―88― リッツ賢皇国

 リッツ賢皇国の首都、ラリッチモンド。

 城郭都市のため、都市の周りは城壁で囲まれている。

 魔王軍の侵攻は多くの民に伝わっているためなのか、ラリッチモンドへと入ろうとするものが大勢いた。

 そのため、衛兵が城門にてで都市に入ろうする者の身元を逐一調べていた。


「そろそろニャウたちの番ですね」

「あぁ、そうだな」


 自分のたちになる番でけっこう長い時間を待たされた。


「お前たち、名は?」

「キスカといいます」

「ニャウなのです」


 衛兵の質問に俺たちはよどみなく答える。


「職業は?」

「どちらも冒険者だ」

「ステータス画面を見せられるか?」

「あぁ、もちろんかまわない」


 ステータス画面には、様々な個人情報が書かれているが、設定で名前とランクだけを見せられるようにできたはずだ。

 確か、これでよかったはずだ。


「なるほど、それなりの腕の持ち主のようだな」


 俺のランクを見て衛兵はそう言う。確か、俺のランクはプラチナというそこそこ悪くないものだったな。


「もしかして、魔王軍相手に我が軍と共に戦ってくれるのか?」

「あぁ、そのために来た」

「そうか、リッツ賢皇国は勇気のある者を歓迎する。共に、人類のために戦おうではないか」


 この衛兵、なかなか粋なことを言うな。


「もちろん、そのつもりだ」


 なので、俺はそう応えた。


「はい、ニャウのステータスです」


 と、俺の隣に立っていたニャウも同様にステータス画面を見せる。


「な、なんだ、このステータスは!? ま、まさか、あなたは賢者ニャウ様ですか?」


 賢者ニャウ様……? なんだ、それは?


「えっと……そういう呼ばれ方をされることもありますね」


 と、ニャウは居心地が悪そうな表情でそう告げる。


「た、大変失礼しました! すぐに上長をお呼びしますので、少々お待ちください!」


 そう言って、衛兵は慌てた様子でどこかに駆け出す。


「なんか大事になってしまったな」

「あはは……」


 ニャウは苦笑いをする。

 とはいえ、冷静に考えてみれば、ニャウはマスターという最上級のランクを持っており、しかも勇者と行動を共にしていた。

 そんなニャウが特別扱いされるのは至極当然のことか。

 にしても、賢者ニャウか。

 ニャウの素顔を知っているだけに、ニャウに賢者は似合わないなと思ってしまう。


「賢者ニャウ様、お待たせしました! すぐにご案内致しますので! あぁ、お連れ様もどうぞご一緒に」


 上長らしき人物が慌てた様子でやってくる。

 どうやら、俺たちはどこかに案内されるようだ。


「なぁ、どこに案内するんだ?」

「あぁ、実は、あるお方が賢者ニャウ様がこの国を訪れたら、すぐさま自分の元まで案内するようにとの指示を受けておりまして」

「その、ある方というのは?」


 その質問に対し、上長はこう答えた。


「リッツ賢皇国の第一人者、大賢者と賢皇の二つの称号を持つお方、大賢者アグリープス様でございます」


 大賢者アグリープス。ランク、マスターの序列9位。

 魔王軍に対抗できるかもしれない唯一の人で人類最後の希望。俺たちが探し求めていた人物だ。





 大賢者アグリープスがいるのは、首都ラリッチモンドの中央にある皇宮にいるらしく、そこまで俺たちは案内された。

 皇宮に行くまで、俺たちを歩かせるわけにはいかないと判断されたのか、豪華な馬車まで用意してもらえた。


「なんか緊張してくるな」


 ここまで大層な対応をされると思っていなかっただけに胃がキリキリしてきた。


「ど、どどどどどとうしましょう、キスカさん!?」


 まいったことに、ニャウのほうが俺なんかよりもずっと緊張しているようだ。


「おい、落ち着け」

「だってぇ……ニャウ、絶対怒られるのです」

「そうなのか?」

「勇者様を守れなかった件、絶対なにか言われます」


 勇者エリギオンが死んだのは、賢者ニャウの責任ではないとは思うが、他人がどう判断するかは別だもんな。


「まぁ、そのときは俺がなんとかフォローするよ。できるかはわからんけど」

「キスカさんっ! ありがとうございますのです!」


 突然、ニャウが抱きついてきた。


「おい、いきなり抱きついてくるな」

「えぇ、いいじゃないですかぁ。それとも、キスカさん照れてるんですか?」


 ニャウが上目遣いでそう口にしてくる。その瞳には、見た目にそぐわない大人の色気が籠もっていた。

 実際、ニャウは俺なんかより年上だしな。

 まぁ、イラつくことに変わりはないのだが。


「にゃぁあああああッッ!! にゃんで、頬をつねるんですか!?」

「いらついたから」

「だからって、ひどい

です! キスカさん!」


 と言って、ニャウは叫び声をあげながら、ぽかぽかと俺のことを叩いてくる。


「あの……もう、着きましたが……」


 ふと、御者が困惑した様子で俺たちのことを見ていた。

 どうやら、大賢者アグリープスの住まう皇宮に着いていたらしい。

 それにしても、ニャウとのやりとりを他人を見られたのは、少し恥ずかしかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る