第46話 4-8 妖怪ババア
木刀を鞘から抜いて二人は構える。
「ほーれほれ、早く切り込んできな」
妖怪ババアは怪しい踊りを踊った。普通にむかつく。
完全に舐められている。これは一つ驚かせてやるか。
そして剣也は、姫野に切りかかる。鞘を投げ捨てて姫野も構える。
「踏み込みはまぁまぁだね。でもガキのチャンバラじゃないんだよ!」
剣也の横なぎはあっさり、弾かれ、同時に踏み込んだ足を足払いされる。
護りの剣豪が発動していないため、最初の一刀に関しては正直素人の一刀と同じ。
しかし剣也には、もう一つギフトがある。思考加速 世界への認知を高速化する力。
足払いの初動は、見えていた。ギリギリだったが交わせる。
剣也は、ジャンプしその場を離れる。
「なんだい、今ので転ばないのかい。それも力の一つなのかい? 人間の反射神経を超えてるね」
姫野は驚いた顔で剣也を見る。
攻撃こそ効かなかったが、驚かせることはできた。
ってかあのババアほんとに妖怪か?70歳の動きじゃないぞ。
「動きはてんで素人だが、これは磨けば光るんだろうね。楽しくなってきたじゃないか。じゃあ次は、受けを見せてもらおうか」
直後姫野が切り込んでくる。速度こそそれほど速くはない。
速くはないが。出所が見えない。
「ほいっ!」
姫野が剣也に袈裟斬りを仕掛ける。
出所が見えないので、いきなり剣が現れたように見えた。
「ぐっ!」
「おう、受けた受けた。やっぱり反射神経がおかしいね。今のを素人が初見でうけるたぁ、すごいすごい」
姫野は、関心したように剣也をほめる。まだ舐められている。
「調子に、乗るな!!」
直後発動するのは、護りの剣豪 身体能力10倍の文字通り人間を超えた力
その力で、剣也は受けていた姫野の木刀をはじく。
そして間髪いれずに切り込む。しかし当たらない。
「大した力と速さだよ。あたっちゃう~」
姫野は、剣也の剣をすべてよける。正確には、剣也が何もないところを切り込んでいるのだが、冷静でない剣也には気づかない。
摺り足、基本中の基本だが、あまりに高度なその技術は、まるでその場にいることを錯覚させる。
思考加速で冷静になればよかったのだが、このババアは見事に剣也の心の隙をついてくる。
「こんの、ババア!」
煽られてプッツンきている剣也は、大振りを繰り返す。
相手は剣の道に人生をささげた妖怪。
いくら速かろうが、いくら力が強かろうがここまで大振りになった少年の攻撃など当たらない。
「ほい、熱くなりすぎ」
剣也が振り下ろしを避けられ地面を切ったとき、姫野が隙をついて剣也に切りかかる。
しかし避けられる。思考加速の反射神経なら。
「あんたなら反射するだろうね。だからここまで誘導したんだよ」
「え?」
剣也がよけようと一歩下がった足元には、姫野が怪しい踊りの時に投げていた鞘が置いてある。何もないと思って後ろに下がった剣也は、鞘を踏む。
そして体勢が崩れたところを姫野は見逃さない。
「ほらよ!」
木刀による振り下ろし。
これは決まった。
模擬線を見ている生徒たちはまさか剣也が敗北するのか。この国の英雄が?
これが人生を剣にささげた人間の到達点なのか。
戦いの次元が違う。組み立て方ひとつとってもすべてが上手。
これはさすがに決まったと一同が思う。
ただ一人を除いて。
数多の死戦をくぐった剣也は諦めない。
いつだってギリギリで勝ってきた。
いつだって最後には勝ってきた。
思考加速、護りの剣豪どちらもフルに使って無理な体勢のまま姫野の攻撃を受けきる方法を模索する。
剣はすでに振り切ってしまい、受けることはできない。
だから使用したのは、足を滑らせたこの鞘。
バランスを崩しながら倒れる剣也が、そのまま空中で、鞘を拾い、一回転。
姫野の一撃を受け流す。なんとか、その危険地帯から距離をとって剣也は再度立ち上がる。
その目は、先ほどまでの癇癪を上げるだけの子供の目ではない。
すでにそれは一人の戦士の目をしていた。
姫野は驚いていた。
今のはきまっただろう。何度も何度も経験してきた勝利の匂い。
模擬戦も、それこそ本当の意味の死会いも数多の戦いを繰り返してきた姫野の嗅覚が勝利の匂いを感じた。なのに結果はこれだ。あの少年は受けきった。
運命すら変えるか。この坊主は。それにあの目は、もうさっきまでのガキの目じゃ…
「ははは! これは参ったね。今ので決まらないんじゃ。私じゃ決定打は無理だ。あんたの勝ちだよ。はなたれ坊主。いや、剣也」
いきなり姫野は敗北宣言をした。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺はまだ一撃もあんたにいれてないぞ!」
「何言ってんだい。わたしゃもう70後半だよ。もう体がへとへとで。それでもこの老体をまだ殴りたいのかい。じゃあ好きにしな」
姫野はおちょくるように、体を差し出す。
剣也は行き場のない怒りを露わにしながら、ぐぬぬという声と共に諦めた。
強い。本当にこの婆さんは強い。正直このギフトがなかったら相手にもならなかった。
「で? どうだい? 敗北した私に鍛えてもらいたいのかい?」
姫野は、笑いながら剣也に問う。答えはわかっている。
「お願いします!」
剣也も頭を下げる。この人は剣術において遥か高みにいる。
この人の元で鍛えればより強くなれる。そう思った。素直に。
それほどこの婆さんは強かった。
このまま続けていればいずれ体力的に俺が勝っていただろう。
でもそんなのは求めていることじゃない。だから教えを乞う。
横で観戦していた一同は、唖然としていた。
これが人間が到達できる技術なのか。ギフトという特別な力を持つ自分たちとも互角に戦える。あの英雄を終始押していた。
ならば自分たちが、ギフトを持つ自分たちが腕を磨けば届くのかもしれない。
彼に、御剣剣也に。
俄然やる気がでた特進クラスの面々は、技術習得に精を出す。
「姫野さん、まずは俺はなにからすればいいですか!」
剣也はキラキラした目で姫野を見る。
「なんだい、気色悪い。掌返しすんじゃないよ。今まで通りでいいさね。まぁ慌てなさんな。お前さんに合うトレーニングは考えてやるから」
若干引きながら姫野は彼に合うメニューを考える。
「はい!」
「あぁ、そういえば一つ聞きたいことがあった!」
「なんですか?」
「お前夏美と住んでるらしいね。もう夏美は抱いたのかい?」
「ぶっ!」
どうしてこうも息子や孫の情事を聞こうとするんだ。
「なにをいいだすんだ、ババア!」
「なんだい。大層な剣をもってるのに、その腰の剣はなまくらかい?」
下ネタをババアが言うんじゃね。それに昨日は抜くチャンスはあった。
タイミングが悪かっただけだ。
「まぁいい。あの子ももう高校生だ。好きに生きたらいい。ただし責任は取らせるよ。剣也」
「わ、わかってるよ」
妖怪ババアは、これでも夏美のたった一人の肉親だった。
結構失礼を働いてしまったが、今更なのでもう気にしない。
「特進クラス! 全員クラスに集合だ! 緊急事態だ!」
直後小御門先生が、走って現れる。
その様子からただごとではないことを感じる。
6人は急いで教室に戻る。
そこには、防衛大臣 佐藤八雲が立っていた。
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