第83話 次なる戦を前にとうとう神様がやって来た

 洗脳を解いて追い返したが、共和国側に魔将がいるならばまた洗脳されてやって来るだろう。

 これは分かりきっている。


 かと言って、あの数の軍隊を帰さないわけにはいかない。

 彼らを食べさせておける場所など、ナラティブ自治連合には無いからな。


「根本的な解決にはならないな」


「うむ。こちらがタクサス共和国へ乗り込み、魔将を仕留めるしかあるまい。あちらは持久戦を仕掛けてくるだけで、ナラティブは息切れする」


「橋の王国よりも効果的な持久戦だな。確かに今回の魔将は頭がいい」


 男たちで角を突き合わせて話し合っていると、隣でエクセレンが「はいっ!」と元気に挙手した。


「はいエクセレン。どうした?」


「あのですね。トゲが四本になったし、ついに神様系の職業であるカッサンドラも仲間になりましたから、ここで直接神様を呼んでみたらどうかなって思いました」


「なるほど」


 荒唐無稽な提案に思えるが、よく考えてみよう。

 エクセレンの棍棒が神に四回祝福されているのだ。


 ならば直接会ってもいいではないか。

 だんだん祝福もおざなりになって来ているから、神の中でもこれがパターン化しているのが想像できる。

 たまには人間関係……ではなく、神と人の関係にも変化を与えねば。


「じゃあカッサンドラ頼む」


「頼むって何をだい!?」


 横で俺たちの話を聞きながら、ちびちびと酒を飲んでいたカッサンドラ。

 いきなり話を降られて慌てている。


「何って、神を呼んでくれ」


「マイティ、簡単に言うけどそりゃあとんでもないことだよ!? 何か凄い聖なる物でもなければ……」


 ゴトリ、とテーブルに置かれるエクセレンの棍棒。

 トゲがギラギラとカラフルに輝いている。


「あったよ、聖なる物……。仕方ないねえ、やってみるけどさ」


 カッサンドラは手のひらを組むと、神への祈りを捧げ始める。

 こうやって見ていると、酒を飲んだり蓮っぱな言葉を使うエクソシストだとは思えないな。

 清楚な神官に見える。


「神よ、我らの祈りを受け取りたまえ。そして……その……ちょっと出てきてください」


 最後の方はカッサンドラの言葉だな。

 なるほど分かりやすい。

 神様も勘違いのしようが無いだろう。


 ちなみにここはナラティブ自治連合の教会である。

 その天井が突然、ピカッと光った。


「うわっまぶしっ」


 ごろ寝していたディアボラが悲鳴を上げた。

 聖なる光だもんな。

 トテトテ走ってきて、俺の影に隠れた。


「ま、まさか」


 天井を仰いで、カッサンドラは呆然としている。


「本当に神様が……!? いやいや、祈ってすぐとか早すぎだよ」


『とんでもない。私は神様だぞ』


 神から返答があったぞ。

 光が人の形になり、俺の隣辺りに降りてきた。


『あっ』


「あっ、そこ椅子。危ない危ない」


 着地場所を間違えて、転びそうな神を支えた。


『ありがとう。君に祝福を』


「うわっ、俺の手がピカピカ光りだした! 戻してくれー」


『無欲なのだな』


 手の光が消えた。


『神だ』


 改めて自己紹介する神様。


『多忙なため手短に頼む。こうしている間にも世界は魔王によって侵略されていっているのだ』


「よし、じゃあ二つ願いを言うぞ」


 俺はエクセレントマイティを代表して口を開いた。

 他のメンバーは特に異論は無いようである。


「5つ目のトゲの場所と、共和国に入って魔将をぶっ倒す手段をくれ」


『いいだろう。教会は山の上にある。試練を超えてたどり着き、手にするものだ。それは赤き混沌のトゲ。だがせっかく神がここに来ているのでもうあげちゃおう』


「あっ!! 真っ赤なトゲが生えました!! 話が早いです!!」


「教会行くの飛ばしちゃったな」


 祝福の雑さここに極まれりである。


『あと一つトゲはあるが、流石にこれは頑張って見つけるように。共和国までは君たちを祝福しよう。これで君たちが魔将と見えるまでは誰にも害されることはない。だがこれはナラティブに注いでいた祝福をこちらに割り振った形なので、君たちが迅速に行動せねばナラティブの民が滅ぶ』


「なかなか大変な状況になったな!」


『さらばだ勇者たちよ。ちょこちょこ見守っている』


 神がスーッと浮かび上がっていき、天井に溶けるようにして消えてしまった。


「存外に神はフランクなのだな……」


「まさか信仰の対象となる存在と直接会えるとは……。エクセレントマイティに入っていて本当に良かった」


 呆然とするジュウザと、何やら感激してメモを取っているウインド。

 ディアボラは俺のマントの中に隠れていたのだが、もぞもぞと上がってきて俺の襟首の後ろからぴょこっと頭を出した。


「眩しかったのじゃー! やっぱり魔将が直接神を見るといかんなー!」


「ほえええ……、か、神様が本当に出てきちまったよ。とんでもないことだよ……」


 教会の中で働いていた聖職者たちは、カッサンドラ同様に腰を抜かしている。

 確かに今、とんでもない事が起きたのだ。


 だが、とんでもない事に驚いている場合ではないぞ。


「よし、すぐ出発しよう。馬を貸してくれ」


 体がなんだか聖なる感じのオーラを放っているのが分かる。

 これは本来、ナラティブに与えられるはずだった祝福だ。


「次の攻撃が始まるまでに、共和国に飛び込んで魔将をぶちのめすぞ!!」


 俺の宣言に、仲間たちは頷くのだった。

 ちなみにエクセレンはパワーアップした棍棒を掲げ、


「やりましょうー!! まかせてくださーい!!」


 こう宣言した所、棍棒に宿った五色の角がギラギラと神々しい輝きを放った。

 その場にいた聖職者はみんなひれ伏し、カッサンドラはあまりの神々しさに五体投地したのであった。

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