第67話 駆け上がれ城塞魔法の上

 橋の王国は、ディアボラが発動した魔法によってまるごと城塞のようになった。

 二人の魔将がガンガンと攻撃を叩きつけてきているが、びくともしない。


「まあ、永遠には持たないのじゃ。シチューが切れたら終わりじゃな」


「あの鍋いっぱいのシチューでこの城塞が出来上がったのか。恐ろしく燃費がいいな」


「うむ。その代わりあのシチューを魔法陣が吸い尽くしたら城塞が消えるのじゃ。継ぎ足し継ぎ足しお替りせねばならん。シチューが切れる前に決着をつけるのじゃー!」


「よし、行くか!」


 そういうことになった。

 城塞の外には、望めば出られるらしい。

 ただし、しばらく中に戻ることはできなくなる。


 なので、外に出るのは俺たちエクセレントマイティだけだ。


「そなたたちだけが頼りだぞ、エクセレントマイティ!!」


 国王に激励され、国民たちから頑張れとか、行けーとか応援されつつ外に飛び出す。

 ウインドは魔将の顔ぶれを見ながら、ポケットの粉をさっさと調合していっている。


「植物と岩か。ではこの組み合わせで……」


 彼を最後列にしながら、城塞を登っていく。

 半透明な魔法の城塞に足を踏み入れると、まるで岩山を登っているような心地だ。


 つるつる滑ることはなく、取っ掛かりが多い。

 こりゃあいいや。


「むむむ、慎重に、慎重に……」


 エクセレンが俺の横を、ゆっくりゆーっくりと登っていく。

 反省が生きているな。


 魔将はどう攻撃してくるか分からない。

 俺がガードして、奴らの手を見極めてから行くのがいいだろう。


『や、やっと外に出てきたか。愚か者どもめ! ずっと中にいれば生き残れたものを!!』


『待てエントレット、焦るな』


 ストーンジャイアントに止められるのも聞かず、樹木のモンスターエントレットが襲いかかってきたぞ。

 城塞に攻撃が通らなくて、めちゃくちゃ焦ってたんだろうなあ。


『そおら! 蔓草の鞭を喰らうがいい!』


「ふんっ!」


 ダメージゼロでガードである。


『リーフブレードだ!!』


「ふんっ!」


「中和だ」


 俺がまたもガードしていると、ウインドが途中から出てきて粉をばら撒いた。

 葉っぱの嵐であるリーフブレードが、鉄粉で重みを増し、回転を失い、切り刻まれて地に落ちる。


『な、なにぃーっ!?』


「フェイタルヒット! きえええええ!!」


『ウグワーッ!!』


 エントレットがジュウザに蹴り飛ばされて転がった。

 多分強いモンスターなんだろうが、隙を作ってそこをボコボコにするとどんなのだって一方的にやれるものだ。


『いかん! 魔王様がお怒りになるぞ! 落ち着けエントレット!』


 ストーンジャイアント叫びながら、石の雨を俺たちに降らせてくる。

 こいつはガードしながら様子を見るのだが、ふむ……。


 エントレットがトリッキーな攻撃を仕掛けるタイプで、ストーンジャイアントは広範囲を制圧してくるタイプだな。

 つまり、突出した強い相手はエントレットが対応し、敵の軍隊はストーンジャイアントで対応する。

 二人組で様々な相手をバッチリ叩けるわけだ。


「恐らくこいつらは、地面の上だったらもっと恐ろしい敵だっただろうな」


 ウインドが新しい粉を用意している。


「ほう、もっと恐ろしいとは」


「エントレットは見た所、樹木のモンスターだ。地面に根ざすことで周囲の植物を操れる可能性がある。ストーンジャイアントは石のモンスターだ。大地と同化したり、周囲の石や岩を手足のように使えるのかも知れない」


「なーるほど。ならば城塞魔法の上というのは……」


「奴らの実力を発揮できない戦場ということになる。そしてダメ押しだ」


 ウインドがばら撒いた粉が、風に乗る。

 そこにさらに鉄粉を撒くと、突如として爆発が起こった。


 石の雨が弾き飛ばされ、周囲の視界がなくなる。


「この隙にストーンジャイアントの足元まで移動だ」


「おう! しかし何をやったんだ?」


「火花を散らすと炸裂する、破裂粉を使った。鉄粉と石が擦れ合うことで火花が散り、それで爆発したんだ」


「面白いことをするなあ」


 俺たちを見失ったらしいストーンジャイアント。

 奴の足元まで即座に移動した。


 向こうでは、ジュウザがエントレットとやり合っている。

 城塞魔法の上で、実力を発揮できない魔将はジュウザによって完全に抑え込まれているようだ。


『なんと姑息な手を! どこだ! どこにいる!』


「行け、エクセレン!」


「はい! ボクはここです! ちょうどあなたの股間あたり!!」


 空を飛んでいたのが災いしたな。

 ストーンジャイアントの足の下はまさに死角だったのだ。

 そこで、エクセレンが左拳を空に掲げる。


 装備されているのは、カノンナックルだ。


「カノンナックルーっ!! ついでにトマホーク!!」


 轟音とともに、ガントレットが射出される。

 それは即座に巨大化し、ストーンジャイアントを下から打ち上げた。


『ウグワーッ!?』


 さらに返す刃で、放たれたトマホークが輝き出す。

 そいつがストーンジャイアントの頭に深々と突き刺さった。


『ウグワワーッ!? こ、こんなバカなーっ!!』


 ストーンジャイアントは一瞬膨らんだかと思うと、全身が破裂し、粉々になってしまった。


 カノンナックルが、投げ出されたトマホークをキャッチすると、エクセレンの手に戻ってきて再び装備される。


「うひゃー! これ凄いですね!!」


「ああ、凄い装備だ」


「敵の隙を衝けたのが大きかったな。そこにエクセレンの必殺の一撃が決まった。然るべきタイミングで効果的な場所に、必殺の攻撃を当てればどんな敵でも倒せる」


「至言だ」


「ですねえ」


 ウインドの言葉に頷く俺たちなのだった。

 一方、エントレットと戦っていたジュウザ。


 我がパーティーのニンジャに、魔将が気を取られている間……。

 そろりそろりと背後に忍び寄る、ディアボラの姿があったのである。

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