第101話 やって来ました魔王城

「ひょえー、なんですかねあれ」


「あの青くてピカピカ光るやつか。魔王城だろうなあ」


「あれが城か……。見たことも聞いたこともない外観だ」


「どうやって構成されているんだ? 興味深い……」


「なんて禍々しい見た目なんだい。早く壊しちまわないと!」


「わしは特に興味ないのじゃー」


 遠くから魔王城を眺めた俺たち。

 口々に感想を呟くが、つまりはそれくらい、異質な外見の城だったわけだ。


 一言で表すなら、のっぺりした外壁の窓一つ無い巨大な墓石。


「魔王は自分の墓を作ったみたいなもんかね」


「そうでしょうね!」


 俺とエクセレンで納得していたら、魔王城側からツッコミがやって来た。


『なんと人聞きの悪い! この機能美を理解しないとは、これだから現地の人間は』


「魔王から直接抗議が来たぞ。フランクなやつだ」


『いいかね? 尖塔もテラスも何もかも必要ない。なぜなら私の城はこの全面がカメラでありディスプレイだからだ。つまり君たち原住民にも分かるように言うならば、全てが目であり情景を映し出す鏡のようなものなのだ』


「よく分からん」


『おバカめ! こうだ!』


 魔王がちょっと怒った。

 すると、のっぺりした魔王城の表面に、白いシャツと青いズボンを穿いた男の姿が映し出される。


「なんだこいつ」


『私だ』


「お前そんな貧相な姿してたのか」


『筋肉で全てを判断するな、野蛮人め』


 俺と魔王がにらみ合う。

 これを見て、ディアボラが感慨深そうだ。


「時を超え、真の魔王様と偽魔王めが睨み合っているのじゃなあ。わし、千年生きてきて良かったわい」


「真の魔王じゃなくて俺はその子孫だという話だったが」


『偽魔王だって!? いや、それよりもこのタンクが魔王の子孫とはどういう冗談だ。ははーん、私は理解したぞ。その冗談みたいな防御力の説明がつく。訳のわからないものはとても恐ろしいものだが、説明さえついてしまえば恐怖心は薄れるわけだよ』


「よく喋りますね魔王」


「本当だよな」


 俺たちは魔王のトークを聞きながら、既に魔王城に向かって歩き始めている。

 後方では、魔王軍がじーっと俺たちを見ているのだ。

 襲ってくるわけでもない。


「なんで襲ってこないんだ?」


『魔王様のお喋りに割り込んだら殺される……』


『そこのお前。私と勇者たちのトーク中に口を開いたな? 粛清』


『ウグワピー!!』


 おっと、返答したモンスターの周囲が、真っ青な筒で覆われる。

 筒がシューッと細くなっていき、消えてしまった。

 モンスターも消えてしまった。


 魔王軍の連中が、真っ青な顔をしている。

 こいつらにも、魔王はめちゃめちゃに恐れられているのだ。


『先ほど、お前たちに弾き飛ばされて黒騎士も戻ってきた。これとティターンが魔王軍の残る全てだよ。あと二名は間に合わない。バカどもめ』


「その二名はほんとどこまで行ったんだよ」


『まさかお前たちが勇者の剣を手に入れずに自作して来るとは思ってなかったんだよ。普通やらないだろ。常識のない連中め。通信終わり』


 一方的にそれだけ言って、魔王城の表面から奴の姿が消えた。

 本当にフランクなやつだなあ。


 カッサンドラが唖然としている。


「あれが魔王なのかい? あたいはてっきり、もっと仰々しい怪物みたいなのが、超然とした感じで出てくると思ってたんだけど……」


「神様だって親しみやすい感じでしたし、この世界の偉い人ってみんなああなのかもですねえ」


 エクセレンが既に悟っているようだ。

 神や魔王と比較したら、この間倒したうちの国の王のほうがよっぽど偉そうな態度なのだ。


 さてさて、魔王軍も追ってこないし、俺たちは堂々と魔王城に入ることとしよう。

 のっぺりしてて窓一つ無いから、入り口だって無いだろうと思っていたら。


「ありますね入り口」


「あるなあ」


 透明な板ガラスが貼られていて、これが俺たちの接近を感知してウイーンと開くのだ。

 なんだこれは。

 魔法か。


「この魔王めがいた世界に、こういう文化があったんじゃろうな。魔王はそれを再現しているに過ぎんのじゃ。魔王とは言っても、自分が知らぬものは作れぬのじゃー。この魔王も、元々人間だったと見えるのじゃ」


「こいつ人間だったのか」


 だが、どうりで話が通じるし、こだわりみたいなのも持っているし、それに好き好んであんな人間の姿をとっている。

 あれはそうすると、魔王の元々の姿というわけか。


 魔王城の中に入ってみて拍子抜けする。

 普通の城だ。

 外見は墓石みたいで、中身が普通の城ってどういうことなんだ。


『驚いただろう。魔王様は外見だけ取り繕えば、中身は実用性だけあればいいというお方でな』


 声がした。

 先にある階段から、巨体が降りてくる。

 天井に頭がつきそうだ。


 たくさんの腕を持つ巨人で、その腕にはそれぞれ武器を持っている。

 ノウザームで戦った魔将みたいな見た目だが、あれよりもでかい奴だ。


『ようやく会えたな、勇者たちよ! 俺は魔将ティターン! 最初にこの星に降り立った、ミルグレーブ様の魔将よ! この俺が来たからには、お前たちの道行きはここで終いだ。覚悟するがいい!』


「覚悟も何も、お前さんが武器を振り上げたら天井に当たってしまうだろうが」


『ああ、これか』


 ティターンが天井をトントンと叩いた。


『敵の心配をするとは、余裕がある証拠だな。だがそんな気配りはいらんぞ。ほれ!』


 ティターンが武器を振り抜く。

 すると、天井が破壊されて崩落してきた。


「荒っぽいやつだな!」


 俺は天井をガードする。

 崩れた頭上に見えるのは、さらに上の階の天井だ。


『これで心置きなく戦えるだろう。さあ行くぞ行くぞ。俺はこの機会をずっと待っていたんだ!』


 俺たちが知らない間に、迷惑なファンができていたらしい。

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