第12話 2-6 真っ白で真っ黒で真っ赤

剣也は静香の居合切りを、ただのペンで受け止めた。


「な!?」

刀をボールペンで受け止められた静香は驚愕の声をあげた。

止められたことも驚いたしかし、手から感じたこの違和感

本人が1番わかっている。

ただ止めたのではなく、絶妙な力加減で勢いをうまく殺された。

殺さないようにしたとはいえ、骨ぐらいまでは到達してやろうと

全力で切りに行ったのに、この少年は簡単に受け止めた。


「素晴らしい!!」

八雲は感嘆の声と拍手で、盛大に喜ぶ。

相当に嬉しいらしい。

でもやめて、お嬢様が、泣きそうだから。


「..ます。」

お嬢様が下を向きながら震えてる。


え?なんて?

声が小さい。なんていったの?

「なんて?」


ほんとにただ聞こえなかっただけなんだが、煽っているように聞こえたのか

静香は顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけた。

白い肌がトマトみたいに真っ赤だ。

真っ白な肌と、真っ黒な髪そして真っ赤なトマト

すごいコントラストを感じる。


「認めるっていったのよ! ええあなたの勝ちよ!

でもいい気にならないことね。

私がより強いギフトを手に入れて、あなたを超えるまでね。

そのときは、今度こそ、その腕切り落としてやる!」


怒号のような声を上げながら、彼女は部屋を出ていった。

嵐のような人だな。それに、腕を切り落とすって

ここ日本だよな。終始怖い人だった。


「すまないね。彼女負けることに慣れてないんだ。」


あんたが煽ったのも原因だがな。


「それにしてもすごい。

彼女はギフトを使わなかったとはいえ、彼女の攻撃を一方的に止めるなんて。

まぁギフトを使ったとしてもこれでは彼女に勝ち目はなかったね。」


「それです。ギフトってなんなんですか。

彼女にもギフトが? 聞きたいことが山ほどあるんです。

この世界に起きていることを教えてください。

そのために今日は来ました。」


八雲は落ち着いて、お茶を入れ始めた。


「あぁいいとも、もちろん君にはすべて話そう。

だがね。ことは少し複雑だ。

少し落ち着いて順序立てて説明しよう。

お茶でいいかね。あったかい緑茶だ。

心が落ち着く。」


「はい、ありがとうございます。」


「とりあえず座りたまえ。」

着席を促されて、俺は言われるがまま座った。

うわ、柔らか。なんだこの椅子

椅子の柔らかさに驚いていると。


八雲がお茶を机におき、対面に座った。

温かいお茶をすすると心が穏やかになる。

やはり日本人には、お茶だな。


「と言ってもまだわからないことだらけなのだがね。

私が知りうる情報を話す前に、先に君の身に起きたことを聞いてもいいかな。」


「わかりました。」


俺は、校舎が崩れたこと。

塔に触れたらアナウンスが流れたこと、そしてケルベロスが現れて、

リトライの果てに心の鉢が発芽してギフトを得たこと。

それを使って倒したことを話した。


「なるほど、君はとても強い心の持ち主なのだね。

何度もリトライしたということは、何度も死んだということだ。

私は死んだことはないが、死ぬという恐怖を人間は簡単に乗り越えられないことは知っている。」

この国の防衛大臣なのだ、人間というものが、戦いというものが

どういうものなのかこの人は良く知っている。


「とても大変だったね。」

八雲さんは、俺の目をまっすぐとみて、優しい声でいった。


なんだろう、とても話しやすいし、落ち着く。

これが一級の政治家なのか。それともこの資質が彼を防衛大臣にしたのか。


「いや、あの時は大切な人を守りたくて。

本当に必死でしたから。」


「なるほど、その状況も特殊だったわけか。

ありがとう参考にするよ。

正直に話してくれたんだ、私も誠意を持って知りうる全てを伝えよう。

これはテレビでもいっていないことだ。」


テレビでは誠意を持って全て話すといっていたのに。平然と嘘をついていたのか。

と剣也はちょっと心で悪態をついた。


「必要だったのだよ、国民を安心させるためにね。

それに嘘はついていない。国民が知るべき情報は本当に全て伝えた。」

