第74話 保留ってなんだ。こりゃあいかん
数日間を共和国で過ごした。
この国のいいところは、思いつく限り様々なサービスが仕事になっていることだった。
街を歩いていたら声を掛けられ、鎧や武器をピカピカに磨いてくれる人がいる。
あるいは、小腹が空いたら串焼きやら揚げたパンやらを一個から買える。
ちょっと一休みしたくなったら、そこここに腰を落ち着けて茶を飲める店がある。
「豊かだな……。だがここにいては拙者は堕落してしまう」
席に深く腰を落ち着けたジュウザが、茶を飲み干した後で呟いた。
「いい国じゃないか。だがどうして生活に必要がないこんなことを仕事にして生きていけるんだ? 豊かではあるが、いびつだな」
ウインドの物言いは率直である。
仕事と生きることが直結していたナゾマー大森林。
そこから見ると、どう考えても人の欲求の隙間みたいなところを仕事にする、タクサス共和国のスタイルは違和感があるようなのだった。
「すっごいですねえ。これ、思いつく限りいろんな事が全部仕事になってますよ。楽しいし一日中遊んでられそうです! でもそれをやっちゃうと魔王退治が捗らないんですよね」
遊びたい盛りのエクセレンが、うーんと唸った。
「時間と物をひたすら消費し続ける社会じゃな! ある意味、どんな国よりも発展してるのじゃ! じゃがまあ持続性はないのじゃー」
共和国が生み出す、無駄なもの代表であろう生クリームたっぷりのケーキをパクパクやるディアボラ。
「こう、どこか国のあり方が、今回の魔王の精神性と似とるのじゃ! ぜーったいにあやつが手出ししてくるのじゃ」
「なるほど。じゃあ俺たちは一応、ここで待ってりゃいいんだな」
国内を自由に歩き回っている俺たちだが、当然監視はついている。
あちこちに、黒服の男女がおり、それが入れ替わり立ち替わり俺たちの様子を観察し、上に報告しているようなのだ。
しかし俺たち相手にめちゃくちゃな数の人員を割いてるな。
たくさん人がいると、その分だけ仕事を得られる人間が増えるからだろうか?
湯水のように金と人員を使う国だ。
しばらくすると、タクサス共和国側から接触があった。
議会で俺たちについての対応が決定したということである。
使いの男は、生真面目そうな人物だった。
ガキノッツという名前らしい。
「勇者パーティーを名乗る、エクセレントマイティの一行への対応について、決定した事項を伝えます」
「ほうほう。どうなったんだ」
代表して俺が答える。
「はい。真偽のほどが定かでは無いため、保留。勇者なるものの存在についての文献も、我が国二百年の歴史の中には存在しないため、確認ができません。まずは皆さんは国民として登録し、仕事についてもらってから能力を見極めていくという方向に……」
「待て待て待ておかしいおかしい」
流石に止めた。
「俺たちは魔王を倒す旅をしているんだ。それがどうしてこの国に留められて、仕事につくことまでしなければならんのだ」
「それが共和国のルールですから」
「こちらが同意していないのにか」
「自由意志は認められていますが、それはそれとして仕事をしないものを食わせていくことはできない、というのが共和国の見解です」
こりゃあ話にならない。
ガキの使いではないか。
俺が目配せすると、エクセレンとジュウザが頷いた。
「じゃあ、俺たちはこの国を出るぞ。話にならない。魔王に襲われたら助けに来るよ」
これに慌てたのはガキノッツである。
「お待ち下さい! それは私の一存では決められません! まずはそれについて書類を作成し、内閣の承認を得てから新たに議会を招集し……」
「こりゃいかん」
永遠にこの国から出られなくなるぞ!
「よしみんな、強行突破してこの国を出るぞ」
「賛成!」
「うむ、それが良かろう」
「ずっといては腐ってしまいそうだ」
「もうちょっと楽しみたかったんじゃがのう」
ガキノッツが騒ぐと面倒になるので、ぐるぐるに縛って転がしておくことにした。
誰かが見つけに来るだろう。
そして俺たちは出国することになる。
共和国の都らしきこの土地だが、出入り口にあたるところには兵士が佇んでいる。
「出るぞ」
「あ、では出国許可証を」
「ないぞ」
「それはダメです」
「押し通る」
「えっ、困ります困ります! あーっ、いけませんいけません! ウグワー!」
俺にぎゅうぎゅう押されて、兵士たちは都の外に転がり出ていった。
よし、都を脱出だ。
こうして俺たちは、タクサス共和国の都を脱出。
周辺の町や村などに立ち寄りながら、自力で調査を始めるのである。
求めるのは、タクサス共和国内にあるらしき古代の教会。
「建国二百年とか言ってたのじゃ。つまり歴史が浅いので、きっと教会のことは国の正式な記録にはないのじゃ」
「確かにそうですねー。じゃあ、田舎の人たちから聞いたほうが早いかもです!」
守備の兵士たちを押し出して外に来たのだが、不思議なことに追手が来ない。
きっと追手を出すべきか出さざるべきか、誰が行くのか、を話し合っているのだろう。
「魔王が来たら真っ先に滅びそうな国だ」
ジュウザが呆れる。
「だが……このような国であるからこそ、平時には多くの民を養い、食わせていくことができるのであろう。緊急事態を余り想定しておらぬのだろうな」
「森とは真逆の国だった。世界は広い。俺もこの国に入れば、きっと緩んでしまって容易には立ち直れなくなるだろう。誰がどこの責任であるのかが、常に曖昧なところだった」
ウインドは、まさに異文化というに相応しいものを体験し、とても満足げだ。
都の煮えきらなさが、地方にまで広がってなければいいと想いつつ、俺たちは手近な村に向かうのだった。
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