―03― 解除
「ほら、これで涙を拭きなさいよ」
突然、泣き出した僕を見て、ティルミお嬢様は動揺しながらもハンカチを手渡してくれた。
「……ありがとうございます」
そう言って、僕は涙をハンカチで拭く。
「それで、さっきの魔術、どうやったか教えなさい!」
「〈必滅魔弾砲〉のこと?」
「そう、それよ! どの系統の魔術かさえ、わからなかったわ! 一体、どの系統の魔術なの、あれは?」
魔術にはおおまかに三つの魔術に大別される。
自然魔術、神聖魔術、古代魔術。
さらに自然魔術は火、水、風、土の四つの系統にわかれる。
神聖魔術は治癒、結界、契約の三つ。
古代魔術は強化の一つのみ。
そして、これら8種の魔術を系統魔術と呼ぶことがある。
そして、僕の〈必滅魔弾砲〉はどの系統にも属さない。
だから、こう口にした。
「あれはどの系統の魔術でもありません」
「え? どういうこと!?」
彼女は驚いたとばかり目を見開く。
えっと、一体なにに驚いているんだろうか。実際に、どの系統にも属さない魔術なんてそう珍しくないと思うんだけど。
「僕の魔力容量は他の人より少ないから、系統魔術だと第一位階の魔術までしか覚えることができなかったんです。だから、既存の魔術から、さらに性質を分割させてより効率的な魔術を作る必要があったんです」
「ちょ、ちょっと、待って! あなた自分がなにを言っているかわかっている!?」
「なにって、〈必滅魔弾砲〉の説明ですけど……」
って、僕もなに真面目に〈必滅魔弾砲〉の説明しているんだろうか。
こんなに近くに殺さなきゃいけない標的がいるっていうのに。横を見ると、ティルミお嬢様の首が見える。今なら、簡単に殺すことができるな。
けど、もういいかな。
彼女を殺す気は失せてしまった。
「いやいや、あなたの言っていることがもし本当なら、あなたは希代の天才魔術師よ」
なにを大げさな。
僕の魔術は命令を守るために必死に生み出しただけのちょっとした小細工なんだが。
「まぁ、いいわ。それで、あなたの説明を続けてちょうだい」
「えっと、アカシックレコードって聞いたことがありますか?」
「ええと、確か、あらゆる事象が記録されている高次元の領域だっけ。でも、アカシックレコードは仮説上の存在で本当にあるかどうかはわからないはずだけど」
「アカシックレコードは存在する可能性が高いと僕は思っています」
「え、えっと……」
アカシックレコード、言い換えると高次元万物記録層域となるわけだが、過去から現在までのあらゆる事象が記録されているとれる仮説上の存在だ。
そして、アカシックレコードには魔術に関する記録も刻まれている。
「アカシックレコードは常に、僕たちに干渉しています。そのせいで、魔術は本来のものから歪んでしまっている可能性が高い」
「えっと、もっと私でもわかるように説明してくれる嬉しいんだけど……」
そう言われてもな……。
僕は今まで、自分の魔術を誰かに説明したことがない。だから、なんて言えば伝わるのか見当もつかない。
「〈
そう言って、僕は指先から水の塊を発生させる。
「一見、この水の塊を浮かせては移動させるだけの魔術だけど、本来、この魔術を一から術式を構築して発動させようと思うと、非常に高度なことをしていることに気づかされるんです」
「どういうことなの?」
「まず、水の生成、これは魔力を水へと具現化させるという非常に高度な魔術なんです。そうしてできた水の塊を宙に浮かせる。これは重力の操作に当たる。それを意のままに動かすのは運動能力に関与しているということです。第一位階の〈水球〉だけでも、三つの複雑な魔術を発動させているのに、多くの魔術師はそんなこと意識せずに魔術を発動させています。なぜ、そんなことが起こりえるのか?」
と、僕はここで一息ついてから、こう結論を口にした。
「それは、アカシックレコードに、すでに複雑な術式が刻まれてるいるからです。無意識のうちに魔術師はアカシックレコードに書かれている術式の力を借りるせいで、簡単にできてしまう魔術だと錯覚してしまうんです」
と言って、自分勝手に喋りすぎてしまったことに気がつく。
見ると、ティルミお嬢様はぽかんとした表情を浮かべていた。
どうやら嫌いでない魔術に関しての話になると、僕は饒舌になってしまう癖があるようだ。これからは気をつけていかないとな。
「す、すごいわ……っ」
「え?」
一拍遅れてティルミお嬢様が僕のことを賞賛した。
「あなた、すごいわ! 本当にすごいわ! これが本当だって証明されたら、あなたは希代の魔術師ですよ!!」
ティルミお嬢様が興奮してなのか、俺に抱きついてきた。
おかげで、柔らかい胸が当たり思わずドギマギしてしまう。
「えっと、別に、そこまですごいことじゃないですよ……」
僕の魔術なんて、命令を守るために必死に編み出した小細工だ。
僕の魔力容量が少ないから、こんなことを考える必要があっただけで、魔力が多い人ならこんなこと考える必要ない。
「なにを言っているのよ! あなたの発見はとても偉大なことよ!」
流石に褒めすぎな気がする。
「決めた。あなた、私の物になりなさい!」
「……え?」
なにを言っているんだろうか、このお嬢様は。
「無理ですよ。僕はすでにクラビル伯爵家のガディバ様の奴隷です。契約魔術がある以上、僕はガディバ様に逆らうことができません」
「そんなの気にする必要ないわ」
しれっと、ティルミお嬢様はそう言う。
いやいや、そんなわけにはいかないでしょう。
「だって、あなたにかけられた契約魔術、私なら簡単に解除できるもの」
そう言って、ティルミお嬢様は僕の首筋を触る。
そこには契約の証である痣があった。
「契約魔術の強さはその人の魔力量に比例する。私の魔力量はその辺の魔術師とは比べものにならないぐらい膨大なのよ」
そう言って、彼女は己の魔力を全身にまとう。
濃縮された膨大な魔力を彼女が有していることがわかる。確かに、これだけの魔力を持っているなら、僕の契約魔術を解除することも可能かもしれない。
「〈
〈
第五位界の魔術なんて、並の魔術師ができるわけがない。
それを、僕と同い年ぐらいの彼女があっけなく発動させてしまったのだ。
これで、僕は長い間苦しめていた契約魔術がなくなった。
あまりの急展開に僕は呆然とするしかなかった。
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