第63話 5-13 第5章 最終話 世界は広くて美しい

それから三人は、沖縄のダンジョンを攻略した。

すでにSランク魔獣といえど剣也と王の敵ではなく、2時間ほどで攻略は終了した。


「王はどんなギフトにしたんだ?」

このダンジョン攻略によって、王もAランクギフト3つ、そしてすべて開花済みだ。

静香もAランクギフト3つすべて開花が済んでいる。



「ああ、狂戦士の理性が飛ばなくなるギフト、沈静化?とかいうの。あとは、身体のケガを自動回復するギフトと身体能力が向上するやつだ。でも、身体能力の上限は10万らしい。それ以上は効果がないみたいだな」

汎用的で、とてもいい選択だと思う。身体能力の上限はあるのか。

まぁ100万馬力とかもうよくわからないしな。


「静香は?」


「私も身体能力が向上するギフト二つ、そしてパラライズの上位互換ね」

静香も身体能力一万に近い存在になっていた。

そして攻撃すべてに麻痺属性がつくため、かするだけでも行動が阻害される。


この三人の前では、Aランクダンジョンは相手にならない。

ラスボスですら、少し苦戦する場合もあるが3対1では、やはり瞬殺だった。


次は中国へ向かう。

地球を左に進むようにして、一つずつ攻略していく予定だ。


「なぁ、一つ寄りたいところがあるんだ」


「妹さんのところか?」


「あぁ、あの施設は俺が壊して燃やした。だから妹の遺体も残っていない、それでも静のお墓だけは作ってやりたいんだ」


「あぁ」

そうして、剣也たちは、ダンジョンの前に研究施設の跡地へと向かった。


「やっぱり全部燃えてんな」


そこには燃えカスとなった建物が残り、だれの骨かもわからない風化した瓦礫たちが広がっている。


王はしばらくそこで動かなかった。

剣也も静香も何も言わない。いまは一人にしてあげたい。


「墓、つくるか」

王がつぶやくようにそう言った。

そして3人は、お墓を作った。

何を埋めるわけでもないし、何を供えるわけではない。それでも形だけでも作りたい。


「静。兄ちゃんちょっとやることができたんだ。あと友達もできた。もうちょっと待っててくれ。ごめん」

墓の前で祈る王の目には涙が流れている。

しばらく沈黙が続く。



「よし! ありがとう、一区切りついた」

王は元気な声で剣也と静香に笑ってみせた。

全て吹っ切れたわけではないだろう。

それでも区切りをつけたと友がいうのなら、それ以上何も言わないのが友だろう。


「じゃあ、いこうか! ダンジョンへ」

 

 そして三人は中国のダンジョンへ向かった。

難易度は、変わらない。

最後のボスだけは、パンダのような魔獣だったが3人の敵ではなかった。

静香は、ちょっと可愛かったといってたが、正気か? 歯茎すごかったぞ。 



 そして4つ目のダンジョンがあるオーストラリアに行った。

コアラは可愛かった。自然豊かなその国でゆっくり観光したいなと思った。

静香もコアラを抱っこして幸せそうだ。案外かわいいものが好きなのかもしれない。


 そして5つ目のインドでは、本場のカレーを食べた。

本当に笛で蛇を操る人がゴロゴロ道端にいた。

道端で音楽が流れるとみんな突然踊りだす。

変装している剣也たちも一緒になって騒いでみた。

見知らぬ人とハイタッチしながら盛り上がる。


 6つ目はロシア

夏なので、普通に暖かかった。

もっと、シベリア送りのイメージがあったのだが、案外そういうわけでもなく、日本の初夏と同じぐらいだった。

ウィスキーをふざけて飲んでみたが、人が飲むものじゃない。

喉が焼ける。


 7つ目はアフリカ

イメージでは、あたり一面が砂漠で、ライオンなんかが闊歩してるイメージだったが、都会は普通に都会だった。

とはいえ、大自然では、アフリカゾウを生でみることができた。

王がアフリカゾウを持ち上げて遊んでいたので、俺も持ち上げてみる。

チータと追いかけっこもした。相手にならなかったが。


 8つ目はカナダ

ナイアガラの滝の近くにAランクダンジョンはある。

生で見るその滝はすごい迫力で、俺たちは興奮した。

王は、服を脱いで滝登りを始めた。剣也もやった。

俺は全力の居合切りで、滝を切ったりして遊んだ。

王も地形が変わるような蹴りで滝の水を吹き飛ばして遊んだ。



 9つ目は、アメリカ

一度来たその国は、特に変わることもなく復興と魔獣討伐に追われている。

自由の女神の隣にそのダンジョンは聳える。

自由の女神は、その影響でへし折れているがいまだ復旧はされていない。

王が、なんとなしに折れた女神を立て直した。

不安定だが、元のいつぽっきり行くかわからない状態よりはましだろう。


 そしていよいよ最後の10個目

北極。ワールドクエストも残り一つとなった今、これが正真正銘最後の旅になる。


「やっとか」


「あぁ、長かったな」

剣也たちは10個目のダンジョンの前で防寒着を着込みながら感傷に浸る。


本当に長かった。

いつの間にか、12月。今年も終わろうとしていた。


「世界は広かったな」

 この4か月ほどで、世界を文字通り歩いて回った。

テレビやネットの中だけだと思っていた存在は、確かに実在していてその場で息づいていた。

当たり前のことだけど、それでも確かに世界にはたくさんの人がいて。

たくさんの命が生きている。


 もしこの世界にダンジョンを生み出したものがいるのなら、もしこの世界を作ったものがいるのなら、きっと世界を見て回れというメッセージなのだろう。


「じゃあ入るか」





「最後のダンジョンへ入ったか。頑張れ少年。今度こそ人類を解放してくれ」

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