怪訝な顔をした俺の心を見透かすように、八雲は答える。

これが政治家の読心術かと剣也は感心すると同時に答えた。


「いえ、嘘が、正しいこともある。

それは理解してます。」


「聡明だね、君は。」

目を伏せながら、それでも少し感じる罪悪感からか、八雲は少し間を入れてお茶をすする。


「では、まずはあの塔だが、

君のようにNoが割り振られた人間にしか反応しない。私たちはこれをナンバーズと呼んでいる。

君は、クエストクリアあと塔に触ったかな?」


「はい、そして僕の友人が触りましたが何も起きませんでした。

彼女はナンバーズではないということなんですね。」


「そういうことになるね。

2回目触っているなら話は速い。ダンジョンに挑戦するといわれただろう?」


「はい、Aランクダンジョンと言っていました。」


「なに!Aランクか。

Aランクはこれで私が知る限り2個目だな。

それはどこの塔かね?」


「希望ヶ丘高校という、僕が通っている学校です。」

その回答を聞くと。大臣は大きな日本地図を用意した。


「希望ヶ丘、なるほどこのあたりの塔か。

地図を開きながら大臣は、ペンでAと記載した。」


地図には、至る所に丸をしている。

ほとんどの丸にはBとかかれており、Aも他にひとつだけ見つけた。


「まずダンジョンだが、今のところ確認されているのが

BとAだ。ほとんどが、Bランクそして、把握しているだけで今二つになったAランクが存在する。


正直まだ全てを調査しきれていないのだ。

塔の場所はわかっているのだが、ナンバーズでしか反応しないからね。」


「さっきからナンバーズと呼んでいますが、

Noが振られた人が他にもいるんですか?」


「あぁ、その説明からしようか。

さっきここにいた静香くん。

彼女もナンバーズだよ。Cランクのギフトを持つ。

他にも協力してくれている子達はいるがまだ数十名と言ったところだよ。

君も含めてね。」


自分と同じ存在が他にもいる。Noという意味からうすうす感じていたが正解だったか。


八雲大臣は、話を続けた。

「その子達に、塔に触れてもらい情報を集めている。

そして、彼らに共通しているのは、

はじめて塔に触れた瞬間クエストが発生したということだ。


だが君のようなAランクではなく、

聞く限りでは、ゴブリン、スライムといったDやCランクばかりだ。

まだBランクも聞いたことがないな。


そして倒した後に、クエストクリアと言われたそうだ。」


それは俺と同じだ。なぜ俺だけケルベロスだったのだろう。


「クエストの難易度の違い、それはわからない。

なぜ君だけがAランクで、他はCやDなのかね。

ただ。みなクエストは、

選択されています。と言われたそうだよ。

あのシステム音からはね。」


選択されています。まるであらかじめ決めていたかのような文言だが、今はわからない。


「そして、それを倒したらクエストがクリアとなり

ポイントがもらえると聞いているよ。


そしてポイントを使用して、ギフトへと発芽することができるらしい。

そして心の鉢だったね。君がギフトを得ることになったのは。

まだその情報は聞いたことがなかった。名前から察するに精神力が起因するように思えるが

正直サンプルが少なすぎるな。


そしてクエストのポイントだが、クリア時のポイントは、DやCランクなどで統一されているようだ。そしてもう一つ これも重要だ。」


八雲大臣は少し貯めを作り教えてくれた。

「世界中で、このナンバーズは確認されている。おそらく桁数から最高でも

99999人のナンバーズが存在するのだろう。

そして、そのいずれもが高校生。正確には15歳から17歳の少年少女たちなのだよ。」


剣也は考えた。

高校生、そして10万人近い人数が世界中に存在する。

その二つに意味があるのか、わからないが、いまナンバーズの共通点はその一点。

年齢だけだということ。


「ここまでをまとめた資料を用意している。」


そういって大臣は、一枚の資料を机からとってきて渡してくれた。

塔、並びにギフトついてと書かれたその資料には、様々な情報がまとめられていた。

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