第81話 今度の戦争は本気みたいだぞ
ナラティブ自治連合側は、各国の長が顔を出し、わいわいと会議を始めた。
開戦することは前提で、どこがどれだけ兵力を出すか、どこで迎え撃つかという話だ。
小国の集まりである彼らは、こうして意見を軽くすり合わせることはあるが、意思決定は各国に委ねられているようだ。
大体お互いの動きを把握したら、すぐに解散してしまった。
「さすがに動きが早いな。国が小さいと小回りも効くもんだ」
俺が感心していると、ジュウザが唸った。
「だが、これはつまり大規模な戦闘ができぬということでもある。ナラティブ自治連合には、局地戦しか無いのだ。タクサスが本気を出してこなかったことに甘えがあるのかも知れぬな」
「なるほど。厳しいのか?」
「真正面からぶつかり合えば勝てまい。タクサスがどうして突然本気を出してきたかが問題ではあるが……拙者らがその引き金ではあろう。しかし……」
「向こうに魔将がついているから、か。だろうなあ。じゃあ、この戦争にはちょっと介入するか」
「うむ、そうしよう」
そういうことになった。
エクセレントマイティの動きは、俺とジュウザで大体決めてしまう。
ウインドは世俗に疎いし、エクセレンはよくわかってないし、ディアボラは俺たちの話を横で聞きながら、使うであろう魔方陣を作り始めるのだ。
「あんたら、手助けしてくれるのかい? ありがたいねえ!」
「何を言うカッサンドラ。お前さんもエクセレントマイティの一員になって行くんだぞ」
「えっ!? なんでそういう話になっているんだい!?」
「お前さん、魔王の洗脳を解ける力があるだろう。これは重要だぞ。敵の指揮官とか重要そうな兵士の目を覚まさせれば、軍隊の動きが止まるからな」
「そうなのかい? じゃああいつら、何者かに操られて……? いやいや、あたいにその力があるのは分かるけど、軍隊に突撃するなんてとても無理さね!」
「ああ、それは問題ない」
ここでウインドが話しに加わってきた。
「我がパーティーのタンクがいれば、どこにでも行けるからな」
カッサンドラはきょとんとするのだった。
そして数時間後。
俺たちは崖の上から、共和国軍を目掛けて落下していく最中だった。
「なっ、なんでこんなことにぃぃぃぃぃぃぃ!!」
カッサンドラが悲鳴を上げ、すぐに着地の衝撃で「ウグッ」とか言った。
おおよそのダメージは俺の盾がガードしているから、なんともないだろう。
俺たちはあの後、馬車を借りて即座に共和国軍へ接近した。
そして彼らの斥候を撃破しながら山に登り、そこから下方を通過する共和国軍本隊に向かって飛び込んだのだ。
ナンポー帝国の戦争を見物に行った時と同じ要領だな。
違うのは、兵士たちの大部分はただの人間だということだ。
指揮している連中の目の色がおかしい。
血走って真っ赤に染まり、瞳孔が開ききっている。
「曲者だあ!! 殺せ! 殺せーっ!!」
指揮官が唾を撒き散らしながら叫ぶ。
兵士たちは、嫌そうな顔をしてこっちに近寄ってきた。
「よし、ガードだ! 俺に攻撃しろ!」
俺が敵の注意を引き付けるスキルを使う。
すると、兵士たちは俺ばかりを攻撃するようになった。
これを盾で防ぐだけなのでとても簡単である。
しかも相手の武器はそこそこの性能しか無い量産品。
攻撃し続けていると、ポキポキ折れたりグンニャリと曲がっていく。
武器が壊れてしまったら、さぼる大義名分が生まれる。
「うわーだめだー」
「攻撃が通らねえー」
口々に言いながら、兵士たちが戦線を離脱していった。
士気の低さが実に助かる。
お陰で無駄な殺生をしなくていいからな。
「よし、では行くぞ」
ジュウザが地面に手をつく。
「ドトン!」
大地が裂け、一部は隆起する。
指揮官へ向かう道が生まれ、途中にいた兵士たちは横合いへと弾かれていった。
「ウグワー!」
悲鳴が上がっているが、大した怪我はしていないだろう。
ジュウザは隆起した地面を走る。
「続くのだ、カッサンドラ! お主が指揮官を鞭でしばかねば、この戦局は終わらぬ」
「あ、ああ! とんでもない連中だねあんたらは!」
ジュウザの後ろを走り出すカッサンドラ。
これを、エクセレンが「がんばれー!」と手を振って見送った。
エクセレンのパワーはオーバーキルし過ぎるので、ここでは使用禁止なのだ。
共和国の兵士たちはポカーンとして、隆起した地面とそこを走るジュウザたちを見送っている。
たまに真面目なのがいて、槍をジュウザに投げつけたりする。
だが、これはジュウザがクリティカルヒットで粉砕するのだ。
「ぬおおお! わ、わしを守れい!! 敵の接近を許すなどぉぉぉぉ!!」
目を血走らせた指揮官に接敵したようだ。
「浄化だよ!」
「あふん」
鞭でしばく音と、なんか間抜けな声がした。
少しして、兵士たちの動きが止まる。
これは指示が飛ばなくなったな?
「よーし、完成なのじゃー」
「ディアボラはずっと何を作ってたんだ」
何時間も魔法陣を作っていたディアボラ。
作業に集中するため、ウインドに背負子で運ばれていたのだ。
「うむ。お前らが時間を作ってくれたお陰じゃ。これで戦争は一旦終わるのじゃー。
ディアボラのおやつのナッツが放られ、これが魔法陣起動のきっかけとなる。
頭上に赤い輝きが文様となって広がり、戦場全域へと展開していった。
すると……。
おや……?
「なんか、どこに他の指揮官がいるのか分かるぞ」
「うむ! 戦場にいる洗脳された者を全て探知する儀式魔法なのじゃ! これで順繰りに潰していくのじゃー!」
「がんばりましょう!! カッサンドラー! 休んでる暇ないですよー!!」
やることがなくて元気ばかりが有り余っているエクセレン。
飛び上がってカッサンドラを呼ぶのだった。
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