちにしてもあどけない女の子を倒せるわけ?」
勇者と魔法使いは、魔王を無視してもめている。
「おーい、私を無視しないでもらえるかな?」
魔王が騒ぎ始めるが、勇者は手で落ち着くように促す。
「ちょっと待って、こっちで話をつけるから」
「いやいや、私の話を聞きなさい!」
まるで人の話を聞かない勇者に、魔王はしびれを切らして王座から降りる。
自分の威厳よりも、話を聞いてもらうことが重要だからだ。
魔王は二人の間に飛び込んだ。
「なんだ?」
勇者は険しい表情で、魔王を受け止めた。
魔王の小さな体が、すっぽりと勇者の両腕にハマる。
「話を聞いてってばぁ!」
涙目で魔王は勇者を見つめる。
勇者は何が起きたのか理解できずに、とりあえず思ったことを口にした。
「なんだよ?」
「だからぁ! あれ、なんだっけ?」
「いやしらないよ」
そんな二人を見て、魔法使いはシラケたように大きくため息をついた。
「勇者と魔王のコントなんてみたくないんだけど……」
両手でやれやれとジェスチャーをして、魔法使いはポツリと呟いた。
それが気に食わなかった勇者と魔王は大声で反論する。
「「コントじゃない!!」」
初めてあった二人だというのに、まるで長年連れ添った相手のように息があう。
「そんなことより、私の話を聞いて!」
「聞いてる」
「世界がやばいんだよ!!」
勇者と魔法使いは、彼女の言葉がどういう意味なのかは分からなかった。
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