第95話 人間側の反撃が始まったのだ

 ついに空から降りてきた魔将も、多分あとニ人になったみたいで、魔王軍の動きが鈍って来たようだ。

 ここに至り、守り一辺だった人間側も反撃に転じる。

 ライトダーク連合軍が大群で、俺たちのいた王国側への侵攻を開始したのだ。


 ここに至るまで、あちこちの国を巡り、魔王に勧誘されて魔将になった現地の人を次々に打ち倒している俺たちである。

 勇者パーティーへの恩義みたいなもので、各国は一つにまとまっている。


「大変なことになってきてしまった」


「大変とはなんだマイティ。お主、自分がエクセレンと並ぶ勇者パーティーの旗頭になっていることを理解するべきだぞ。むしろお主の大きな体が目印になっていると言っていい」


「大事だなあ。まさか一介の冒険者に過ぎん俺がなあ」


「マイティが謙遜している」


「謙遜も過ぎればいやみになるよ?」


 ウインドとカッサンドラが笑っている。

 うーむ、実感が無いのは本当なのだが!


 だが、俺が納得するしないに関係なく、状況はどんどん進んでいくのだ。


 ライトダーク連合軍は俺の故郷たる王国へ向かうのだが、間には大きな山がある。

 これを軍隊が越えるのはなかなか大変である。


 大きく迂回していくにしても、タイムロスがシャレにならない。

 兵糧の問題もあるしな。


「ということでわしの出番なのじゃ! この山をなくせばいいのじゃろ?」


 ディアボラが小さい魔法陣を書き、これを何枚にも切り取った。


「ほい、これ。山のあっちに書いてくるのじゃ。お前はこれ。お前はこれ。お前はこれ」


 半日がかりで書かれた大量の魔法陣。

 これを、連合軍の騎士たちが受け取り、あちこちに走った。


 魔法陣を見せてもらったのだが、そこまで複雑な形ではない。

 だが、とにかく種類がたくさんある。


「ディアボラ、こりゃなんだ?」


「すぐに分かるのじゃ! ほれ、そろそろ一通り魔法陣が描かれたようじゃー!」


 ディアボラが懐から取り出した、小さな魔法陣の一つが輝いている。


「こりゃあな、巨大な魔法陣をバラバラにしたものじゃ。それを山の片側に大量に貼り付けることで、簡易魔法陣を展開する。すると……ほれ!」


 なんと目の前で、山そのものの存在が薄くなっていくではないか。


「まる一日、山を幽体化させたのじゃ! 本当に一日しか持たんから、急いでここを駆け抜けるのじゃ!!」


 恐るべき大魔法である。

 ライトダーク連合軍の頭数があるからこそできる儀式魔法ということか。


 エクセレンはこれを見て、自分もやりたいなどと言っていた。

 勇者パーティーの象徴たる彼女が軽々しく動くと問題なので、各国の重鎮たちに押し止められていたが。


「マイティ! ボクはとてもつまんないです! なんか何もやらせてもらえませーん!」


「そりゃあお前さんは、世界にとって大事な大事な勇者だからな」


「そりゃあそうですけど! ……あれ? ボク、世界から大事にされてる勇者なんですか?」


「そうなってるな」


 エクセレンがむむむ、と唸った。


「いつの間に」


「俺と同じような悩みを抱いてるな。そりゃあそうだよな。一年くらい前に出会った頃は、お互いにクビになったばかりの冒険者と、勇者志願の娘でしかなかったもんな。あっという間に月日が流れた」


「ほえー。もうそんなに経ったんですか! 早いですねえ」


 一年をそんなに、と表現する辺り、若さを感じる。

 今の俺たちは、押しも押されぬ勇者パーティーの中核である。


 俺たちを守っるように、たくさんの騎士や兵士たちが円陣を組んで進軍している。

 下手な王族よりも守りが厳重だぞ。


「だが、こりゃあなあ。俺もエクセレンも、最前線に出て初めて真価を発揮するというのに。ジュウザとウインドは前にいるんだろ?」


「そうですねえ。ジュウザは斥候だそうです! ウインドは魔王軍の痕跡を調べてるみたいですよ」


 羨ましい。

 そしてカッサンドラは、直に神に会った聖職者として、従軍僧侶たちから大事に大事に扱われている。

 本人もとても居心地が悪そうだ。


「なあに、心配はいらんのじゃ! すぐにわしらの出番がやって来る!」


 ポニーに乗って、ディアボラがやって来る。

 そんな小さいサイズの馬が従軍してたのか。


「それは一体どういうことだ? この数の軍隊だぞ?」


「こやつらのレベルを見れば分かる。魔将の相手にもならんわい! そうなれば、絶対にわしらの出番がやって来るのじゃ! 今はのんびりサボっていればいいのじゃー」


 そう言って、ディアボラはどこかでもらった焼き菓子をむしゃむしゃやるのである。

 エクセレンが欲しがっている。

 さすが千年生きているディアボラは人間ができているので、ちょっとだけ焼き菓子を分けてくれた。


 二人で並んでサクサクやりながら歩いている。

 すっかりこの一年間云々というのを忘れたな。


 のんびり進んでいるようだが、山が実体化しないうちにここを通り抜けねばならない。

 ということで、なんとなくみんな早足である。

 山を完全に通過したところで、大規模なキャンプを張る予定であるという。


「懐かしい村が見えたぞ。エクセレンの故郷だ」


「うげー」


 戻ってきたジュウザの報告に、エクセレンが嫌そうな顔をした。


「迂回しましょう」


「そうはいかんだろう。これだけの軍隊だ。村の備蓄を接収することになるだろうな」


「うげー。寄りたくない。ボクはいないってことにしてください」


「そうはいかんだろう。勇者パーティーどころか、ライトダーク連合軍の旗頭だぞお前さんは」


「うげー」


 本当に嫌そうなエクセレンなのだった。

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