第39話「辺境大陸の港町」

 港町フルム。辺境大陸の入り口にして最大の町だ。

 その大通りに俺とユニアはいた。

 ハスティさんの指示を受けて店はフレナさんに任せての任務開始である。


 事前に情報を得ているとはいえ、現地でしか見えないものもある。

 情報収集を兼ねての上陸だ。転移魔法で来たため、風情も何もないが。楽で良い。


「賑やかな町です。それと、道行く人々にも活力があります。ビフロ王国とは違いますね」


「辺境大陸は再開拓のまっただ中だからな。元気のいい人達が集まってるんだ」


 そんな港町のそこそこ良い宿の一室で、俺達は話し合いをしていた。


 露店で買った串焼きや飲み物を口にしながらそんな話をする。

 好奇心旺盛なユニアは興味津々という様子で周囲に目を配っていた。

 フルムの町は雑多だ。建物の形も大きさも統一されていないし、通りだって整備されていない。だけど、人は多く、元気に溢れている。

 これから成長する場所特有の活気がここにはあった。


「再開拓ですか。話には聞いていますが」


「『魔王戦役』で大分やられたからな、この辺は。これでも大分綺麗になったんだよ」


「詳しいのですね」


「前に来たことあるし。そもそも生まれはこの大陸だからな」


 俺のこの世界での生まれ故郷は辺境大陸の内陸側の町だ。残念ながら、魔物の軍勢によって滅ぼされて、今だ再建がなっていない。というか、辺境大陸は東側以外はほぼ荒野になっている。


「店長は、ここの再開拓を……いえ、やめておきます」


「悪いな。気を使わせて」


 フィル・グランデのままなら、今頃ここの開拓団を重要人物となって、活躍していたのだろうとか。なんでそうしないのかとか、色々な質問をユニアは飲み込んでくれた。

 俺なりに理由があって話したくないと察してくれたのだろう。ありがたいことだ。


「先に現状を確認しましょう。情報通り、クリスさんという方は出払っているようですね」


「あいつは『魔王戦役』で傷ついた土地を見回ったり、開拓村の支援をするのが役目だからな。その通りにやってるんだ。それを後方に配置された信頼できる人材が支える方針だったんだが……」


「そこを利用されたわけですね。少々、時期が早いと思うのですが」


「そうだな。権力争いでクリスを追い落とすにしても、もっと開拓の目処がついてからにすべきだ」


 魔王が倒されて二年。辺境大陸に復興の兆しはようやく差し始めたばかり。

 もっと落ち着いて地盤を固めてからやった方が利益が大きそうな話だ。

 クリスは魔王を倒した英雄で、人々に人気もあるんで、下手に手出しすると痛い目を見る。

 その点でも、今回の流れはちょっと性急すぎて怪しいと言える。


「ビフロ王国の役人にも、噂の傭兵隊長にも会えそうにありませんでしたね」


「気になるのは傭兵隊長だな。聞いた感じ手際が良すぎる。名の知れた騎士とか冒険者でもなかったみたいなのに」


 傭兵隊長の名前はボルグ。凄腕としてこの町で突如頭角を現したらしい。

 辺境大陸に来る以前の経歴は不明だ。『魔王戦役』中は世界が混乱していたので珍しい話ではないが、ハスティさんでも尻尾の先すら掴めなかったのはちょっとおかしい。

 

 クリスがいない間に町の防衛のため組織された傭兵団。

 その傭兵隊長が防衛のみならず、近場の魔物退治でまで華々しく活躍。

 今ではクリスもかくやという名声を得ている。そして、それを支えるのはビフロ王国から派遣された役人。


 もちろん、彼もまた傭兵隊長を見出したことで世間からの評判が大変良い。


「では、まずはボルグという傭兵隊長の偵察からですね」


「ああ、直接見定めよう。実物を見れば何かわかるはずだ」


 俺もユニアも普通ではない目を持っている。本人のいるところにいけば、なんらかの新情報を得られるはずだ。


「ところで、潜入した時のために、ハスティ様から地味なデザインの魔法の仮面を頂いたのですが」


 言いながら、ユニアが見覚えのある魔法の仮面を取り出した。大きさを彼女向きに調整され、若干だが装飾が増えてデザイン性が増している。でも、地味だ。


「その仮面、ハスティさん自身のデザインでな。結構、地味って言われるのを気にしているんだ」


「よく見れば使いやすくて飽きの来ない良いデザインだと判断します」


 今日もユニアは高性能なワルキューレとしての能力を発揮してくれた。

 

 ともあれ、まずは本人を偵察だ。

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