第50話 お前は地に落とすが星はずっと空にある
「うがー!!」
エクセレンがサーベルやナイフを振り回して攻撃してくる。
盾で受け止めるのは容易だが、彼女の攻撃は完全に食い止めることができないというのが特徴だ。
おう、久々にダメージを受けている感覚がある。
「しかし成長したな! 一撃一撃に必殺の信念が籠もっている! なるほど、今のエクセレンなら、一端の冒険者としてやっていけるだろう!」
「そんな事を言っている余裕はないぞ、マイティ! 占星術師がいるのだ!」
「あ、そう言えばいたな」
エクセレンの後ろで、俺たちを憎々しげに睨みつける占星術師の姿。
「し……師匠……! その姿は……!」
星のローブの下から、覗く顔が、輝く球体になっている。
球体の表面に一対の目が浮かんでおり、これが俺たちを睨んでいるのだ。
ついに星っぽいものになってしまったか。
『この国を守るために……国を平和に維持するためには、地の些事に関わる者たちを排除せねばならないのだ……。全ては星の導きのままに……』
「お前さん、この国に属する村を地すべりに飲み込ませようとしたのはどういう了見だ?」
『地の事は全て些事……! 地すべりなど大したことではあるまい!』
「おかしくなってやがるな」
「こりゃあ、あれじゃの。星とか空とか、地っていうキーワードに反応してる感じじゃな。とっくに理性はなくなってたんじゃろうよ」
「気をつけよ! あれに近寄ると、星のことしか考えられなくなるぞ! エクセレンはそれでやられた!」
「ははあ、そういう原理か。俺たちは星見の塔にやって来た侵入者だから、エクセレンはそれを排除しようとしていると」
「うがー!!」
「いてて! 流石はエクセレン、素晴らしい体力だな。絶えず攻撃を繰り出してくるぞ。ふーむ、なんかこう、いい言い回しは無いもんか」
俺がエクセレンを防ぎつつ考えている横で、スターズが必死に占星術師を説得しようとしている。
だが、彼の言葉は全く通じていないようだ。
魔将になってしまうことで、思考の形は人間とは違うものになってしまうのだろう。
「よし、ではエクセレン。真正面から突っ込むだけではダメだというレクチャーをしてやる。今回も正面から行って操られただろう」
「うがー!!」
「マイティ、エクセレンに言葉は届かぬ! 言っても忘れてしまうであろう!」
「いや、彼女の場合は野生の勘みたいなので覚えるから大丈夫だ。行くぞエクセレン。お前さんの攻撃を受け流す!」
「うが!」
一撃を、俺は盾の表面を滑らせながら流した。
すると、エクセレンは勢い余って占星術師に襲いかかる。
『な、なんだとウグワーッ!?』
エクセレンのガイストサーベルを深々と突き刺される占星術師。
目を見開いてわなわな震えている。
あいつ自身の戦闘力はそうでもないのか。
「星を降らせたりとかできないのか?」
『できる! だが、そんなことは星空に対する冒涜だ……。それに星が降れば、国のすべてが無くなってしまう』
「星空と国への愛が深すぎて何もできないタイプだぞこいつは」
「うがー!!」
またエクセレンがこっちに向かってきた。
さて、なかなかこれは厄介だぞ。
俺のガードがなければ占星術師には近づけないし、かと言って俺はエクセレンにつきっきりで……。
「よし、魔法陣に魔力がほどほど満ちた頃合いなのじゃ! よくぞ時間を稼いでくれたのじゃ!」
俺の尻の後ろに隠れていたディアボラが、元気な声を出した。
「何か使うのか!」
「うむ! こやつの能力は分かったのじゃから、対策をしたのじゃ! 行くぞ! 多重ランドスライダー!」
ディアボラが叫ぶと、床が、階段が動き出した。
今度は、さっきまでとは逆方向に動き出す。
つまり、階段が上にせり上がってくるのだ。
「どういうことだ?」
「このランドスライダーは城の外まで続いておるのじゃ! つまり、城の外の土をここまで運んでくるのじゃー!」
「なるほど!」
少し経ってから、猛烈な勢いで土砂が運び込まれてきた。
『うおわーっ!! な、なんだそれはーっ!! 星見の塔に土を! 土などを!!』
吹き出してきた土砂で、エクセレンが埋もれた。
「うーわー! あっ、ボクは今まで何を」
「正気に戻った!」
「地面そのものである土に埋もれたから、洗脳が解けたんだな。それから、塔が土で埋まり始めたから……」
ぐらり、と足場が傾いだ。
『お、お前ら、何をしたのだ!! この星見の塔に何をしたのだーっ!!』
「星見の塔はお前さんの力の源だったんだろうし、なんか呪縛のもとだろう? そいつが今、土の重みでへし折れるところだ」
『なんだとーっ!?』
地面がみしみしと音を立て始めた。
