第25話 2-15 静香の葛藤

「静香?」

ビクッと髪が跳ねて罰が悪そうに、制服の美女が現れた。

腕を組みながら、なぜか見下すように言葉を捲し立てる。


「起きたようね。

体だけは本当に頑丈だわ。

これも生まれが関係しているのかしら。」


なんでこいつはいきなり喧嘩をうってくるんだ?


「なんだよ、いきなり。

何しに来たんだよ。」


「う、うるさいわね!

一応一緒に戦ったわけだし、様子ぐらい見に来るのが普通でしょう!」


あぁ、一応お見舞いに来てくれたのか。

「お見舞いに来てくれたのか、それはごめん。ありがとう。」


顔を真っ赤にしたまま、静香は席にすわる。


「あれ?静香その花瓶は?」


静香は花瓶をもっていた。


「み、水を変えてあげたのよ。」

慌てて花瓶を棚におく。


よく見ると花も新しい。

あれ?今来たわけじゃないのか?


「花と水かえてくれたのか?」


「なによ! 悪いの?」

何故か怒る静香

今日は機嫌が悪いな。


「それで? 体調はどうなの?」


「あぁ、ただの疲労だからな。」


「そう。」

静香は申し訳なさそうな顔で下を向く。

会話が止まった。

なんか気まずい。なんでこんなに怒ったり悲しんだりしてるんだ。


「ごめんなさい、私何もできなかった。」

絞り出すように静香がつぶやく。


「何を言ってるんだ。静香は俺が倒れている間時間を稼いでくれたんだろう?

あれがなければ死んでいたかもしれない。」

俺は本心からそう思っているので、静香を擁護するが、逆効果だったようだ。


「そんなことだれでもできる。

私は、私は震えていただけよ!

なにも、本当に何もしていない!」

静香は、訴えるように、謝罪するように、声を荒げた。


静香も何か思うことがあるらしい。

これ以上言っても、逆効果だろう。


その時だった。

「いいかな? 入っても」


「八雲さん!」

そこには、やつれた男が立っていた。

この国の防衛大臣であり、今回の大災害の対策本部の代表

しかし、目にはクマのようなものが見える。


「剣也くん。目が覚めたようだね。

よかった。」


「起きて早々で悪いが、今日の会見で、例の作戦を決行する。

よければ見てくれ。まぁ少し泣かせがすぎるが、いい出来だよ。」

きっとあのあとずっとこの後の会見のために動いてくれていたんだろう。


「いよいよですか。」


「あぁ、今日世論を味方につけて、神の子学園設立を宣言する。

現在確認されているナンバーズは、154名だ。

この宣言により、より多くのナンバーズが集まるだろう。

そして静香くん、君にはこの学園の代表になってもらいたい。

つまりは生徒会長だ。」


「私ですか?私よりもふさわしい方がいると思いますが。」

そういって静香は俺を見る。


「いや、彼はそう言うタイプではないと思う。

キャプテンとエースは必ずしも同じでなくてもいいのだよ。

怒らないで聞いてほしいが、君の性格、容姿、そして生まれ

すべてが代表として矢面に立つにふさわしい。」


生まれの部分で静香が反応した。

理由は知らないが、やはり家のことは気にしているのだろう。

容姿は、自他ともに認めているのか。

美人なのは認めるが。


「わかりました。

八雲さんがそういうなら引き受けます。

しかし条件があります。

この男を私の補佐として、副会長にしてください。」


「うむ、元々考えていた配置だ。問題ない。

剣也君もいいかな?」


副会長か。

全国の副会長には、悪いが

特に仕事はないイメージだ。

特に断る理由もないし、学園でそれなりの地位があるほうがいいだろう。


「わかりました。

大丈夫です。引き受けます。」


「よかった。では、そう発表しよう。

それじゃあ、私は会見まで、少し仮眠をとらせてもらうので失礼するよ。

あぁそうそう、剣也君あの刀の名前 考えてくれたかい?」


そして剣也は、刀の名前と成し遂げたい思いを八雲に伝える。


「いい名前だ。ありがとう。

今はゆっくり休んでくれ。本当にお疲れ様」

そういって八雲はその場を後にした。


「私ももういくわ、ゆっくり休んで。

それと、」


静香は振り返り、その長い髪をなびかせながら自分に言い聞かせるように剣也に言った。

「これで勝ったと思わないことね。

必ず追いつくわ。必ず」


気の強いお嬢様だな。


「あぁ、お互い頑張ろう。」

静香はその言葉に笑顔で返事した。


そして病室をあとにしようとしたときに、再度振り返る。

「あぁ後一つ忘れていたけど、私も寮に入るから。

実家から出るためのいい口実ができたわ。」


そして静香は部屋を後にした。


そうか、学園ができたら寮制だったな。

希望者には寮生活が始まる。

静香も寮生活なのか。

そういえば寮生活の場合 夏美と一緒に住むことになる。 

俺たちの関係は今なんなんだろう。

勢いで同棲しようとしていたが、特に告白もしていない。

退院したら、夏美に聞いてみよう。

俺たちってどういう関係?

なんだろう、その聞き方だと殴られる気がする。


会見までは少し休もう。少し疲れた。

さっきまで寝ていたはずなのに、目を瞑ればすぐに眠気が襲ってくる。

まだ疲労が抜けていなかったようだ。そして意識が暗転する。


しばらくして、

八雲大臣の戦いが始まった。

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