第53話 5-3 英雄の帰還

少年は、学園へと一歩を踏み出す。


そしてそこには、特進クラスの面々が待っていた。八雲さん、そして小御門先生もだ。


「「おかえり!」」

一同は、示し合わせたかのように一緒に剣也を出迎える。


「ただいま」

剣也も笑って答える。懐かしい。ほんとに懐かしい。

実際の時間にして三か月、しかし剣也にとっては、永遠にも感じた三か月だった。

今日帰ることは事前に伝えてはいた。でもまさか出迎えてくれるとは思ってもみなかった。



「じゃあ始めましょうか」

静香が、一歩前にでる。


「え? なにを?」


「もちろん、模擬戦よ。強くなったんでしょうね」


「あぁもちろん」


「それはよかったわ。私も相当強くなったわよ」

静香は自信満々に答える、きっと本当に強くなったんだろう。


「それは楽しみだ。あ、そういえば静香あの時のキスって」


「い、今は忘れなさい!」

護国刀を抜き、剣也へ向ける。その顔は真っ赤に染まっていた。

静香もわかっていた。今日あの意味を聞かれることを。だからその覚悟もしていた。

返す答えも。でもそれは彼の成長を見てから。



「では、バトルルームで行おうか」

小御門先生が、先陣をきり部屋へ向かう。


そして修行した剣也と、強くなった静香の決闘が始まる。


「先生、もちろんこの決闘は」


「あぁ、校内放送されている」

ですよねー。まぁいいか。

静香はどれほど強くなっているんだろう。楽しみだ。


「楽しみだよ静香」


「ずいぶんと余裕ね。負けてもしらないわよ? 私の能力は今ちょうど最強なのだから」

静香は笑う。でもきっとこの人は私の想像を超えてくる。


今ちょうど? という疑問はあったが、とりあえず後で聞こう。

「じゃあはじめようか」


「ええ」


「では、はじめ!」



 仕掛けるのは静香、出し惜しみはなしだ。

新たに手に入れたギフト その力を使用する。

もともとの戦乙女と合わせると実に身体能力60倍

文字通りの化物とかした静香の切り込みは、いまやAランク魔獣ですら一刀のもとに切り伏せる。


 剣也がいない間静香はこの国の代表として、あらゆる魔獣を討伐し、ダンジョンもクリアした。すでに学園に敵はいない。

この一刀 剣也はどうやって受けるのか。楽しみでしかたない。


「すごいよ、静香。本当に頑張ったんだね」

直後静香の剣は簡単に弾かれる。

いや弾かれるというよりは、流される。

なんだこの心もとなさ。まるで宙を舞う紙を木の枝で切ろうとしたような。

そんな心もとなさを感じる手ごたえ。


護りの剣豪ではない。思考加速? 剣聖? それとも両方?


「これが修行の成果だよ、静香」


わからない、ならもう一度ためそう。


しかしまた流された。何度やっても流される。まるで達人を相手にしているような。

しかしたった三か月。それでこの領域まで到達できるのか?


「じゃあ静香、本気をだすよ。これが俺の修行の集大成だ」


剣也が構える。くる。静香は構えようとした。しかし次に見た光景は、空だった。


「え?」

何が起きたかわからない。気づいたときには敗北していた。

そして手を差し伸べられる。

「期待通りだった?」


「期待どおりって、見えもしなかったわよ。説明してくれるかしら?」

静香は笑って答える。しかしその目には、悔しさが宿っていた。


「もちろん。それと静香のギフトについても教えてよ」


手を握りながら静香は立ち上がる。

「…する乙女よ」

小さい声で静香は、つぶやく。

今日この模擬戦が終わったら伝えようと思っていた想いを。


「するおとめ? なにそれお米の名前?」

とちおとめを想像する剣也。そんな能力があるんだと。


「恋する乙女といったのよ! 私の能力はね! 剣也との距離に応じて身体能力があがるの!」


「ええ!!」

なんだその能力。ってか恋する乙女って。


「あなたの横で戦いたい。そう願ったら現れたのよ、このギフトがね!」


「そうか、でもごめん静香俺…」

静香は指で剣也の口をふさぐ。


「あなたには夏美さんがいることはわかってる。でもいいでしょ。勝手に好きになるのは。それともあなたに私の気持ちを強制する権利でもあるの?」


まくしたてるように静香は剣也に思いを伝える。

情緒もへったくれもない告白だが、静香らしいと思った。


「だから気にしないで」

静香は笑う。作り笑いではない。きっとずっとこの思いを抱えていたのだろう。

そして今日伝えるつもりだった。だから覚悟はできていた。


「わかった」

剣也は何も言わない。慰めることも、励ますことも今剣也が静香にしてあげることはない。


「やぁ、剣也君素晴らしい成長だね。まぁ私には何が起きたかもわからなかったがね。

じゃあ出発しようか。お楽しみのイベントだ」


特進クラスと一緒に観戦していた八雲さんが歩いてくる。


イベント? そういえば出発前にいっていたな。そしてそれが三か月の理由だと


「なにかあるんですか?」


「あぁ、飛ぶよ。アメリカへ」


「へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る