第92話 いざゆけ神の戦士たち、と放たれる俺たちだ
『状況は厳しい。だがこれを凌げれば、あれほど強力な魔王がやって来ることはまずあるまい』
介抱した神を囲み、作戦会議である。
どうやら神は魔王に詳しそうだ。
『魔王とは、ごく低い確率で、世界を滅ぼすために飛来してくる存在だ。この世界においては二回目となる。前回の魔王が残した力をこちら側に引き込めたのが大きい。いや、前回は魔王が手を貸してくれたとも言える』
「手を貸してくれたのか」
『うむ。魔王が現地の人間を依代とした故に。魔王は己が完全な魔王となる前に、世界に魔王の恐怖を刻みつけた。各地は魔王への備えを作り上げることになったのだ。星見の城、森の民、橋の王国……』
「橋の王国は魔王より古いんじゃないのか」
『人間たちによる千年前の記録は曖昧になっているだろう。あれは間違いなく魔王に関するものだ。そしてカノンナックルと……これがロケットウインガーだ』
いきなり神が変なのを出してきたぞ。
エクセレンが腰で止めるタイプのベルトみたいなものだ。
「やってみます! えい、装着!」
彼女がベルトを締めると、背中側でベルトがジャキーンと音を立てて展開した。
なんと、そこから赤い翼が生えたのだ。
羽根も無ければコウモリの羽とも違う。
『これは勇者の機動性を上げるためのものだ。お前たちが揃ったことで、やっと運用できるようになった。これもまた魔王への備え』
「昔の人間はよっぽど真の魔王様にブルっておったのじゃのう!」
ディアボラがちょっと得意げである。
「どれどれ? わはー!」
ふわりと浮かび上がるエクセレン。
猛烈な勢いで空を旋回し始めた。
「これ凄いですねー!!」
「ほう、これで我らの弱点であった空が飛べない事が解消されたな」
「いやいや、普通は飛べないからね!?」
感心するジュウザに、カッサンドラが突っ込む。
「では、これで準備は万端ということか? 俺に言わせるならば、準備が万端ということはありえない。いかに森を熟知していても、全ての鳥獣の動くことを言い当てられはしないという通りだ」
「ナゾマーことわざだ」
俺はちょっと嬉しくなった。
大体みんな、狩りに例えるんだよな。
分かりやすくてとてもいい。
「ところでウインド、そのパンパンになった腰とか背中の袋には何が入って?」
「よくぞ聞いてくれた。神の世界の素材は凄いな。まさしく素材の宝庫と呼ぶにふさわしい。俺は今、幸せだ」
つまり万端とは言えないが、万端と言っていいくらいの準備ができたということだろう。
これは頼もしい。
「よし、行きましょう!」
エクセレンが降りてきた。
「今度はわしが飛ぶのじゃ!」
なぜかディアボラがベルトを借りて、自分も羽をはやして飛び始めている。
あれ、誰でも使えるんだなあ……。
これを、ジュウザがじーっと見上げている。
そしてすぐに俺へ目線をよこした。
「このベルト、マイティが使うべきであろうな。不壊の盾がどこからでも文字通り飛んでくる。これは魔王にとって悪夢であろうよ」
「なるほど」
その発想はなかった。
こうして準備を整えた俺たち。
神は俺たちを見回すと、頷いた。
『お前たちは神の戦士である。勇者よ。タンクよ。ニンジャよ。魔女よ。アルケミストよ。エクソシストよ』
俺たちの職業を呼んでいると、後ろで元魔将だった面々が、
『こうして見るとマニアックなクラスが今回は集まったな』
『一芸特化ばかりだのう。だが六人揃えば六芸特化だなあ』
『まあ死角はなくなるよねー』
『後ろうるさい!』
神が怒った。
教会はどうやら、サウザーム大陸に向けて動き出したらしい。
風が、雲が、後方へ流れていく。
「動いてますよマイティ! 地面の景色がどんどん!」
「どれどれ……あ、本当だ」
眼下に広がるノウザーム大陸がスライドしていく。
すぐさま現れるのは、緑の森。
ナゾマー大森林だ。
こうして上空から見ると、橋の王国はちっちゃくてすぐに通過してしまったな。
そして星見の王国が……。
おいおい、なんか火の手が上がってないか?
「神様、ストップだ。ここで俺たちは降りるぜ」
『良かろう。最後の戦いだ。いざゆけ、神の戦士たちよ!!』
俺はベルトを締めた。
すると、背中からでかい翼が展開する。
装着した者によって翼のサイズが変わるのな。
そして、エクセレンとディアボラとカッサンドラが俺の背中に乗り込んできた。
右手でジュウザ、左手でウインドを確保する。
「よし、行くぞ!」
進むという意志を持った瞬間、翼は羽ばたくこともなく、推進力を生み出した。
俺の体が猛スピードで飛翔し始める。
「あぶぶぶぶぶぶ風がががががが」
カッサンドラが風にやられて何か言っている。
「興味深い……興味深い……」
ウインドはずっとぶつぶつ言っているな。
後で翼を使って飛ばせてやろう。
「マイティ、ここで拙者を落とせ。見回す限り魔王の軍勢。ならばここは、使いどころであろうよ」
「おう、久々だな! 行け、ジュウザ!」
「応!!」
ジュウザを手放す。
彼は「フウトン!」と叫んで風を纏うと、そのまま落下速度をコントロールしながら敵の只中へと降り立つ。
小柄なジュウザなど、モンスターの群れの中にいれば飲まれて消えてしまいそうだ。
だが、そうはならない。
あれは、最強のニンジャなのだ。
「キエエエエエエッ!!」
気合一閃。
いきなり、戦場の中心で数百体のモンスターの首が飛んだ。
派手な開戦の狼煙である!
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