第22話 鉄の猟犬
【ゴプロ君1号】とモノクルで、その動きは一目瞭然だ。
「先制攻撃をするよ。射線をあけて」
「お手並み拝見ね」
膝立ちになった僕は、【
とにかく、なんであれ見えていることが重要だ。
そういう風に調整した
(この位置──今だ!)
もはや目で追えぬほどの速度で飛翔したそれは、僕の狙った通りに先頭を走る
「一つ。駆動に問題なし。続いて……二射目、三射目」
宣言して
そのたびに、
まるで現実味のない一方的な攻撃だが、そんな甘っちょろいことを言っている場合ではない。
やると決めたら、徹底的にやるのが『無色の塔』の掟だ。
「……!」
そして、何度か目の射撃の後、ついに
「姉さん、チサ。来るよ!」
「ええ、見えてるわ!」
「はい。お任せくださいませ」
【
そして、両の手にそれぞれ小太刀を抜くチサ。
二人とも、なんて様になっているんだろう。
それに比べて僕ときたら。
……愚痴を言っていても始まるまい。
僕とて最低限の仕事はした。この接敵までに七匹も
「俺もやる! エファさん、指示をくれ!」
「遊撃して。あと、ノエルのサポートをしてくれればいいわ」
「大丈夫。僕は僕で何とかするよ!」
消費型の
「強化、いくよ! 〝
腰に挿した【
この強力で便利な機能の巻物は、父が冒険者時代に開発した
もちろん、それ故に製作コストや難度は非常に高く、そう気安く使えるものではないが……ここは使い時だろう。
「ありがと、ノエル! いくわよッ!」
白色の大剣を担いだまま、姉が矢のように飛び出していく。
〝英雄の再来〟だとか、〝勇者の弟子〟だとか言われる姉の戦闘力は、化物じみている。
「アウスさん、行ってください。僕は大丈夫です」
「了解した!」
弓に矢を三本つがえたアウスが駆けだしていく。
姉とチサが褒めるくらいだ、きっと彼は強い。
僕の防衛に回すよりも、攻勢に出たほうが逆にリスクは下がるだろう。
「でぇぇやぁッ!!」
前方では、姉が思うさま【
特殊な硬質石材でできたあの魔法の武器は、脆い。
脆いが故に欠けるわけだが……その欠片全てが鋭い刃と化す特殊な性質を持っている。
姉の膂力であの剣を揮えば、まるで刃の風が舞うようにして周囲を切り裂くことができるわけだ。
一振りであっという間に
「さて、僕も出来ることをしよう」
抜けて村へ向かおうとする
意外と脆いのだ、あれは。
「〝
【
さらに、その後方から姿を現した
さすがに
よくよく考えてみれば、【
消耗していて当たり前か。
「ノエル様、大丈夫ですか?」
「大丈夫、問題ないよ」
「お顔の色が悪いですよ?」
おっと、顔にまで出てしまっていたか。
アウスにああも見栄を切った手前、何とかもたせたいが……。
上空に待機する【ゴプロ君1号】で戦況をチェックする。
中にはすでに撤退を見せている個体もいた。
どうやら、この戦いはもうすぐ決着がつきそうだ。
僕らの勝利という形で。
そこまで考えて、僕は違和感に気が付く。
「……!」
「どうされました?」
「
「此度の戦闘では見ていません」
チサの言葉に、僕は小さく恐怖を感じる。
動き出したときにはいた。移動中も、姿は見ていた。
だが、接敵してから姿が見えないというのはどうしたことだろうか?
ここで仕留めるつもりで算段していたというのに。
「まさか、集落に……?」
「……ッ! チサが参ります」
「うん。確認だけでいいから、よろしく」
後方に向かってチサが音もなく駆けていく。
一緒に行きたかったが、いま僕がここを放り出せば
「いま僕にできることを、精一杯にやるんだ」
確認するようにそう口にして、未だ戦闘が続く前方を注視するのだった。
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