―30― 国盗り

「お久しぶりです、ナルハさん」

「ええ、お久しぶりですわね」


 そう言ったナルハさんいつものメイド服ではなかった。冒険者の格好をしていた。


「今、お話できますの?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「最悪、屋敷の中に侵入しないとあなたに会えないかと思いましたが、あなたから外に出てきてくれて助かりましたわ」

「えっと、メイドらしからぬ発言ですね。侵入だなんて、物騒な」

「わたくしはただのメイドではないので」


 と、彼女はそう主張した。

 冒険者の格好をしているし、そうなんだろうと思ったが、詳しく聞く気にはなれなかった。

 聞きたいことは他にたくさんある。


「それで、ティルミお嬢様は今、どういう状況なんですか?」

「そうですね。まず、なにから説明すべきでしょうか……」


 ナルハさんは考えるそぶりをする。


「まず、ティルミお嬢様の目的から話しましょうか。彼女の目的は、この国をとることでございます」

「国をとる?」


 その言葉にピンとこず、そう聞き返す。


「国家転覆とでも言い換えましょうか。ティルミお嬢様はこの国の王になることを画策しています」

「はぁ」


 あまりにも壮大な目的に思わず溜息が出てしまう。


「じゃあ、なんのために捕まったのですか?」

「内戦を起こさないために、ですかね。すでに、このナーベル王国の内情はボロボロなんですよ。国王の信頼は失墜、対して、本来国王より下に位置する領地が力をつけている。このままだと、国を二分する大きな内戦が起きてしまいます。だから、それを起こさないためにティルミお嬢様が捕まったってところですかね」

「わからないです。お嬢様が捕まることが、なぜ内戦を起こさせないことに繋がるんですかね?」

「それほど、ティルミお嬢様が人気なんですよ。ティルミお嬢様が一声かければ、この国の半分がティルミお嬢様の味方につきます。そうなれば、泥沼のような戦争の幕開けです」

「別に内戦が起きてもいいと思いますがね。ティルミお嬢様が国王になるためには、内戦に勝つ必要があるんじゃないですか」

「内戦が起きたら、国力の低下は免れませんわ。内戦に勝っても、その後他国から侵略されたとき抵抗できなければ、元も子もありませんわ」

「だからって、お嬢様が犠牲になる必要はないと思いますが!」


 思わず大声を出してしまった。

 どうしてもわからない。ティルミお嬢様が捕まらなくてはいけない理由が。


「言ったでしょ。ティルミお嬢様はこの国の転覆を企んでいると。捕まれば、例え囚人だとしても国の中枢に潜り込むことができますわ。あとは、着実に味方をつけて、世論を変える。それがティルミお嬢様が今している戦いですわ」

「捕まったら、処刑されてしまう可能性もあるんじゃないですか」

「その心配はないかと。今、ティルミお嬢様を処刑すれば、民衆が暴動を起こしますわ。それほど、彼女は民衆から支持されているのです」

「……そうですか」


 そう頷いて、無理矢理自分を納得させる。

 ティルミお嬢様が考えあって行動していることは理解していた。だから、僕が文句を言う筋合いなんてどこにもないんだ。


「なぜ、事前に伝えてくれなかったんですかね?」


 もし、事前に説明していてくれたら、もっと心から応援できたかもしれないのに。


「さぁ? それはわかりませんが、恐らくあなたに伝えてしまうと決心が揺らいでしまうと考えてしまったんのではないですかね」

「そうですか」


 ナルハさんの答えに少しだけ心が落ち着く。

 蔑ろにされたわけじゃないんだ。


「僕にできることはないんですかね」

「お嬢様はあなたの力を借りることを良しとしていませんわ」

「なぜ、なんですか?」

「あなたの力は強大すぎる。あなたの力を借りてしまえば、民衆はあなたを王にしようとするでしょう。ティルミお嬢様が王と認められるには、自分の力でそれを成し遂げなくてはいけません」

「そうですか……」


 なにもできないと知られされて、歯がゆい思いをする。


「ただ、一つだけお願いがあります」

「なんですか?」

「この領地に、聖剣がないかどうか探して欲しいのです」

「えっと、クラビル領に聖剣があるんですか?」

「あくまでも可能性の一つですかね。聖剣の在処は正直、見当もついていない状況です。ただ、聖剣を手に入れることができれば、強力なカードとなるのは事実です。少しでも、手掛かりを見つけるのに協力していただけると幸いですわ」

「わかりました」


 そう返事をすると、ナルハさんはここを去ろうとした。

 最後に、一つだけ聞きたいことがあったので、質問をする。


「いつまで待てば、お嬢様に会えるんでしょうか?」


 彼女は首を傾げて「さぁ?」と口にした。

 1年後か、5年後か。それとも10年後か、いつこの戦いが終わるのかなんて、誰にもわかりませんわよ。

 そう彼女は言葉を残して、この場を立ち去った。


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