『やめろ! やめろーっ! この塔にどれだけの歴史があると思っている!』
「長い歴史があるという話は聞いてるし、リスペクトもする。だがまあ、あれだ。歴史の器である塔は、一度ぶっ壊れてしまってもよくないか?」
星見の塔は、長い歴史の中で老朽化していたのだろう。
許容量を越えた土の重みで、崩れていく。
『ああ、塔が! 塔が!』
「俺たちと一緒に地上に行こうぜ。お前さんは地に落ちる。地面に足を付けて、頭を冷やすこった」
ということで、ライトダーク王国が誇る星見の塔は、その日ポッキリとへし折れたのである。
大量の土砂が降り注ぎ、塔であった瓦礫が砂山に埋もれていく。
『おおおお……塔が……。星見の塔が……。これでは星を見ることができぬ……』
占星術師は砂山の前で嘆いた。
「何言ってるんだお前さん」
仲間たちをガードしながら、砂山に着地した俺。
占星術師の真横まで滑り降りる。
周囲はすっかり夜になっていた。
空には、星が瞬き始めている。
「地上からだってほら、星は見えるじゃないか。それに俺たちがこの国に来る時、山の上からもきれいに星が見えたぜ」
『おおお……』
占星術師は空を見上げる。
『星だ……。大地の上からでも、星は見えるのだな……』
「そりゃあそうだ。俺らが何をしてようと、星ってのはずーっとそこで輝いてるもんだろ。知らなかったのか」
『知らなかった。いや、忘れていた』
占星術師が俺を見る。
憑き物が落ちたような目だ。
そして彼はスターズを見た。
『私は空しか見えなくなっていた。お前は地も見よ』
「師匠……!」
『さらばだ』
そう告げると、占星術師の体が光った。
そして次の瞬間。
そこには何も無かった。
「逃げたのか?」
「死んだんじゃろうな。地に降りたら死ぬ魔将だったんじゃろう。地のことは些事とか言ってたからな。自分に呪いを掛けてたんじゃろうな」
「うーむ! 拙者、今回は身動きができなかった。不甲斐ない」
「ボクなんか操られちゃいました! 正面突破だけだとダメですねえ……」
「今回はみんな、反省することしきりだな」
反省会は後にしよう。
城の門から、国王と臣下のみんなが出てきたからだ。
だが一つ言えるのは、ライトダーク王国に伸ばされていた魔王の魔手は、断ち切られたということである。
パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:A
構成員:四名
名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:30→33
HP:300→351
MP:222→260
技 :魔技ミサイルスピン クイックドロー バックスタブ パイルバンカーブロウ
エンタングルブロウ
魔法:マジックミサイル(中級):派生ドリルマジックミサイル(中級) ヒール(中級) ライト(中級)
覚醒:シャイニング棍棒 グランド棍棒インパクト1 シャイニング斬 シャイニングアロー
武器:聖なる棍棒(第一段階) 鋼のショートソード 鋼のトマホーク ハルバード
ガイストサーベル 帝国の弓矢 魔王星の欠片
防具:チェインメイルアーマー(上質)
名前:マイティ
職業:タンク
Lv:87
HP:1250
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級) マッチング(中級)
ベクトルガード(初級)
魔法:なし
覚醒:フェイタルガード ディザスターガード2
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、??のビッグシールド
名前:ジュウザ・オーンガワラ
職業:ニンジャ(オーンガワラ流アークニンジャ)
Lv:84
HP:680
MP:535
技 :クリティカルヒット(特級) デックスアーマークラス(特級) ラビットムーブ(特級)
シュリケンスロー(特級) ハイド&シーク(特級)
魔法:カトン(特級) スイトン(特級) ドトン(特級)
覚醒:クリティカルヒット(極)
武器:投擲用ダガー
防具:なし
名前:ディアボラ
職業:アークメイジ
Lv:154
HP:490
MP:2600
技 :テレポート
魔法:(一部のみ記載)ヒーリングサークル ウォーブレス ステイシスサークル
メテオフォール ライジングメテオ ボルカニックゲイザー
ツイスター メイルシュトローム ランドスライダー
覚醒:魔法儀式行使
武器:儀式用ダガー
防具:魔将のローブ(サイズSS)
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