第54話 仲良くなるためにはお互いの食べ物を交換するといい
ナゾマーの民は、挨拶こそにこやかだったものの、俺たちを遠巻きにするばかりで近づいてこない。
食べないの発言があったが、あれはどうやらナゾマーの民が、かつて打ち倒した強い敵を食べることで、その力を体に取り込む風習を持っていた名残だとか。
「実際に魔法の儀式を行いながら食べるから、素質がある者が強い敵の力を手に入れる」
「儀式魔法のサクリファイスじゃな! 生贄そのものを目的とする魔法で、生贄は実は死んでても構わんのじゃが、生まれたエネルギーを特定の誰かに注ぎ込んでレベルアップさせる魔法じゃ!」
ディアボラが早口で喋った。
さすが、儀式魔法に詳しい。
「そうでしたか! 食べられたりしないんですね。安心しました!」
いつでも武器を抜ける態勢だったエクセレンが、緊張を解いた。
だんだん、常在戦場って感じになってきてるな。
勇者である間はそれでいいかも知れない。
「こういう時は、こっちの食べ物を相手にあげるといいと聞いたことがあるぞ」
俺が提案する。
お互いの食べ物を交換し、目の前で食べ合うことで打ち解けやすいとか。
俺は保存食をゴソゴソと取り出した。
干し肉とビスケットである。
「これをやろう。友好の証だ」
「では拙者も」
ジュウザが兵糧丸を取り出した。
それはどうなんだろうな……。
ナゾマーの民は、これを嬉しそうに受け取り口に運ぶ。
その姿を、集落の民がみんなで見ているのだ。
「うむ、保存して持ち運ぶ食事だ。よくできている。美味い」
彼がそう感想を告げたので、周囲の人々もホッとしたようである。
わいわいと近づいてくる。
中には、森で採れるのであろう、木の実なんかを持っている人もいる。
これと、俺たちの保存食を物々交換だ。
「俺たちは勇者パーティーで、俺は一応代表をしているマイティ。こっちが勇者のエクセレン」
「よろしくお願いします!」
「ニンジャのジュウザと、魔法を使うディアボラだ」
「よろしく頼む」
「よろしくなのじゃー」
俺たちを案内してきたナゾマーの民は、頷くと自らを指差した。
「緑の風と呼ばれている。ウインドと呼ぶといい。我らナゾマーの民は個別の名前を持たない。その者ができることで、自然になぞらえてあだ名を付ける」
そういう文化らしい。
「親しいものにはあだ名を付ける。俺がお前たちと行動して、あだ名を考えることになるだろう。よろしく」
「よろしくなウインド」
「あだ名付けられるんですね! 楽しみです! ボクの村だと、キョウとかがボクのことをヘボセレンとか呼んでたんですよ! ヘボだから前に出るな俺がやるとか! シツレイですよねえ!」
これを聞いたウインドが首を傾げた。
「そのキョウという者が男ならば、それはつまりお前のことを」
「まあまあまあ」
俺とジュウザでウインドにその先を言わせないのである。
悲しいが終わった話なのだ。
キョウの素直じゃない恋みたいなのはもう終わっているのだ。
ウインドが、ははーん、みたいな顔になった。
なんとなく俺たちで分かり合ってしまう。
「あれだけの年になったのならば、ひねくれた幼さは横に置いて、思いの丈をすべて伝えるべきだ。つがいになる機会を失ったショックは引きずるぞ」
「専門家だな……」
「俺はそうして妻を得た。実体験だ」
「妻帯者であったか」
「もう別れたがな」
こうして、ナゾマーの民ウインドに案内され、集落を歩き回ることになった。
「森にもお前たちが教会と呼ぶものはある。だが、それは強い守りによって我々を拒んでいる。集落から離れた土地にそれはあり、守り手の巨人が周囲を徘徊している」
「ほう、巨人が」
「遺跡を守る巨人みたいなものなのじゃな。スプリガンじゃろうなあ。あれは神が遣わした眷属なのじゃが、融通が全く効かないのじゃー」
「そんなものがいるんだなあ」
お陰で、ナゾマーの民たちもおいそれと近づけないでいるらしい。
そういう荒事が絡むならば、俺たちが専門家だ。
「スプリガンですか? やっつければいいんですね! やっつけましょう!!」
エクセレンはやる気満々。
「そうだな。来たついでにやっつけちまうか」
「話が早くて良いな」
「わしは今回見てるだけで良いのじゃ? もし仕事があるなら今から魔法陣を書いておかねばなのじゃー」
「待つのだエクセレントマイティ!」
慌てるウインド。
「決断が早すぎる。重要時を食事に使う器を決めるような容易さで決定することは、勧められない。巨人がいるのにも理由がある」
ナゾマーの民の言い回しだろうか。
「長老の言い伝えを聞くとか、集落周辺の遺跡を調べるなどをやってほしい」
「段取りを踏んでくれというわけか。確かにな。なんでスプリガンが教会を守ってるのかとか理由があるだろうし」
「拙者ら、力で解決できるならば力押しで行ってしまうところがある故な。そのお陰で、ライトダーク城ではエクセレンが操られることになってしまった」
「もうー! その話はやめてくださいよう! ボクすっごく恥ずかしいと思ってるんだからー!!」
確かに、ライトダーク城のような事態を繰り返すわけにはいかないな。
焦る仕事でも無いわけだし、ここはきちんと下調べをしてから教会に向かった方が良さそうだ。
「ところでな! 森ではおかしなことは起こってないのじゃ? 魔将が出てきたりとかしてないのじゃ?」
ディアボラに質問されて、ウインドは目を丸くした。
「何も起こっていない。空で赤い星が、大きな音を立てて消えたことくらいだ。あれはナゾマーのシャーマンが祈りを捧げたので解決した。気付いていないか。森の周辺には、悪しき者が入ってこないようにする結界が張られている。シャーマンが作ったものだ」
「ほう、そんなものが」
「お前たちが入って来られたのは、お前たちが悪ではないからだ。だからお前たちに射掛けた矢は殺さないためのものだった」
「なるほどな……。では、悪いやつが無理やり入ってこようとしたらどうなるんだ?」
「結界が防ぐ。防げないほど強い悪ならば、結界が音を立てて砕けるだろう。だがそんなことは、今まで一度も無かった」
安心しろ、と笑うウインドなのだった。
強い悪が入ってくると、結界が砕けるねえ……。
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