第65話 国王が勧誘してくる
「うちで働かんか?」
橋の王国ブリッジスタンはそのお城。
他の国と比べると、少々こじんまりしたその建物の中は、一歩入ると謁見の間だった。
そして国王ハシタテ十六世がいきなり、俺たちを勧誘してきたというわけだった。
「そいつはまたどういう事なんです?」
「お前たちは腕利きの冒険者であろう。いや、勇者パーティーだとも聞いているな。ならばこそ、ブリッジスタンを守る力として相応しい。この国に残り、国の守りに力を貸してくれぬかね?」
「魔王を倒す旅の途中なので! だめなんです!」
エクセレンが即座に否定した。
普通なら、王族の言葉を否定するというのは一大事だ。
無礼なことでもあるし、騎士や兵士が詰めかけてきそうなものだが……。
謁見の間に流れた空気は、やっぱりね……みたいな緩いものだった。
「やっぱりか。よいよい、気にするな。実のところ、そなたらを雇い入れたところで我が国には、そなたらを武力専門でやらせておくだけの余裕がない。応と言ってくれたとしても、そなたらには日々の雑務をやってもらうことになっておった」
ハシタテ十六世が肩をすくめた。
「やはり。資源がない国だからな。誰もが働かなければやっていけないと思っていた」
ウインドの見立てである。
「この国はな、北と南を行き来する人々からちょっとだけ上がりをもらって暮らしているのだ。だから毎日がカツカツでな。しかし自由だ! 自由を捨てれば安定する。だが我々は自由を愛する!」
ハシタテ王が宣言すると、謁見の間に集った人々がワーッと喝采した。
「なるほど、これは変わり者の国だ」
だが嫌いではない。
俺の顔に笑みが浮かんできてしまっていた。
「ということで用は済んだぞ。呼び立てて悪かったな。今日もまた仕事をしていくがよい」
王はそう言って、謁見を終わらせたのだった。
帰り際に見ていると、玉座から王が立ち上がる。
臣下は玉座をひょいっと持ち上げ、回収していく。表向き金色に塗られているだけで、木製で軽いようだ。
そして国王も軽い足取りで謁見の間の後ろにあった、ハンドルらしきものをぐるぐる回した。
上から梯子が降りてくる。
「上の部屋まで梯子で行くんですねえ!」
「うむ、合理的な作りだな。そして見てみよ。壁だと思っていたものは折りたたみ式の机だ。これを謁見の間であった場所に広げると、なるほど、ブリッジスタン城は国の有識者たちの議場にもなっているのだな」
あっという間に、そこは商売のための場になっていた。
どこどこからの通行税が幾らだとか、食材を仕入れるのに幾らだとかいう話が飛び交い始めている。
ここはとてもたくましい国なのだ。
「俺はこの国、好きだな」
「拙者もな。橋の上にあるというのに、どこよりも地に足のついた国よ」
「そうか? ナゾマーの集落とそう変わらないじゃないか」
ウインドが首を傾げた。
森の集落と、一つの王国が似たようなシステムで動いている事自体が変わっているのだ。
「ああ、それと言い忘れていた!」
突然、入り口脇の梯子から降りてきた男がそんな事を言った。
見覚えがあるが、一瞬誰だか分からない。
「国王なのじゃ!」
「ええっ、本当か!?」
よく見ると確かに国王だ。
作業服姿で、道具を背中に背負ってはいるが。
「いかにも。余はハシタテ十六世だ。これから橋の補修工事に出かけるのでな。余がこの国でもっとも優れた橋の補修技術を持っている。だがその話はいい。よいかそなたら。この橋は千年前の勇者の頃よりも、もっと古い時代からある。そこには秘められた力がある……ように思うかも知れないが、特に何もない。少なくとも余は知らぬ。だから何かを探すなら自力でやってもらうことになるぞ。あるいは金を使って、国民を雇ってくれても良い! むしろ雇ってくれ」
「分かったよ、国王陛下」
「うむ! ではな!」
ハシタテ王は小走りで行ってしまった。
「変わった王じゃのう!」
ディアボラまでもが言うなら、本当に変わった国と王なんだろうな。
「それでマイティ、どうなんでしょう。勇者に関係することがまだ他にありそうですか?」
「どうだろうな。それこそ、エクセレンの左手に聞いてみる方がいいんじゃないか?」
「カノンナックルですね! おーい、カノンナックルー」
エクセレンが呼びかけると、ナックルが起動した。
「何かこの国に、秘められた力とかそういうのは無いですか?」
『多分ない』
「多分って言ったのじゃ」
「よくできているゴーレムであるなあ……」
「生きているみたいだ。ちょっと調べても……」
そんな話をしながら、俺たちは橋の王国をぶらぶらする。
途中で、商人の荷馬車が横倒しになっていたので、崩れた荷を戻す手伝いをした。
駄賃をもらう。
国王が命綱を付けて、せっせと橋の側面を補修している光景も見た。
覗き込んだディアボラが手を振ると、国王も手を振り返した。
そして、我らがパーティーの魔法使いがピタリと動きを止める。
「あれっ、これはもしかして……」
「どうしたんだディアボラ」
「うむ。この橋、側面に儀式魔法が刻まれておるのじゃ!!」
何やら、凄いことに気付いたのである。
橋の街にはやはり秘密が隠されていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます