―46― 復讐への灯火

【カタロフダンジョン】のボス、大百足ルモアハーズを倒したことでいくつかの変化が起こった。

 まず、クリア報酬の獲得。


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 クリア報酬〈猛火の剣〉を獲得しました。


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 手に入ったのは刃まで赤く染まった剣だった。

 見た感じ強そうだけど、俺には傀儡回があることだし、俺自身が使う機会はなさそうだ。まぁ、貰わない理由はないので貰うけどさ。

 もう1つの変化、それはボスを倒したことで、外へ脱することができる転移陣が床に現れたことだった。


「これに乗れば、外に行けるんだよな」

『そうだぜ、ご主人』


 ということなので、転移陣へ足をのせる。

 すると、転移陣がまばゆい光を放ち始めた。


『誰かいる』


 唐突に傀儡回がそう呟いた。


「え?」


 周囲を見渡すが転移陣の光がまぶしすぎるせいで、まともに前を見ることさえ適わない。

 けど、誰かいるのは確かなようだ。

 というのも、スキル〈鑑定〉が反応したから。


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〈??????〉

 鑑定不可。


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 ただ、結果は鑑定不可としか書かれていないため、その正体はわからない。

 そして、次の瞬間には、外の景色が変わっていた。

 無事に転移に成功したらしい。





 カタロフ村。

 それが俺が幼少期から生まれ育った村だ。

 人口三千人にも満たない村だ。

 主な産業はダンジョン。

 町の中央に【カタロフダンジョン】があるため、そのダンジョンの攻略しにやってくる冒険者たちを相手にした商売で栄えている。

 冒険者が多くやってくるという特性上、武器屋や酒場が町にはたくさん並んでいる。

 俺はこの村で農民として過ごしてきた。

 だけど、髪の色が銀色のせいで、この村で迫害され続けていた。

 銀色の髪の毛は迫害の対象。

 大昔、人類を裏切り魔族の味方をしたアルクス人が銀色の髪を持っていたから。

 この村で長年受けてきた屈辱は忘れもしない。

 村人たちからは頻繁に石を投げられるせいで、俺はいつも怪我をしていた。

 必死に耕した農地は誰かに荒らされる。

 年貢も他の人よりも多く持っていかれた。

 だから、いつも貧乏で、まともに食事にありつけることができなかった。

 そのせいで、母親は病で倒れて亡くなった。


 そして、忘れもしない幼なじみナミアのこと。

 唯一ナミアだけが俺の味方だった。

 石を投げられたときは庇ってくれたし、食べ物に困っているときは内緒で食事を持ってきてくれた。

 そのナミアは、村長の息子ダルガと結婚することになった。

 忘れもしないあの日。

 ナミアは俺のことを好きと言って、駆け落ちを提案してきた。

 了承した俺は、その夜、ナミアの家へ向かった。

 それからのことは思い出したくもない。

 最も醜悪な光景がそこで繰り広げられたのだ。


 その後、俺はナミアを強姦し殺害した罪により、【カタロフダンジョン】の奥地に転移陣を使って追放された。

 ナミアを殺したのはダルガだというのに、村人たちは共謀して罪をすべて俺に被せたのだった。


 そして、この瞬間、やっと俺は帰ってきた。


「おい、ダンジョン帰還者が現れたぞ!」

「誰かが、このダンジョンをクリアしたんだ!」


 ふと、声が聞こえてくる。

 そういえば、村にはダンジョンを攻略した者が立つとされる台座があったはずだ。

 そっか、今その台座の上に光と共に現れたから、事情を知らない人でもダンジョンを攻略した者が現れたんだとわかったわけだ。

 

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 スキルポイントが使用されました。

 レベルアップに必要な条件を達成しました。

 スキルは〈寄生剣傀儡回の主〉レベルアップしました。

 寄生剣傀儡回の主Lv2 ▶ 寄生剣傀儡回の主Lv3


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 無言で俺はスキルポイントをふり、〈寄生剣傀儡回の主〉のレベルをあげる。


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 派生スキル〈残忍な捕食者プレデター〉を獲得しました。


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「おい、あれキスカじゃねぇか?」

「んな馬鹿な。あいつがダンジョンを攻略できるわけがねぇだろ」

「いや、でもよ。あの銀髪、どう見てもキスカじゃねぇかよ」


 観衆たちがザワつきだす。

 どうやら俺の正体が、ダンジョン奥地に追放されたキスカだってことに気がつき始めたらしい。


「なぁ、傀儡回」

『ん、なんだい? ご主人』

「こいつら村人が俺にした仕打ちは覚えているか?」


 以前、俺は自分の過去を傀儡回に打ち明けた。


『もちろん、ホントひどい連中だよね』

「俺は復讐心を原動力に、このダンジョンを死ぬ気で攻略してきた」

『うん、そうだね』

「けど、少しだけ不安だったんだよ。ダンジョンを攻略して、村人たちに復讐する機会がやってきて、今この手でこいつらをズタズタに殺すことができるってなったとき、もしかしたら俺は躊躇してしまうんじゃないかって。人を傷つける勇気がなくて、なにもできなくなってしまうんじゃないだろうか、ずっと不安だったんだ」


 思い出すのは、傀儡回にアゲハを食べさせようとしたとき、罪悪感で俺はなにもできずにその場で吐いてしまった。

 村人たちを前にしても、同じようになにもできなくなってしまうんじゃないかとずっと不安だった。


『それで、復讐の機会はやってきたわけだけど、今、どんな気分だい?』


 傀儡回が愉快そうに尋ねてくる。

 だから、俺は素直な思いを吐いた。


「こいつら全員ぶっ殺したい気分」

『キャハハ、そうこうなくっちゃ!』


 傀儡回は笑い声をあげる。


「〈残忍な捕食者プレデター〉」


 そう言って、傀儡回の形態を〈残忍な捕食者プレデター〉に変える。

 すると、傀儡回は食べることだけに特化した巨大な化物へと変貌する。


「こいつら全員食べていいぞ」

「いっただきまーす!」


 念願だった復讐が始まる。



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