第2話 ソロプレイ
廃墟都市ルミナリエは廃墟の上に出来た街だ。設定上、一度滅んだ世界の上に成り立っているこの世界はこういう神秘的なオブジェクトが多い。森に行けば、建物の残骸や機械の残骸なども点々としているし、遠目に見えたダンジョンは洞窟というより何かの施設跡に見えた。
「本当に、凄い気合入ってるよね。アバターも人間かと思うくらいだし」
後ろに誰か立っている気がして振り向いたらNPCだったなんてこともあった。結構な恐怖体験である。NPCは基本話しかけなければ物言わぬので、あれはただこっちを見て黙っているおじさんが真後ろにいたというトラウマ一歩手前の状況だった。
ビビり過ぎて一瞬端末のセキュリティ機能が働いて強制ログアウトされかけた。こんな有様で大丈夫なのだろうかと心配になる。
「かといって、伊織が来るのを待つのもなぁ。何か月かかるか分からないし……」
そうなると滅茶苦茶怖いが誰かに話しかけてみるべきだろうか。いややめよう。拒否されたらもうゲームに戻ってこれない。
誰かとやれないなら、一人でやれる方法を模索する。それが私の今までの生き方だ。ゲームだからってそれは変わらないだろう。ゲームとは人生である。深いように見えて、底の浅い言葉だ。
「今のコンセプトを突き詰めていく方針にするか、一人でも死なないようにするか……うむむ」
しばし考えて、私は結局今のクリティカル攻撃メインの戦闘スタイルをとることにした。一人でもそうそう死なない防御を得るというのは、大盾を装備してスピードを犠牲にすることに近い。一人で戦うのに、トロイのもまあなんだかなという感じだ。それに一人なら身を隠すのも容易だろうし。そういう意味でも不意打ち、クリティカルに特化した方が合理的に思えたのだ。
「よし、それならスピードアップ系で防具を揃えよう。攻撃だって食らわなければゼロダメージだしね」
かなり極端な暴論を述べながら、私は自分の選択に大いなる自信を持っていた。
しかしこれが一番危ない。
人生とはゲームである。私の人生において自信のあることというのは、転じて最も最悪な選択だったりするのだ。
「ぎやあああああああああ」
ゲームを始めてから数十回目の断末魔が森に響き渡る。今度は火炙りにされた。食われたり、頭を割られたり、刺されたり、貫かれたり、割とショッキングな死に方を開幕から提供してくれるゲームだなと思った。殺され方によっては出血もあった。運営の質の悪さが見え見えだ。意外と私好みだ。いややられるのが好きとかじゃないよ。
腹を裂かれたのに内臓が出てこないところには疑問符が付いたが。
「はぁ……攻撃を回避するのも大変だな。敵の攻撃パターンを完璧に熟知しないといけないし、これ死んで覚える系なのか……」
単にパーティプレイ前提の強さになっているという点を私は失念していた。
元来コツコツと何かをするのは嫌いではない私は、その後も廃墟都市ルミナリエ周辺の森を歩き回っていた。出会う敵の攻撃技を食らったり攻略ページで見て覚えたり、こちらの使う短剣のリーチ、軽さ、振った感じなど色んなものを研究して研究に研究し尽くす。
敵の攻撃を回避しきれず死んだり、回避は出来ても攻撃が当たらなかったり、攻撃は当たってもスキルが発動しなくて反撃食らって死んだり、たまに運よく一発KO出来たりを繰り返す。
狙って敵を倒せるようになるまで丸二日かかった。
丸二日と言っても、学校が終わってから帰って来て、夕食とお風呂の時間を除いた寝るまでの間なので、時間にしては六時間ちょっとか。丸二日というか半日だ。
「いやいや丸二日も殺され続ける狂気のプレイングするヤツは綾香以外にいないだろ」
とは電話で話した伊織の言葉だ。伊織から各モンスターはパーティで戦う前提でステータスが組まれていると聞かされたが、それでも誰かに話しかけるのは怖いので絶対に嫌だった。
我ながら頑固だと思うよ。本当に。実際の所、二日目になっても不意打ち以外でまともに戦闘出来ない辺りで、誰かに助けを求めようかと思った。
しかし! それで諦めては女が廃るというもの。運営がパーティで戦わせようとするのならば、こちらは意地でもソロプレイを貫いてやる。不意打ち上等。卑怯だと何とでも言ってみろ。そんな感情が生まれていた。
自分でも思うが、割と狂気的だ。
そして一週間が経過した。廃墟都市ルミナリエの周辺のモンスターのすべての動きを完璧に熟知して、いつの間にか習得していた謎スキル【首狩り】の効果も合わさり、一撃で敵を倒す方法を編み出した私はもう森の王者だった。
ちなみに現在の私の戦闘スタイルは、正面から敵と相対して、攻撃を回避、背後に回り込んで【バックスタブ】の発動条件を満たしてから、モンスターの首を攻撃するというもの。バックスタブ自体はアタッカー役の必須スキルだが、実はまだ大盾使いのヘイト系スキルの発掘が進んでいない為、これをメインで使う人はいない。アタッカーがソロで動くなんて想定されていないらしい。運営の穴を突いたというより、運営が穴だらけなのだ。いずれ【バックスタブ】も弱体化するだろう。
確定クリティカルの【バックスタブ】と、首への攻撃に高い攻撃補正と防御無視が付く【首狩り】の二つの武器で敵をばっさばっさとぶっ殺して回っていた。
「でも……これ、アレだよね。やりがいに欠けるというか。ギリギリ感が余り無いなぁ……」
この一週間、私は初心者プレイヤーだった。初心者プレイヤーにはプレイヤーアイコンにクローバーのマークがつく。これにどんな意味があるかと言うと、PvPの対象にならないというものだ。外に出てもプレイヤーに狙われないし、こっちから仕掛けることも出来ない。初心者狩りを防ぐためのものでもある。
クローバーの解除は設定から出来るので、これを解除すれば、私はPvPがやれるようになる。しかしそれは今までみたいに森をのうのうと歩き回れなくなるということだ。加えてソロの私はパーティで動く他の人たちからしたら鴨同然。
「これは……やらない理由は無いでしょう!」
私は即座にクローバーの解除を行った。プレイヤーアイコンのクローバーの部分が緑色のマークに変わった。これは秩序を表すマークでまだPKを行っていないという証だ。一度PKされた反撃でのPKや、初撃食らった後の応戦によるPK以外で、PKを行った場合、このアイコンが混沌を表す赤いマークになる。
まあ要は、こっちから仕掛けない限りいつまでも秩序側ということだ。
そしてこれで私も正式に狩られる側に回ったということだ。
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