鉄腕な新技術
星埜銀杏
#01
…――今、走り出す、新技術。ここから始める未来ある希望。
ここは、とある駅の構内。
鉄道ファンが大挙して押し寄せて、すし詰め状態。
その駅に、ゆっくり三両編成の電車が入ってくる。
「おお。来た。来たぞッ!」
一人の鉄道ファンが歓喜してスマホで写真を撮る。
写真のできを確認したあと、ここに来られなかった別のファンに向けて画像送信を試みる。が、どうやら件のスマホは借り物であったらしく、連絡先が分からない。残念、無念、ゴメンと諦める。昔は、沢山の連絡先を暗記できてたんだけどな、と。
兎に角、
今、ここで、一体、何が起こっているのかという話にもなる。
いや、実に単純な話である。新技術の、お披露目会なわけだ。
そして、その新技術が、夢ある未来に颯爽と走り出すわけだ。
つまり、
自動運転システムでの運行がされた電車が運行を終え、ここに入ってきたわけだ。
無論、部分的にはではなく、自動運転システムで最初から最後まで運行されたのだ。世界初の快挙。だからこそ、走り出した新技術の成果を、ひと目見ようと鉄道ファンが大勢、ここに押し寄せたわけだ。当然、マスコミも、それに含まれた。
次の日のニュースでは自動運転の監視と管理を行った運転手が英雄扱いになった。
敢えて確認するまでもないが、いくら自動運転システムのAIが完璧なものとはいえど、不測の事態は起こりえる。ゆえに、それが、たとえ億分の一であろうと可能性がある限り、人間を運転席に座らせる必要がある。不測の事態を回避する為。
その役を担ったのが、件の英雄として扱われた運転手である。
彼はベテランの運転手で十年近く運転をしてきた猛者であり、加えて、初となる自動運転システムを最前列で目の当たりにした人間である。だから、その発言に世間が注目した。彼は言った。力強く雄弁に。自動運転システムは完璧なものです、と。
その発言に鉄道ファンは大いに喜んだ。
これから鉄道の新時代が来る、明るい未来の幕開けだ、とだ。
それから一年経った、ある日の運転席。
自動運転システムでの運行を行う電車の現場での監視と管理を行う運転手が笑む。
システムが誇らしく、鋭い目つきで前を見据え背筋を伸ばす。
「全てよし。何も問題なし」
システムチェックの後、落ち着いて、確認の為、独りごちる。
それは、
……二年先の春まで続く。
いや、裏を返せば二年目の春に崩れる。
人は慣れる生き物で、自動運転が当たり前と化す。さしたる問題も起こらない為、つまらなくなる、あの運転手。時には欠伸さえも。いや、問題さえ起こらなければ何もする事がないのだから、ある意味で拷問とも呼べるもので仕方がない。
うつらうつらとして、ダメだ、気合いを入れろ、と頬を叩く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます