第3話「銀の森」
銀の森。大陸東部のかなりの地域を覆う大森林の名だ。
森は広く深く、中心部に向かうにつれてその名のとおり景色は銀色に染まっていく。
樹木も大地も銀色の世界。
そこは前世と比べて異色なことだらけの、このファンタジー世界でも異色な場所の一つだ。
俺はかつて、フィル・グランデと名乗っていた頃、仲間達とその中心部に到達した。
そこに広がっていたのは銀色に染まった古い種族の集落だった。かつて知恵ある樹木と古いエルフ、そして一匹の竜が遙か誇大に暮らしていた場所という話だ。
彼らは太古にあった危機を乗り切るため、一柱の神と契約し、森と一つになった。
自分達の暮らす世界を守った結果。それが銀色に輝く森の正体だ。
広大な銀の森はビフロ王国の東部にまで広がっている。とはいえ、場所としては端っこもいいほうなので、見た目は普通の森だ。
これで中身まで普通の森だった良いのだが、そこに住む動物や魔物は銀の森特有のものになっているのである。
銀の森に住むものは、すべからく中心部にある存在の影響を受けて、強力になっている。
それはビフロ王国でも例外ではなく、銀の森西端といっても良い場所にも関わらず、地元の狩人や冒険者も深入りできないくらい危険だ。
そんな場所に、俺は一人で行くことになった。
フレスさんも特に止めることはない。この一年、何度かあったことだからだ。
結局のところ、元冒険者が売れない雑貨屋の店主として田舎町の一員として認めて貰う方法は、冒険者をやることだったというわけだ。
きっかけは魔物退治の仕事を受ける冒険者がいなくて、俺に話が回ってきたことだった。雑貨屋が上手くいかなかったら冒険者としてフラフラしようとこの地域の協会にも登録しておいたのだが、それが幸いした形である。
そして、森の奥で魔物をさっくり退治したら定期的に冒険者の仕事が舞い込んで来るようになった。
プシコラの町周辺は強い冒険者がほぼいないのもあって、ちょっと難しい仕事が俺のところに回されるようになったのである。
魔物退治だとか、銀の森の調査とか、どれも俺一人で十分なものだったので、次々に依頼をこなしていった。
そして、依頼を解決する度、町の人達から認めれていくのがわかった。
最初は明らかに不審者を見る目で見てきたし、挨拶も返ってこなかったのが嘘のようだ。
今では『魔王戦役帰りのベテラン冒険者』として重宝されている。
一応、本業は雑貨屋なので冒険者は副業だ。帳簿を見ると微妙だけれど。
そんなわけで、フレスさんから依頼票を貰った俺はその場で荷物をまとめ、真っ直ぐ銀の森に向かった。現地まで徒歩で一日。
依頼の原因となった集落で挨拶をしておく。
ここまでは問題なしだ。何もなければいいが。
以来の内容から察するに、厄介なことになるのを薄々感じつつ、俺は森に入るのだった。
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