記憶がなくても君が好き

古味矢川 侑

第1話 嬉しかったのに

 春は桜が咲き、終わりを迎え、新しく始める準備をする季節。でも、ドキドキとワクワクの季節だけではない。


 高校の終業式を終えた幼馴染の、鎌田 准と柊 奈々子が、通学路の帰り道を二人はドキドキしながら帰っていた。


「今日から春休みだね〜」


「ああ、そうだな」


「そういえば、もうすぐ准の誕生日だね」


「え、ああそういえばそうだったな」


「そういえばって、普通自分の誕生日忘れかける?」


「しょうがないだろう、それどころじゃ無いんだから」

と准がボソッと言った。


奈々子は少し不思議に思ったが奈々子も気にする余裕はなかった。二人はいつもとは少し違う雰囲気を漂わせながら、赤信号の横断歩道で立ち止まった。


「誕生日プレゼントいる?」

と奈々子が顔を隠すように下を向きながら准に訊いた。


「あるならちょうだいよ」


「しょうがないな、でもプレゼントあげる前に問題です。プレゼントの中身はなんでしょう!」


「マジで当ててやる!」

そう言うと准は真剣な顔で考え始めた。


「わかった!お菓子だろ!」

准は得意げに答えた。


「なんで真剣に考えた結果がお菓子なのよ!お菓子なら誕生日じゃなくてもあげてるでしょ!」


「だって、他に思いつかねぇんだもん」


「しょうがないなあ、答えはあげてからのお楽しみ!」


「えー、なんだよ。」


と話していると、横断歩道の信号は青色に変わり准はワンテンポほど遅れて、横断歩道を歩き出した。


その時だった、白色の普通車が猛スピードでクラクションを鳴らしながら横断歩道に向かってきていた。


クラクションの音にびっくりした准は横断歩道の三分の一の渡ったところで立ち止まった。車が准に向かってきていることに気づいた奈々子は反射的に横断歩道に飛び出し

「准、危ない!」

と言いながら奈々子の最大限の力で准を前に突き飛ばした。


クラクションの音がだんだん大きく聞こえると同時に車が奈々子に近づいた。


准が前に思いっきり転ぶと同時に

「ドン!」

と准の後ろで大きな音がした。「いって!」と言いながら准は後ろを振り返った。


准は、驚いて目を見張り、心臓を実際に聞こえそうなくらい大きな音で「ドクン」と音をたてた。


准は目の前に起きていることが受けいられなかった。准の瞳には、紅く染まった地面にさっきまで仲良く話していた幼馴染、柊奈々子が地面でピクリともせず、倒れているのだから。


「嘘だ・・ウソだウソだ・・・」


そう言っていると周りにいた人たちが駆け寄ってきて、


「君、怪我は無いかい?痛いところは⁉︎」


そう准は訊かれたが、准は転んだ時の痛みよりも、目の前のことで頭がいっぱいだった。


するとすぐに大きな音をたてながら救急車が来た。

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