第10話「今回の後始末」
めでたく魔王のキメラを倒せたわけだが、それで全てが終わりとはいかない。
まず、ブレスで森が大火事になってしまったので慌てて消火だ。水魔法を連続使用して強引に消火した。一部、なかなかしつこいところなんか、地面を吹き飛ばしたりした。油田火災みたいに。
「森が大分焼けてしまいましたね」
<<仕方なきこと。むしろ、銀の森全てが死に絶える恐れすらあったことを思えば僥倖だ>>
焼け野原になってしまった森の一部を見ながら、銀狼のリーダーとそんな言葉を交わす。
銀狼達。そもそもの依頼は森の奥で目撃された彼らの調査だった。魔王のキメラと戦いながら森の端まで来ただけの彼らに害意はなかったわけだが。
さて、どう報告したものか。
<<どうかしたか、恩人イストよ>>
「いや、冒険者協会に銀狼の皆さんのことをどう報告したものかと」
<<恩人イストよ。我らは貴方の望むとおりにしよう>>
呼ばれるときに必ず恩人と付くことに、とやかく言わない。キメラを倒したらこうなることはわかっていた。
「望むもなにも。俺個人としては、この地方で平穏な生活ができればそれでいいんですよね」
<<平穏か。それも我らにとって望ましい言葉。危険の少ないこの辺りで群れを立て直せれば喜ばしい>>
同調するような銀狼の発言に閃くものがあった。
元々、キメラ退治は瀕死だったのにトドメを刺したことにするつもりだった。その流れで、銀狼達をこの辺りの森の守護者に仕立てることもできるのでは?
「提案があります。この辺りは銀の森の大分外ですが、それでも大抵の人にとっては奥地です。森の外縁、人間が狩りや採集をする辺りに近づかなければ静かに暮らせると思います」
銀狼のリーダーが言った通り、銀の森の中心に比べればここは安全だ。数の減った銀狼達は穏やかに暮らせるだろう。
<<良いことを聞いた。して我らに何をさせたい>>
問いかけがきた。俺の提案という言葉をしっかり聞いていたようだ。
「森の害獣退治をお願いします。収穫が近づくと、依頼が多くて忙しいんですよ」
売れない雑貨屋なのに秋になるとほぼ冒険者。これは俺の望む生活ではない。そこが改善できるのはとても大きい。
また、この提案のいいところは銀狼達も普通に生活してるだけでいいことだ。誰も損をしない取引だ。素晴らしい。
<<承知した。我らにとっても望むところ。群れが落ち着くまで、この地を守護しよう>>
なんだか楽しそうな気配を漂わせながら、銀狼のリーダーはそう返事を返してくれた。
○○○
「と、いうわけで以上が今回の報告です。書類はこちら」
銀の森の一件が終わってから三日後、プシコラの町に戻った俺はフレナさんに一連の出来事を報告していた。
プシコラの町は規模が小さいこともあり、一番大きな商店であるフレナさんの実家の雑貨屋が冒険者協会の窓口も兼ねているのだ。
俺は銀の森から帰る途中、依頼主の村と途中の大きな町に立ち寄って組合に事件を報告。その際に、キメラの牙と頭の一部を持っていった。
予定通り、銀狼達によってキメラは瀕死だったのでトドメを刺すだけだったと言ってある。
証拠の品があったのが大きかったらしく、何とか信じて貰えたようだった。どうにか依頼完了だ。
「銀狼って銀の森の守護者っていう存在でしょ? それがキメラと戦ってここまで来たなんて、なんか別世界の話みたい」
「俺も驚きましたよ。証拠品を持っていって協会の人もどうにか納得してくれました」
基本的にビフロ王国に強い魔物は棲息していない。ゲームの序盤に訪れるような地域なのだ、この辺は。
「でしょうねぇ……。最終的には納得してくれて……でも銀狼は森に留まる可能性ありって、平気なの?」
「魔物扱いされていますが、下手な人間より賢い動物ですから。こちらに害意がなければ大丈夫ですよ。実際、俺が回復魔法で援護したらそのまま共闘してくれましたし」
傷ついたキメラは俺と銀狼で共闘で倒したということにしておいた。嘘ではないから問題ない。
「銀狼が縄張りにするのはベテラン狩人でも三日はかかる奥の方です。まず、遭遇はしないかと。むしろ、害獣を狩ってくれたり、迷い人を送ってくれるかもしれないですよ。そういう伝説もあります」
「あー、そんな話、町に来た吟遊詩人が謳ってたわね。あれ、本当なんだ」
「伝説というのは、元になった話があるということですからね」
少なくとも、今回出会った銀狼達ならそのくらいしてくれると思う。彼らには俺の居住地を教えてある。困ったことがあれば来てくれと言ってあるけど、実際そうなったら一騒動だな。
「わかったわ。報告了解。お父さんにも伝えておく。後で詳しく聞かれるかもしれないけれどね」
「知ってのとおり、お客様なら歓迎ですよ」
「そんなこと言ってると、お父さんに商売のことで説教されるわよ」
フレナさんのお父さんは、有り難いことに俺のことを気に入ってくれている。
冒険話を楽しみにしていて、依頼の後はほぼ確実にやってくる。ついでに商売について懇々と語られることもあるが、儲かってるように見えないんだから仕方ない。
「前は夜中まで説教されましたからね。気を付けます」
「ええ、商売も頑張ってね。追加報酬はこっちに届き次第すぐに持っていくから」
「ありがとうございます。それでは」
話が終わったので、俺は店を退出。後は懐かしの我が家に向かうのみだ。
使ってる途中で収納したキャンプ用品を手入れをしなきゃならない。時刻は夜近い、作業するのは明日になるな。
しかし、加護の影響でミスリルの剣が崩壊してしまったのが痛いな。多分赤字だ、今回の依頼は。いや、平穏を手に入れたということで精神的にはプラスかもしれない。
色々考えながら家の前に辿り着くと、異変に気づいた。
俺は防犯のため、家の周囲にそこそこ強力な結界を張っている。害意を持った者がやってくると、すぐさま知らせてくれる上、場合によっては弾き出すやつだ。
その結界が微妙に変更されていた。主に攻撃性が取り除かれている。
起動している結界に介入して、効果を変更。
そんなことができるのは、この世界に一人しか居ない。
家の扉に手をかけると、すで鍵は開いていた。扉にかけた魔法は全解除されている。恐い。
軽い恐怖を感じつつ、玄関に入ってすぐのリビングに行くと、そこに想像通りの人物が居た。
小柄な金髪緑目、尖った耳。一目でわかるエルフの少女だ。
彼女はテーブル上に料理を並べながら、こちらに一瞥して一言。
「おぉ。久しぶりじゃのう。弟子ぃ」
そう言うと料理の皿をテーブルへ並べるのを続行する。なんかキッチンまで勝手に使われてるな……。
「なんでいるんですか。師匠」
嫌な予感と共に、俺はそう言わずにはいられなかった。
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