―23― エピローグ

 その後、村では大量の鎧ノ大熊バグベアのお肉を使った宴が執り行われた。

 当然、僕とティルミお嬢様や他の冒険者たちも参加した。

 こんなお祭りのような騒ぎに参加したのは、人生で初めてだったので、とても楽しい思い出になった。

 ただ、一つだけ気になったのは、ティルミお嬢様の様子がどうにもおかしかった。

 なんだがいつもよりも大人しいような。とはいえ、色んな人たちと普段通りにコミュニケーションをとっているような気もするし、やっぱ気のせいかもしれない。


 結局、その日は村で一泊してから、次の日の朝帰ることになった。


「ティルミお嬢様ありがとよー!!」

「ありがとー!!」


 と、村人たちにお礼を言われながら、馬車に乗り込む。

 ティルミお嬢様はいつも通り、笑顔で手を振りながら、村人たちに応えていた。


 そして、馬車が進めば、もうそこは二人っきりの世界だ。


「ティルミお嬢様、お疲れ様です」


 なにか気の利いたことを言わないと思って、そんなことを言う。


「………………」


 なぜか、ティルミお嬢様は黙っていた。

 いつもなら、ティルミお嬢様は僕に笑顔で話しかけてくれるのに。

 ふと、不安が過ぎる。

 知らないうちに、なにか嫌われるようなことをしてしまったのかもしれない。それで、お嬢様が僕のことを無視していると。

 もし、そうなら最悪だ。

 お嬢様に嫌われたとなると、この先どうやって生きていけばいいのかさえわからない。


「あ、アメツ……」


 と、お嬢様は口にする。

 なぜか、顔は外のほうを向いており、こっちに視線を向けようとしない。


「はい、なんでしょう?」


 ひとまず、気にしない風を装ってそう口にする。


「ありがとう、助けてくれて。その、ちゃんとお礼を言えていなかったから」

「いえ、僕は当然のことをしたまでです。それに、申し訳なくも思っています。本当はもっと早くお嬢様を助けるべきだった」


 あの場にもっと早く駆けつけていれば、お嬢様は苦しまないで済んだ。間に合ったからよかったものの、それでも後悔の念は消えない。


「別に気にしていないわよ。それに、すごいのね。あれだけの魔物を一瞬で倒してしまうなんて。流石に驚いたわ」

鎧ノ大熊バグベアは特別強い魔物ではありませんし」


 クラビル伯爵の奴隷だったときは、もっと強い魔物と戦わされていたことを思い出す。


「そんなことはないと思うけど……」


 というティルミはお嬢様はやはり窓のほうを向いていた。

 なんで、僕のほうを見てくれないんだろう。


「あの、お嬢様。一つ伺ってもよろしいですか?」

「な、なにかしら……」


 僕は決心して、聞いてみることにした。


「なぜ、さっきから窓のほうを見ているんでしょうか?」

「別に理由なんてないけど、駄目かしら?」


 そう言われると困る。


「別に、駄目ではありませんが」


 どこを向いていようとその人の自由だ。とはいえ、やはり不自然だ。


「その、気づかぬうちに僕がなにか粗相をしてしまったのかも、と不安になりまして。それで、お嬢様はさっきから僕に目を合わせてくれないんじゃないかと……」

「そんなことない!」


 僕の言葉をかぶせるようにお嬢様はそう叫んだ。


「私はアメツに感謝しているって言ったでしょう。だから、アメツが気に病むようなことは一つたりともないの」

「で、ですが……」

「わかったわよ。あなたのほうを見ればいいのでしょう」


 そう言ってティルミはこっちに振り向く。


「どう? これで満足かしら?」

「えっと……」


 戸惑ったのには理由があった。

 なぜか彼女の顔が耳まで真っ赤だったのだ。そういえば、昨日も顔が赤かったような。


「お嬢様、もしかして気分がよろしくないのですか? 熱があるように見えますし」


 そう言いつつ、彼女の額に手をのせる。

 やはり熱いな。これは熱があるとみて良さそうだ。


「あ……っ、はぅ……っ!」


 どういうわけか、僕がお嬢様の額に手を乗せている間、彼女は口をパクパクと閉じたり開いたりしていた。

 挙動不審なのも熱が原因なんだろうか。


「や、やめてっ!」


 そう言って、ティルミお嬢様は離れるよう僕のことを両手で押す。

 その瞬間、「しまった」という感情がわく。


「申しわけありません! お嬢様に不用意に近づいてしまいました」


 熱かどうか確かめるためとはいえ、流石に近づきすぎた。お嬢様が驚くのも無理はない。これは反省だ。


「ち、違うっ! 私のほうこそ……その、と、とにかく違うのっ!」


 と、彼女はあたふたしながら、そう言って、再び窓のほうを向いてしまった。

 なにを言いたいのかよくわからなかったが、お嬢様は怒っていないということでいいのだろうか?

 今のお嬢様がなにを考えているのか、よくわからない。





(やばい、やばい、やばい……!)


 馬車の中、ティルミ・リグルットは焦っていた。

 ティルミは自他共に認める美少女だ。

 それでいて学業は優秀。性格も素晴らしく、周囲からは慕われている。

 社交界にでれば、大勢の男たちから誘いの言葉を囁かれる。

 そう、ティルミ・リグルットは国一番の人気者といっても過言ではない。

 だというのに……っ。


「~~~~~~~~~~ッッッ!!」


 さっきからティルミはひたすら悶絶していた。

 自分が傍から見たら挙動不審なのもわかっている。けれど、どうしてもそれをとめることができない。


(好き、好き、好き、好き、好きすぎる……ッ!!)


 とか思いながら、その場でジタバタする。


(あぁ、でも、駄目! ティルミ・リグルットはみんなのティルミ・リグルットよ! 一人の人間にご執心なんて、そんなのお笑いものだわ!)


 ティルミにはあらゆる人物から好かれたいという欲求がある。

 そのためには、自分は聖女のように高潔でなくてはいけないと思っていた。

 ゆえに、誰に対しても平等に優しくすることを心がけている。

 そんなティルミにとって、一人の人間を好きになるなんてあり得ないことだ。


(あぁ~、でもかっこよすぎるよ~っ!)


 ちらりとアメツのことを見て、再びティルミは悶絶していた。

 これからもティルミの奇行は続くに違いなかった。



第一章 ―完―



――――――――――――――――――――――――――――




【大事なお願い】


第一章完結です!!

ありがとうございました!


引き続き更新を続けていきたいと思っていますので、


「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばって」


など、思っていただけましたら、

星やレビューをいただけると幸いです。

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