第68話 一時休戦、橋の上の戦場飯は美味いな
「そりゃあ! エクスプロージョンの魔法陣なのじゃ!」
ディアボラはエントレットの背中に、魔法陣を書いた紙を貼り付けたようだ。
宿の絨毯で書いていたのはこれか。
しかもまだまだ何枚も紙の束を持っている。
魔法陣は、ディアボラが弾いたナッツを吸収すると発動した。
大爆発が起こる。
『ウグワーッ!? は、話が違う! いや、魔王様は確かに重々に注意して慎重に行動せよとおっしゃっておられたが、まさかここまで勇者パーティーが自由だとは!! 分が悪すぎる!!』
エントレットは半身を爆発で吹き飛ばされながら、ごろごろ転がっていった。
逃げるつもりか。
「させぬぞ!!」
ジュウザが後を追う。
だが、その目の前でエントレットは大きく膨らんだ。
「ぬうっ!」
次の瞬間には、魔将は弾けてバラバラになっていた。
その中から……あれは種か?
握りこぶし大のものが、岸に向かって放たれている。
サウザーム側に着弾した種は、そこから手足が生えた。
『我が軍団をもって橋の王国を攻め落としてやる! 見ておれ! ストーンジャイアントの仇め!!』
猛烈な勢いで、種はナゾマー大森林へと逃げ込んだのだった。
「森の中に入ったら見つけるのが難しいな。というかあの魔将、種が本体なのか。核をぶち抜かないと倒せないみたいだな」
「うむ、拙者もまだまだ未熟。奴の本体を見抜けなんだわ」
「後を追います?」
「いや、こっちも迎撃の準備をして待ち構えるのがいいだろう。時間があれば、ウインドとディアボラがたっぷり迎撃手段を用意してくれるだろうからな」
「そうしますか! じゃあ……ボクはそろそろお腹が空いてきたんですけど」
「飯にするか!」
そういうことになったのだった。
橋の城塞魔法は解かれ、俺たちの勝利を知った国民たちがわいわいと道に溢れ出してきた。
「まさかあんたたちが勇者のパーティーだったとはな!」
「現実にいるんだなあ」
「おい見ろ! あの勇者の左手にハマっているガントレット! 俺が一緒に乗った船でゲットしたものなんだぜ!」
大騒ぎだ。
なんだかお祭りのようにもなってきて、みんな道端で肉を焼いたりパンを焼いたりし始める。
「待て待て、これからエントレットが攻めてくる。ここで豪遊したら持久戦になった場合、持たなくなる」
ウインドが心配しているな。
これに対して、国王が笑って答えた。
「橋の内部に食料を備蓄している。見てみろ。どれも日持ちしない食べ物ばかりだ。パンはさらに焼き固めることで日持ちするようになり、肉は生のものを焼いている。干したものはちゃんと溜めてあるのだ」
「なるほど……。つまりこれは長丁場になる事を見越して、今のうちに生鮮品を処分するための」
「そう、大義名分だ。ここでテンションを上げておいて、やって来る戦に備えようってわけだ。なお、野菜類の半分は漬物にしてあるからな」
ウインドが感心して唸った。
さすがは橋の王国。
何らかの事情で橋の中に籠もることになるのを想定しているってわけだ。
「我々も、次からは戦いに参加する。今回は不意を突かれたからな。あの魔法の城塞はどうやって使うのだ? 教えてくれ」
「良かろうなのじゃー」
骨付き肉を片手に持ったディアボラが、国王に儀式魔法の使い方をレクチャーし始めた。
説明しながら、魔法陣を城の中まで延長して行っているな。
「マイティ! あっちの焼いたパンで肉を挟んだの美味しそうですよ!」
「本当だ。よし、大いに食うか!」
そういうことになった。
なんだか大きな話になってしまったな。
俺はただの冒険者気分だったのに、これでは国を巻き込んだ戦争みたいじゃないか。
橋の王国は、日持ちしない食品を全部吐き出し、みんなで飲み食いした。
俺はたくさんエールを飲んだのだが、うちのパーティー、酒を飲むのが俺一人なんだよな。
これはいかん。
俺がなんとなーく予感している最後の一人は、酒飲みにしなければいけない。
そんな使命感に燃えるのである。
「なるほど、パンに肉を挟んだものか。肉入りの握り飯のようなものだな」
ジュウザが肉挟みパンを食べながらウムウムと頷いている。
「握り飯ってなんだ?」
「拙者の故郷では米の栽培が盛んでな。これをこちらのように鍋で煮るのではなく、炊くのだ。するとふっくらとした食感になる。これにちょいと塩をつけ、肉を巻き込むようにして拳大に握っていくと……握り飯という携帯食料になるのだ」
「へえ! ふっくらした米っていうのが想像できないが、美味そうだな」
「美味いぞ! そのうち馳走してやろう」
楽しみだ。
話を聞いていたら米が食べたくなったが、米は保存用として備蓄されている。
持久戦をやりながらのんびり食べるとしよう。
この機会に、橋の王国の様々な史跡を見ることもできた。
食料が備蓄されているのは昔の教会で、残念ながらエクセレンが探している古の教会とは違うのだが……。
「神様は食料保存庫にしてていいんですかね?」
「いいんじゃないでしょうか。民を守るための設備として使われていますし、それに御覧ください。神の紋章は橋のあちこちにあります。この教会にこだわらなくても、ブリッジスタンはどこで祈っても神に届くようになっているのですよ」
司祭がそんなことを言った。
神様というのも懐が深いんだな。
他に、商業会館。
橋の王国でも古い方に入る建物だそうだ。
ノウザーム大陸から来た者が橋の上に住み着き、最初に建てた家を拡張していったものだとか。
「橋の内部はみっしり石で、迷宮になっている……なんてことも全くないんだけどな」
商業会館の館長がにやりと笑う。
「それぞれの石に規則性があって、誰かが何かの目的で組み上げた橋だってのは明らかになってるんだ。歴代の館長で暇人がいてね。ある程度、その目的を解明したらしいんだが、誰も興味が無かったんで資料庫のどこかに埋もれちまった」
「興味があるのじゃ! 探すのじゃー!」
ディアボラの一声で、国民有志が商業会館資料庫で、過去の資料を捜索することになったりしたのである。
さて、エントレットが攻めてくるのは朝になるか、夜になるか。
こちらは腹ごしらえも済ませ、準備は万端なのだ。
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