第37話「今後の方針と趣味時間の消失」

 久しぶりの自宅は快適だった。ユニアは綺麗好きなので、共用スペースまでよく掃除をしてくれる。俺がキャンプ用品以外のものをあまり持たないので、部屋の家具類が少ないのもあってか、リビングは整然としている。


 いや、していたというべきか。

 我が家のリビング、大きめの歴史を感じる木製のテーブルの上は現在、綺麗とは程遠い状態になっていた。

 机の上に積み上げられた書類の山。この世界ではまず見られないコピー用紙並の綺麗で手触りの良い神には、大量の文字やら文章が踊っている。


 そして、それを読むのは俺、ユニア、ハスティさんの三人だ。

 

 ファルカインと会ったハイエルフの施設の一件を終えた俺は、資料を手にハスティさんのところに帰宅。そのまま自宅に帰って会議となった。

 軽く食事を終えて、全員で書類の精査だ。


「ファルカインに会えたのは運が良かったのう。他のハイエルフではここまで情報を吐き出してくれなかったかもしれん」


「そこは運が良いというべきでしょうね。タイミングも良かったですし」


「あやつは悪運が強いからのう。お前さんと話すのが好きな奴じゃから、楽しそうだったんじゃないかの?」


「ええまあ、たしかにそうですが」


「興味深い話ですね。ファルカインさんというのはどのような方なので?」


「変わり者のハイエルフじゃな。イストとは妙に気があって、会うと儂らと話すときと若干違った感じになるのじゃ。友人といってもいいじゃろうな」


「……店長にもお友達がいたのですね」


 そういうユニアは、なんだか妙に優しい目をしていた。なんかショックだ。


「あれが友達か……。いや、間違ってはいないんだけど、ちょっとやだな」


 別れ際、ファルカインの奴は「本当なら君に連絡用の端末を渡したいぐらいだが規則でできない。残念だ」と本気で言っていた。俺もちょっと残念に思ったのは事実なので、互いに友達くらいの感覚は持っていてもいいはずだ。


「ははは、最初を思えばそうじゃろうな」


 楽しそうに笑うハスティさんは俺とファルカインの出会った時のことを良く知っている。あいつの女性体姿に、ほぼ陥落していた俺の姿を目の前で見ていた。


「む、なにか面白そうな話の予感がします。聞いてもよいですか?」


「それは今度な。まずはこの書類の山の話が先だ」


 言いながら、俺は書類を綺麗に整える。なんか書類整理してると前世を思い出して嫌な気持ちになるんで早く片づけたい。


「ここにある書類は大体がハイエルフが月から観測したデータと、そこからの分析みたいです。で、結論は「魔物達が魔王の骸を狙っている」になります」


「そのようじゃな。たった二年であれに手出しできる算段がつくとは思わんかったのう」


「魔王の骸について詳しく伺いたいのですが?」


 事情を知らないユニアから当然の質問が来た。目覚めたのはごく最近だしな。新聞にもその辺りは詳しく載っていない。


「その名の通り、魔王の死体だ。『魔王戦役』の最後、敗北を認めた魔王は、自らの体を呪いに変えた。自らを毒と化し、大地を腐らせる、世界へ対する呪いだ」


「魔王は過去に良くない神から加護を持たされた者のなれの果てでのう。さすがに呪いも強力じゃった」


「それで、俺は手に持っていた神剣を魔王に刺したんだ。そのまま魔王の体と神剣は共に大地に底。今も神剣は魔王の骸を浄化し続けている」


 おかげで『魔王戦役』の決戦があった地は、人も魔物も立ち入り出来ない土地になっている。場所によって呪いや神聖な場が生まれる、混沌とした地域になってしまった。


「実質付属品のようになる神剣をどのように失ったのか密かに気になっていたのですが、納得しました」


「神剣はそれにふさわしい役割をしているだけさ」


 時間は相当かかるだろうが、無事に魔王の骸を浄化しきってくれるはずだ。なにせ、魔王を滅ぼすために複数の神々が祝福した最強の武器なのだから。


「魔物達はその神剣をどうにかして、魔王の骸を手にする方法を得たということですね」


「どうせロクでもない方法だろうがな」


 多分、神界からのちょっかいがあったはずだ。面白半分に地上を乱す神というのも一部いる。突き止めて戦神あたりにどうにかしてもらおうか。


「儂の方からも報告じゃ。イストの思った通り、ここ半年くらいで厄介な事件が各地で勃発しておる。大抵が冒険者なり、現地の人間で対処できておるが、まとめて見ると異常じゃな」


「黒幕に辿りつけそうな手がかりは?」


 問いかけに、ハスティさんは首を横に振った。情報は得たが、どこにいけばいいかの材料は入手できずか。

 

「今回イストが入手した情報と、現在進めている情報収集。それを合わせれば次の一手が打てるじゃろう。実は、すでにいくつか候補があるのじゃ」


「ほんとですか? 少し見ただけですよね?」


「もっとる情報が違うのじゃ。一応、情報収集の部隊も稼働させ続けておるしな。近日中に何か話ができると思うから、ここで商売でもして待っておれ」


 がっかりしている俺と違い、ハスティさんは自信ありげにそう言った。


「頼りにさせてもらいます。よし、久しぶりに帰ってきたことだし、新しいキャンプ用品のテストでも」


「店に出てください店長。ご近所にはわたしが乗っ取ったと思われています」


「ここで待っておれといったじゃろうが。アウトドアはまた今度じゃ」


 二人同時に突っ込まれた俺は、無言で頷くことしかできなかった。

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