―77― 違和感

「あ……戻ったのか……」


 目を開けつつ、周囲を見回す。

 見覚えのあるダンジョンの中だった。

 どうやら死に戻りするポイントは変わっていないらしい。


「それにしても厄介な目にあったな」


 まさか、殺されるのではなく封印されるとは。

 確かに、封印ならば死に戻りは発生しない。


「ていうか、あいつらは死に戻りのことを知っているのか?」


 そんな疑念がわく。

 聖騎士カナリアと戦士ゴルガノ。二人は『混沌主義』という謎の組織に加入しているらしい。

 その組織は目的はわからないが、死に戻りのことを知っているのだとすれば、非常に厄介だな。

 また、封印されれば、今度こそ精神が壊れてしまいそうだ。もう二度とあんな目に遭いたくない。

 とはいえ、対策ができないこともないか。


「封印されそうになったら、その前に自害すればいいしな」


 自害さえしてしまえば、死に戻りをすることができる。

 封印がどういった手順で行なわれるかわからないが、自害するほうが早くできるに違いない。

 だから、封印に関しては頭を悩ませる必要はなくて……。


 えっと、俺がすべきことは魔王の復活を阻止することだよな……。

 長い間封印されていたせいで、思い出すのに時間がかかるな。


 敵は聖騎士カナリアと戦士ゴルガノの二人だ。といっても、俺が知らないだけで、他にも敵が潜んでいるのかもしれないが。

 フードの男のノクとかも見るからに怪しいしな。

 ひとまず、魔王の復活を阻止するには、この二人を相手にしなければならないのか。


 俺に、できるのか……?

 前回の時間軸では、戦士ゴルガノの使う寄生鎌狂言回しに手も足もでなかった。

 何度挑戦しても、勝てる光景を思い浮かべることができない。

 正直、不安だが……立ち止まる理由にはならないか。

 だから、歩き続けないと。





 もう一度、聖騎士カナリアと戦おうと思い、俺は前回の時間軸をなぞった。

 獲得するスキルは〈敏捷強化〉を選び、その後スキルを合成して〈シーフ〉にする。

 それからは勇者を魔王のいる場所まで誘導し、それから聖騎士カナリアのいる場所に向かった。


「よぉー、ここに来ると思っていたぜー」


 いつもなら、ここに聖騎士カナリアがいるはずだった。


「な、なんで……?」


 なんで、戦士ゴルガノがここにいるんだ?


「本当に来たようだな」

「カナリア、俺のことを疑っていたのか?」

「仕方が無いだろ。こんな平凡そうなやつが、私たちの敵なんて意外にも程がある」


 戦士ゴルガノの隣には聖騎士カナリアもいた。

 待て、状況を把握できない。

 この時間軸では、俺はまだ彼らに対して攻撃をしてない。なのに、なんで俺を敵と認識しているんだ?

 死に戻りしたら、全てが元に戻るんじゃないのか?

 なのに、なんで彼らの行動が変化している?


「こいつ、やっぱり臭う!」

「危険な臭いだ!」

「気をつけて、ご主人!」


 甲高い声が響いた。

 それが、戦士ゴルガノが持つ寄生鎌狂言回しの放つ声だと気がついたのは、数秒後のことだった。


「不思議そうな顔をしているな?」


 俺の顔を見て、戦士ゴルガノがそう尋ねる。


「こいつらが教えてくれんだよ。あんちゃんに気をつけろってな」


 寄生鎌狂言回しが戦士ゴルガノに前の時間軸で俺と戦ったことを教えてくれたってことなのか?

 まさか、狂言回しに、別の時間軸を認識する力があるとでも言うのか?


 そんな馬鹿なことあるか、と自問自答して、ふと思い出す。

 そういえば寄生剣傀儡回しも、別の時間軸と異なる行動をすることがあった。

 例えば、その時間軸では初めて会ったはずの寄生剣傀儡回しが俺に対し、「ふむ、なぜだろう? 君とはどこかで会った気がするな」なんて口走ったことがある。


 だから、寄生鎌狂言回しにも、別の時間軸のことを把握能力があってもおかしくない。


 そう、結論づけて思わず俺は背筋をゾッとさせる。

 もしかしたら、俺が敵に回しているのは想像以上に厄介な存在なんじゃないだろうか。


「どうした? 俺たちに怖じ気づいたのか?」


 呆然としている俺に対し、戦士ゴルガノはそう口走る。


「ゴルガノ、相手の攻撃を待つ必要なんてないのだろう? さっさと殺してしまおうじゃないか」

「待て、殺すのはなしだ。勇者の使徒の可能性がある」

「なんだと?」


 二人が勝手に俺について相談事を始める。

 また、こいつらに封印されたたまったもんじゃない。


「くそがぁああああああああッッ!!」


 相談事がまとまる前に攻撃をしないと、という焦りから、俺は叫びながら剣を手に突っ込む。


「あまり大したことがねぇな」

「あ……?」


 いつの間に、戦士ゴルガノが俺の後ろに立っていた。

 一体、どうやって……?

 そう思うと同時、ビュッ――! と全身から血が噴き出る。

 どうやら一瞬の間に、戦士ゴルガノが鎌をもって俺のことを全身切り刻んだらしい。

 まずい……このままだと、封印されてしまう。

 その前に!


 切り刻まれたせいで動かせない右腕の先には、〈猛火の大剣〉の先端がある。

 その先端に向かって、俺は倒れるように突っ込んだ。

 グシャッ! と、首が突き刺さる音がある。

 なんとか、死ぬことができたようだ。





「あー、無事戻れたか……」


 死に戻りしたことを自覚した俺は安堵する共に、なんとも言いがたい疲労感を全身に感じた。


「てか、無理だろ」


 そんなことを思う。

 俺はこれまで魔王復活阻止するため、聖騎士カナリアに挑んできた。

 聖騎士カナリアは強かった。

 けど、がんばれば勝てそうだと思ったから、俺は諦めずに何度も挑戦できたのだ。


 しかし、状況が変わってしまった。

 これからは戦士ゴルガノを相手に戦わなくていけない。

 戦士ゴルガノの強さは、異次元だ。

 その強さの秘密は、彼が扱っている寄生鎌狂言回しにあるのだろう。

 聖騎士カナリアも寄生剣傀儡回しを使っているが、恐らく、彼女は傀儡回しを使いこなせてないように見える。

 正直、俺のほうが傀儡回しを使いこなしていた。


 対して、戦士ゴルガノは寄生鎌狂言回しの力を十全に引き出すことができるようだ。

 そんな戦士ゴルガノに俺は勝てるのか……?


「やっぱ無理だな」


 多分、何回挑戦しても勝てる気がしない。

 俺と戦士ゴルガノの間には、それだけ大きな戦力差がある。


「他の方法を探す必要がありそうだな……」


 俺の目的は彼らを倒すことではない。

 あくまでも魔王復活を阻止することで世界の滅亡を防ぐことだ。


 だから、考えろ。

 他の方法を。

 どこかに、まだ試していない方法があるはずだ……。


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