第12話 領都への道にて
整備された街道を北西へと向かって歩く。
それに伴い、僕らは自分たちのおかれた状況を徐々に理解することとなった。
まずここがスレクト地方──つまり、エルメリア王国であるということ。
エルメリア王国は
そして、もう一つ。
納得しがたく、信じがたい事実。
僕らは、やはり時間を越えてしまったらしいということ。
周辺状況や出会う人々の服装、そして途中立ち寄った宿場町で確認された日付。
これらを総合的に判断するに、僕たちはおよそ四十年ほど前のエルメリア王国に転移したということがわかった。
「弱ったな……」
僕は項垂れながらも道を行く。
この状況はどれにとってもまずいのだが、こと僕に関してはことさらにまずい。
四十年前のエルメリア王国というのは、『
『
今のところ、現地人との積極的接触を避けているため大きな問題となっていないが、これが顕在化するのは時間の問題だ。
だが、あの
「何とかなるわよ。お姉ちゃんを信じなさい」
「姉さんを信じないわけじゃないけど……」
「なら、背筋を伸ばす! シャキっとなさいよ」
この先、どうやっても僕が足手まといになるが目に見えている状況で元気を出せと言うのはなかなか難しい注文だ。
「わたくしはこの時代に疎くて……。そんなに難しいのですか?」
「うん。僕がいると、おそらく宿には泊まれないと思う。この時代、『
「問題ありません。このチサが、野営の準備をさせていただきますので」
胸を叩くチサに思わず苦笑いを返す。
結局、僕らはお互いの距離感を測りかねて奇妙な関係となってしまった。
僕としては幼馴染としてフラットに接したかったのだが、そうするとチサの居心地が悪いらしく、緩い主従関係というところに落ち着いたのだ。
「でも、領都に入れなかったりすると問題ね。
「はい、わたくしにもわかりません。やはり、ノエル様に見ていただかないと」
「だよね」
不安を相談で紛わせながら、街道を行く。
空には青空が広がり、そよぐ風は新緑の香りを乗せて爽やかだが、気分は晴れない。
悲観的に考える癖があるのは自覚するけど、さすがにこれは状況が重たすぎる。
「た、たすけてくれぇーッ!」
ゆるやかな丘を越えて、目指す領都まであと数刻といったところで何者かが悲鳴を上げながら駆け寄ってきた。
ぱっと見るに、おそらく交易商人だろう。それなりにいい身なりをしている。
「あ、あんたら冒険者か? 助けてくれ!」
「報酬と危険度によるわ」
いや、姉は正しい。冒険者は危険を金に換える問題解決の専門家であってただ働きはしない。愚かなお人好しでなければ。
幸いというか、なんというか……危険については目視の範囲に入った。
鮮やかな青い鱗を備えた大型の爬虫類が三匹、二本足で地を蹴ってこちらへと迫っている。
「
姉とチサに聞こえるように声に出しつつ、僕はプランを模索する。
僕は魔技師だ。専門には遠く及びはしないが、ちょっとした魔法使いの真似事ならできないこともない。
だが、そのための
この先、都市に入れるかどうかも不明瞭な状況で無駄な消耗はしたくない。
「金なら払う!」
「言い値って事でいいのかしら?」
「かまわん! だから、頼む!」
「乗った!」
姉が背負った大剣を引き抜く。
母が姉の十五の誕生日に贈った純白の魔法剣──【
その強力な性能を十全に揮うことができるのが、姉のすごいところだ。
「チサ、攪乱を! 牽制は僕でやる」
「了解です」
風を切って駆け出していくチサの背中を見送りつつ、僕はポケットから親指ほどの小石を七つほど取り出す。
もちろん、ただの石ころなどではない。
れっきとした攻撃用
「【
少し魔力を通して起動した魔法の小石は、石弓の太矢よりも速く鋭く
全弾頭部に向かうようイメージしたつもりだが、精度が悪い。作成した僕の実力不足だ。
……とはいえ、命中そのものはしているのだ。
怯ませることはできたし、牽制の役割は果たしている。
「ナイスよ、ノエル!」
真っ白な大剣を振りかぶって、姉が力強く地面を踏みしめる。
体ごとぶつかるようにして振るわれた一閃は、小型の馬ほどもある
「ラスいち!」
「いいえ、終わりです。エファ様」
最後の一体はすでに事切れて、地面に臥していた。
チサの小太刀が頭部の急所を貫いたらしい。
「終りね。さて……と」
【
「依頼完了よ。約束の報酬をいただくわ」
「あ、ああ」
「言い値でいいのよね?」
「あー……いや、何というか。言葉のあやって言うか、焦ってたっつーか……」
にじり寄る姉から後退る商人。
とはいえ、僕はともかく姉は第四等級冒険者だ。
たかだか
「あら、踏み倒すつもり?」
「そ、そんなつもりはない! だが、あいつらに襲われて荷はダメになっちまった。今は持ち合わせがない。領都に行けば、借りてでも払うとも」
「いいわ、オーケー。じゃあ、領都までロハで護衛してあげる。ほら、行きましょ」
商人の手を引いて立ち上がらせて、姉がニコリと笑う。
「うん、これでいいわね。これはラッキーよ、ノエル」
「……?」
上機嫌な姉に少しばかり首を捻りつつ、僕らは領都を目指して再び歩き出した。
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