第53話 現地人と接触したら外国人が久々だったらしい

「どれ、あぶり出してやるとしよう!」


 ジュウザが駆けながら投擲用ダガーを構えた。


「待て、ジュウザ。明らかに矢の勢いが弱い。それにほら」


 ポトンと地面に落ちた矢を指差す。

 その戦端には鏃は付いておらず、丸く削られた木片がくっついていた。


 当たると痛いものの、突き刺さることは絶対にない。

 鎧の上からなら、ダメージだって無いはずだ。

 そして矢は俺を狙って放たれた。


 他の仲間たちが薄着だったにも関わらずだ。


「ということで、恐らく敵意はそんなにないと思う。見ているぞ、という警告なんじゃないか」


「なるほど。冷静だなマイティ。危うく拙者、クリティカルヒットでこの辺りを根こそぎ薙ぎ払うところだった」


「危ないなあ」


 ジュウザがカッとなると危険だな。

 この話を聞いて、エクセレンが矢の飛んできた方向に顔を向けた。


「こんにちはー!! 怪しいものじゃないですよー! 勇者の一行ですよー!!」


 一瞬、辺りの茂みがガサガサっと動いたと思ったら、ボソボソ相談する声が聞こえてきた。

 戸惑っている。


「これ、狩りをする時とか動揺しても静かじゃろ? 今ざわざわしてるのは、絶対にめちゃくちゃ戸惑ってるのじゃ」


「攻撃的な意志かと思ったら、どうすればいいか分からなくてとりあえず練習用の矢で威嚇してみた……的な状況であったか」


 つまり、敵意はない。


「よし、こっちから近づいてみよう」


 俺の提案で、そうすることになった。

 四人で茂みにのしのしと接近する。


 そうすると、隠れていた者たちが慌てた様子で立ち上がった。


「ま、ま、待て!! 止まれ! それ以上近づくな!」


 見た所、人間に見える人々だ。

 ちょっと耳が尖っている。

 薄着で露出度は高いのだが、外に出てる部分が赤い塗料で覆われていた。


「肌が赤いです!」


「あれは虫よけの樹液じゃな。そう言えば千年前も、暑いところだとこういう習慣があったの思い出したのじゃ。森以外じゃと土を使うのじゃー」


「なるほどー」


 エクセレンとディアボラの会話に、彼らは毒気を抜かれたらしい。

 何より、見た目は年若い少女ともっと小さい娘にしか見えないものな。


「見ての通り俺たちに敵意はないぞ」


「いやいやいや、森の中でその重武装をした者が何を言うか」


「あ、俺を警戒してたのか」


「他に誰を警戒する……。いや、そこの娘が全身に武器を纏っているのは気になるが」


「ボクですか? あのですね、ボクは勇者なので、色々武器を持っててですねー。これが棍棒で」


 エクセレンが身分証明証ともなる、聖なる棍棒を取り出した。

 一瞬、森の住人たちに緊張が走るが……すぐに、彼らは目をカッと見開いて動かなくなった。


 棍棒から出現した、二つの神々しいトゲを見たからである。

 一つは白い光のトゲ。

 もう一つは黄金色の星のトゲ。


「まさか……それは神の祝福……!!」


「千年間一度もそんな兆候は無かったと言うのに!」


 ざわつく森の住人たち。


「そもそも千年間、森の外に出ていなかったのではないか」


「敵意が無さそうな者は通るに任せていたからな」


 困っている困っている。

 彼らに困惑されても、こちらも話が進まない。


「森にある古い教会に用があるんだ。見ての通り、彼女は勇者でな。このトゲを増やして回っている。それというのも魔王が現れたからだ」


「教会! 勇者!? トゲ!? 魔王!?」


 森の人が目を回した。

 こりゃいかん、情報量が多すぎた。


 とりあえず、聖なる棍棒で信用はしてもらえたようである。

 神の威光はすごいな。

 誰が見ても聖なるものだって分かるからな、聖なる棍棒。


「我々はナゾマーの民だ。神に選ばれた者よ、古の盟約に従い、我々の集落に案内しよう」


 集落?

 王国じゃないのか。


 俺たちはナゾマーの民に誘われ、森の奥へと向かった。

 彼らが歩くと、木々が道を空けていくように見える。

 何かの魔法かな?


「ナゾマーの民とやら、エルフの末裔じゃな。エルフというのが昔おってな。絶滅寸前だったのじゃが、まあまあ美形揃いだったんで人間との混血が進んだのじゃ! で、今は純血のエルフは残って無くて、あやつらに血が受け継がれてるのじゃろうな」


「なるほど、エルフというのの子孫なのか」


 そんな話をしていたら、すぐにナゾマーの民の集落に到着した。

 と言っても、一見すると森の中にしか見えない。


 だが、木々の間の暗がりかと思ったら、黒い土で偽装した家だったり。

 倒木かと思ったらまるごとそれを利用した、半地下の家だったり。


 あちこちからナゾマーの民が顔を出すではないか。


 全体的に、耳が尖っていてやや細身である。


「外の世界の民が来た」


「初めて見た」


「耳が丸い」


 ざわざわしている。

 ここでディアボラが帽子を脱いで、角が生えているのを見せた。

 すると、ざわめきがどよめきに変わった。


「角!」


「外の世界の人間は角があるのか!?」


「だがあっちの娘はない」


 俺はディアボラの頭に帽子を被せ直した。


「混乱するだろう」


「つい反応が見てみたくなったのじゃ! しかしなんじゃのう。素朴な連中じゃのう! 森の王国というほどの規模では無いが、この辺りの森一帯が恐らく集落なのじゃ。大きな村くらいの人口がいそうなのじゃー」


「思ったよりもたくさんいるな。おーい、はじめまして。俺たちはエクセレントマイティ。勇者パーティーで、魔王と戦っているんだ」


 手を振ったら、小さい子どもたちが手を振り返してくれた。

 エクセレンもニコニコしながら手を振る。

 すると、大人たちも手を振り返してきた。


 みんなちょっと笑顔になる。


「はじめまして!」


「はじめまして、外の世界の勇者!」


「はじめましてー!」


 やはり挨拶は大切だ。


「ママー、あの人たちは食べられないの?」


「だめよ。神様から祝福を受けているすごいひとたちなのよ。食べたらバチが当たるわ」


 なんか不穏な言葉も聞こえたが、まあよしとしよう。

 


 




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