第96話 激突する人間とモンスターだが、正面から押し返すぞ

 王国側からモンスター化した兵士たちがうわーっとやってきた。

 まだエクセレンの村の手前なんだが。


 俺たちエクセレントマイティとしては、あちゃーという感じである。

 王国、本格的に魔王に魂を売ったらしい。


「迎え撃てー!!」


 うわーっと盛り上がるライトダーク連合軍。

 なにせ、山を突き抜けて敵陣まで突っ込んできたんだから、士気はアゲアゲなのだ。

 モンスター側が怯んでるまであるな。


 個々の戦闘力ではモンスターが強いが、集団戦となると分からない。

 モンスター化した兵士たちの統制はかなり乱れる印象があるし、モンスター化が進むと作戦なんてものが吹っ飛ぶ。

 それに対して、人間側は戦術や戦略があるわけだ。


 弓やクロスボウがぶっ放され、そこから会戦……となるはずなのだが。


「ちょあーっ!! カノンナックルーッ!!」


「フウトン!!」


 俺たちからも援護射撃だぞ。

 その援護で敵軍の前線が瓦解した。


「ほい、作りおきの魔法陣なのじゃー。コメットフォール!!」


 ディアボラがばら撒いた紙から魔法陣が展開し、敵軍の頭上に小型の隕石が降り注いだ。

 ばんばん爆発が起きるな。

 こっちまで衝撃が来るんだが、そいつは俺がガードする。


 だからこそ、ディアボラは安心して儀式魔法を使っていられるというわけだ。


「勇者パーティーが道を切り開いてくれたぞーっ! 行け行け行け行け行け!!」


 うわーっと盛り上がり、進撃していく連合軍。


「あー、調子に乗ってると危ないぞ。相手は魔王軍……」


 とは言っても、勢いに乗った人間の大群というのは止まらないものだ。

 みんな血気にはやって、ガンガン前に進んでいる。


 敵が人間の軍隊ならそれでも良かったんだろうがー。


 突如、連合軍の前方の地面が盛り上がった。

 そこから、一つの村くらいのでかさがある亀みたいなモンスターが起き上がってきた。


「ウグワーッ!?」


 跳ね上げられたり、圧倒的巨体を前にした恐怖で連合軍の動きが止まる。

 ほらー。


「ど、ど、どうすればいいのだマイティ殿!」


「あれは普通の軍隊だとちょっと相手が悪い。俺がやろう」


「一人で!?」


「あれに力負けしないのは俺だけだろう」


「力負けしないの!?」


 驚き続ける連合軍の将軍。

 彼の腰あたりを、ディアボラがぺちぺち叩いた。


「レベルが違うのじゃよレベルが」


「レベル……?」


「神様が与え給うた、種としての強さみたいなものさね」


「なんじゃカッサンドラ! お前、レベルが見えるのか!」


「そりゃあ聖職者だもの。見えて当たり前だろ? マイティもジュウザもあんたも異常な数値が見えたから腰が抜けるかと思ったよ!」


 彼女たちの会話を背後に、俺はガンガン突き進む。

 巨大亀は俺を踏み潰そうと、前足を下ろしてくる。


 これを盾で受けて弾くのだ。


「おりゃっ」


『ゴゴゴゴゴーンッ』


 亀が揺らいだ。


「よし、フェイタルヒット!!」


「シャイニング棍棒ーっ!」


 バランスを崩した亀にジュウザとエクセレンが打撃を加え、ひっくり返す。

 亀は手足をじたばたさせたが、起き上がることができない。


「よーし、次行こう、次」


「きょ……巨大なモンスターをものともせずに」


 呆然とする連合軍。

 だが、この亀、シャイニングな打撃を受けても消滅しない辺り、モンスター化度合いは低いとみた。

 つまりでかいのは元々なのだろう。


 戦いが終わったら元の位置に戻してやるからな。


 戦いが終わったら、村の方から村人たちが出てきた。

 見知った顔が多いな。


「うわー、村の人に気付かれちゃいました」


 なんと嫌そうな顔をするんだ。


「エクセレン! まだ勇者の真似事なんかしてたのか!!」


 特に見知った声がした。

 エクセレンの幼馴染のキョウだな。

 前に見た時よりも一回り体が大きくなって、鍛えていた事が分かる。


 だが彼は、エクセレンの今の武装を見て衝撃を受け立ち止まる。


「なんだいその格好は……」


 金属の甲冑で全身を包み、左手には魔法の輝きを帯びた大きなガントレット。

 背中からは何本もの武器が突き出している。

 エクセレン自身も、この一年位で体格が明らかに良くなっているからな。


「なんだいって、これは魔王軍と戦うための装備に決まってるでしょー」


 うんうん頷くエクセレントマイティと連合軍。


「えっえっ? だって、ほら、お前みたいな弱いのが勇者とか……とか……」


 既に歴戦の勇者になっているエクセレン。

 佇まいも眼光も、傍から見ると元村娘だなんて思えないものになっている。


「キョウも多少は鍛えたみたいだけど、もうちょっと足りないかも?」


 おっ、エクセレンがドヤ顔でダメ出しをした。

 ショックを受けるキョウ。

 まあ、かなり鍛え込んだんだろうが、それでも普通の人間のレベルだ。


 魔将やモンスターとの激闘をずっとくぐり抜けてきたエクセレンでは、鍛えられ方が違うわけである。

 これは仕方ない。


「じゃあどいて、キョウ。村から軍人さんたちのご飯をもらわないと。ボクたち、この国がバカなことをしているの止めに来たんだから」


「そ、そんなこと……」


「そんなことを何回もやって来たの。だからできる。やるの」


 エクセレンの言葉に、キョウは何も告げられない。

 幼馴染だった娘が、自分が想像もできないほどの速度で前に進んでるわけだからなあ。


「じゃあ行きましょうマイティ! ボクたちが先に行った方がいいみたいだし」


「そうだな。キョウも気を落とすなよ。じっくり鍛えれば、それなりの強さにはなれるセンスあると思うぜ」


 俺は彼の肩をポンポンと叩いた。


「うううう、うおおおおおー」


 キョウの嘆く声が聞こえるのだった。

 頑張れ、若人よ!

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