6話. 婚約破棄に備えて魔法の訓練はじめます!
殿下との語らいの翌日。
私は、後回しにしていた問題と向き合う覚悟を決めました。
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1. セオドリック殿下と徹底的に距離を取る!
→ 何故か婚約者になってしまったらしい。なんで!?
殿下の呪縛にならないように円満な婚約破棄を目指す!
2. 革命の阻止!
→ 保留中!
3. 国外で1人で生きていく基盤を作る!
→ これから本気出す!
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1. は残念ながら失敗したと断言できます。
ならばこその次善策──国外で1人で生きていくため、そろそろ本気を出さなければなりません。
国外で一人で放り出されたと仮定して、少しだけ想像してみて──
「うん。間違いなく野垂れ死ぬわ」
遠い目になりました。
国外でたくましく生きていくために『公爵令嬢』という肩書きは、何の役にも立ってくれないことでしょう。
「というか王妃教育なんて、受けてる場合じゃないわ!!」
厳しいマナーの訓練も、国の上に立つものとして相応しくあれと詰め込まれた知識も、明日をどう生きるかという世界では何の役にも立ちません。
そんなものよりも信じられるのは、
「魔法ね!」
魔法──それは貴族だけが持つことを許された奇跡を起こす力です。
その恩恵は分かりやすいところでは戦闘に、果てには日常生活にも及びます。
民は税を収めるかわりに、領主は魔法を使って土地に恵みをもたらすといった循環が成り立っているのです。
「正体を隠して、フリーの魔術師としてやっていけば良いかな」
貴族の血を引くものが持つ魔法は絶大。
魔法とは、まさしく貴族を貴族たらしめている力です。
ですが時々、魔力を持つ平民が生まれることもあり──そうした者は得てしてフリーの魔術師として活動すると言います。
魔術師として名を上げれば、明日を生きるのに困ることは無くなるはず。
世界各地を旅して、道行く人を助けて回る──目指すのは、そんな素敵な生き方。
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3. 国外で1人で生きていく基盤を作る!
→ フリーの魔術師を目指す!
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***
魔法を使うためには、何より魔力のコントロールが大切です。
まずは幼い日々で魔力コントロールを学び、『魔力鑑定の儀』で適正魔法を知り、その属性の魔法を深く学んでいく、というのが本来の魔法訓練の流れです。
ちなみに『魔力鑑定の儀』とは、貴族なら全員が受けさせられる魔法の適正を知るための儀式です。
適正外の魔法の訓練は、無駄になるというのが定説。
魔力適正で適正を知るまでは、具体的な魔法の訓練はしないのが一般的なのですが──
「あれ? 別に魔力鑑定の儀を待つ必要はなくない?」
だって私、魔力鑑定の儀の結果をもう知ってるし。
巫女の力バンザイ! 私は夢の記憶を手繰り寄せます。
私が見た予知夢は、まるで人生を追体験したようでした。
生々しい感情と、夢だと割り切れないようなリアリティ。
まるで本当にそういう人生があったかのように感じられるほど。
私が記憶を辿ろうとすると同時に、予知夢で見た『魔力鑑定の儀』の鑑定結果が脳に流れ込んできました。
それも巫女の血がさせる奇跡なのでしょうか?
~~~
火属性 D
水属性 C
土属性 D
風属性 B
光属性 ─
闇属性 S
譎ょア樊?ァ ?
~~~
そうでした。
平々凡々とした4属性魔法の適正。
かつて世界を脅かした魔女が操った力だと恐れられていた闇属性は、何故か適正S。おまけに最下部には読めない文字が載っていて、教会では闇属性の祟りだと大騒ぎになりましたっけ。
魔力適正の低さと忌み属性への適正。
貴族社会で生きていくには、明確な弱点となる鑑定結果でした。
どれだけ模範的な行動をとっても、魔力適正なしの落ちこぼれと後ろ指を刺され続けることになりますからね。生まれ持った才を嘆いても仕方ないと前を向きながらも、予知夢での私はずっと悩んでいました。
ですが──
「ま、そんな評判。知ったこっちゃないのよね」
今となっては、馬鹿らしい悩みだったと思います。
貴族社会でどう思われるかなんて、ひとたびそこを離れて生き残るためには関係ないのです。小さな世界の中でのどうでも良い出来事に過ぎません。
「呪われた力? 上等。それで生き残れるなら、私は世界中に呪いを振りまいてでも生きてやるわ」
ちょっぴり危ないことを呟きながら、私は庭で魔法の訓練を始めます。
まずは基礎となる魔力コントロール。
体に魔力を循環させて、魔力に体を慣らしていく作業です。
知識は予知夢から引き出せても、体だけはどうにもなりませんからね(効率の良い訓練法を最初から実践できるのは大きいですが……)
「よし、準備体操はこれで良し! では早速──」
「お嬢様? こんなところで、何をなさっているのですか?」
よいしょ、っと魔法をぶつける的を用意していると、メイドのソフィの声が聞こえてきました。
「ソフィ? ちょうど良いところに! 殿下からの婚約破棄に備えて、早速魔法の特訓を始めようと思いまして──」
「ほう。誰と、誰の、婚約破棄に備えてだい?」
「それは勿論、私とセオドリック殿下の──」
「ほうほう。なるほどね?」
あれ? この場に居るはずの無い声が聞こえたような……。
恐る恐る振り返ると、メイドのソフィさんに連れられたセオドリック殿下とバッチリと目が合ってしまいました。
表面上はニコニコと微笑んでいましたが、
「あー。で、で、で、殿下にはご機嫌うるわしく……」
「ほうほう、婚約破棄ねえ……」
目が笑っていませんでした。
──というかなんで殿下がここに居るんですか!?
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